しがないプログラマが異世界ゴーレムで無双します。

みし

プロローグ


 エルフの森と呼ばれる広大な薄暗い森林の奥深く生暖かい風と共に陽光が真南から差し込んでいる。不意に異常に気がついたのはメイド型のゴーレムだ。


「御主人様、奇妙な物体がこちらに近づいています」


 俺は現在屋敷の中にいる。屋敷と言っても地下に畑や田んぼがあり、さらにその下に秘密基地があると言うイかれた屋敷だ。その屋敷の秘密基地の中からこちらに向かって来ている小型ゴーレム数体の対処を行っていた。小型ゴーレムはどうやら機動力に特化しており推定時速60kmで西から屋敷の方向に真っ直ぐ進んできている。この速度だと大凡10分後には、この家に辿りつくと思われる。しかし、既に不快な珍走団みたいな小型ゴーレムの駆動音が轟音として先に辿り着いていた。観測点の映像と着音のずれから大まかな距離まで分かってしまうぐらいにうるさい。轟音をかき消すため屋敷全体に防音魔法を起動する。防音魔法はノイズキャンセラの様な仕組みを持つ魔法だ。現実の音と逆位相の音を放出することで音を打ち消す魔法である。ただこの世界の音は波とは限らないので、実際にはどういう原理で魔法が構築されているのかは呪文コードを解析しないと分からない。もちろん魔法をかけるのは俺で無くメイドさんの仕事である。だって俺、そんな呪文知らないもん。


 小型ゴーレムは静音性を無視して速度に全振りている。しかし、これほどの轟音を垂れ流していれば確実に早い段階で対抗処置が可能である。今、俺がやっているように——とすれば、この速度でゴーレムを突き進めば相手を振り切れると恐らく敵は考えているのであろう。ところで時速60kmは確かに人間から見れば確かに速いが、他の魔物や動物などから見ればさほど速く無い事には気がつかなかったのだろうか?馬や野ウサギは全速力で全速力で70kmだせる個体が居るし、この世界にしか居ない竜族であれば常時100km以上の速度で飛行が可能だ。巨体の象ですら時速40kmを出すことができる。ちなみに象を敵陣に突撃させる戦術は古代に散々行われた戦術の一つでその主な目的は陣形を乱すことにある。当然ながらその対策はいくらでもある。その一つはザマの戦いで大スキピオがハンニバル相手に行った対象陣形があげられる。共和政ローマの司令官である大スキピオは同盟軍を併せて3万4000の兵と8700の騎兵を率い、兵5万と騎兵3000と象80頭を率いるハンニバル軍に対峙、ハンニバルは左右の騎兵の数量的不利を象でカバーしようとし、戦端が開かれるとローマ軍歩兵にむかって象を突撃させる。しかし、大スキピオの巧みな布陣により象の突撃はかわされ、象は序盤で戦線から離脱してしまう。最終的には騎兵の優位を出し切った大スキピオがハンニバル軍を包囲殲滅に持ち込み完勝した戦いである——まぁ、このあたりには象が居ないから今、象の事を考えるのは時間の無駄だが——それはともかく少数の速度特化型のゴーレムを投入しようと、その事実さえあらかじめ知ってさえすればいくらでも対処方法を考えることは可能なのだ。時速60kmの小規模珍走団の投入などそもそも戦術的な画期になり得ない。例えば頑丈な網を張っておきそこにゴーレムを誘導しまえばその時点で無力化可能だ。その小型ゴーレムを分析したところ速度に特化している分、軽量で脆いと言う致命的な弱点があるのだ。つまり網にかけて速度を奪ってしまえば、その瞬間に不細工な置物に早変わりである。強化魔法を多重掛けした重装歩兵と正面衝突させてもこの小型ゴーレムの方が吹っ飛んでぶっ壊れる事、確実なのだ。つまり戦場では役に経たない机上論だけで作られたゴーレムでは無いかと推察できる。

 そもそも、このゴーレムを送り込んだ連中は、このような陳腐な兵器で勝てると思っていたのだろうか、それとも未知への恐怖を利用して敵兵の恐慌を誘い、強行突破を狙った一回切りの戦術の為に用意したのだろうか、どちらにしてもコストパフォーマンスが最悪な気がする——とは言えその疑問や考察は後にすべきだ。近づいているゴーレムの即時無力化の優先順位の方が遙かに高い。だいたい俺の住んでいる場所が他の人間に知られたらめんどくさい。新聞取ってくださいとか保険に入りませんかとか、そう言う輩がひっきりなし来られると対応が面倒なのだ、正直、時間の無駄なので家に来られる前にさっさとお帰りくださるべきなのである(強弁)。今ですら面倒くさそうな連中が周辺を徘徊しているのだ。仮にそうなったら、もっと静かに過ごせる場所に引っ越ししなければならなくなる。俺はそんな場所知らないぞ……。そもそも引っ越しすら面倒だから出来れば同じ場所にずっと住み続けたいし……。


「目的は分かりませんがこの場所が知られるのは不味いです。全部叩き潰してきましょうか?」


 メイド・ゴーレムのミリアが言う。


「……い、いや。お前が行く方が目立つ気がするのだけど……。ここは最大戦力で一気に叩きつぶす」


 俺がキーボードを叩くと勢いよくゴーレムが飛翔していく。こいつはドローン型ゴーレムだ。大きさは親指ぐらい。諜報用である。ドローン型ゴーレムは大凡百体。これを広範囲に拡散させる。ドローン型ゴーレムはエルフの森に張り巡らされている魔道ネットワークを利用し中央処理装置セントラル・サーバーに視覚・聴覚情報を送信する。これにより戦場近辺の様子が手に取る様に分かる。無論森の木々にも魔道センサーが埋め込まれているのだが、より正確で細かいデータを収集するための措置である。


 中央処理装置セントラル・サーバーに集められた各種データは魔道回路にたたき込まれ呪文コードで処理されていく。一瞬のちにゴーレムの特性、弱点などが全てあきらかになる。


 同時に地下にある巨大ゴーレムを駆動する。ショートカットキーで巨大ゴーレム起動魔法プログラムを起動し、音声認証用呪文パスワードを唱えると巨大ゴーレムに魔力が注ぎ込まれ全身を光らせながら体内に魔力が満ちていく。そのままWASDのキーを叩いて巨大ゴーレムを自律歩行させ、備え付けの発射台まで移動させる。


 発射台への移動を目視で確認してからENTERを押すと18mの大きさがある巨大ゴーレムが発射台から射出される。そして着地する勢いで全ての小型ゴーレムが全て吹き飛ばされる。所詮、騒音が大きなだけの軽量ゴーレムである。大きな衝撃波を食らわせるだけで無力化完了である。あっけない勝利である。しかし、これが相手の最新鋭兵器なのだろうか——まぁ最新鋭兵器と言ってもパンジャンドラム的なものもあるから——などと思索にふけっていると隣から奇声があがる。


「ヒャッハー、残党狩りだぜ」


「いい……つ、からそう言うキャラになったのですか?ミリアさん」


「ミリアとお呼びくださいと何度も言ってますよね。ご主人様。ほんの冗談ですよ。小型ゴーレムはバランスを吹き飛んでぶっ倒れていますよね。それでは御主人様、素材を回収してまいります」


 メイドゴーレムにかかれば最先端のゴーレムも単なる素材扱いだ。俺は、このゴーレムの開発者にごめんと呟いた。聞こえないぐらいの小さないつもの声で。


 しばらくすると数体のゴーレムを引きずったメイドが帰ってくる。そのゴーレムは見るからに珍走団が乗りそうな形をしていた。そして、中央処理装置セントラル・サーバーから得た情報を元にゴーレムのコアを推測し、素早く全部抜き取る。


「……他には居ないよな……」


 こんなものが沢山居たら流石に怖いぞ。モヒカンがヒャッハーと言いながら突然襲いかかっている世界などゴメンだ。とは言え、この世界はモヒカンの代わりにゴブリンが襲ってくるので大差ない気がする。


「居ませんね。あっけなさ過ぎです」


「あ、後処理は任せた」


 ——疲れたので自室に戻ることにする。肉体は若返っても、やはりインドア派は外で遊ぶべきではないのだ。精神が疲れるのだ。しかし、この小型ゴーレムは誰が何の為に送り込んだろのだろう。平穏なひきこもり生活がかき乱される……そう考えると夜しか眠れなくなりそうだ。


 しかし、飛ばした巨大ゴーレムはどうやって回収しようか……。もしかして、あっちの存在がバレる方がヤバくない?ミリアさん、巨大ゴーレムの回収もよろしくお願いします。停止した巨大ゴーレムの見た目は大きな石にしか見えないだろうけど見る人が見たらわかりそうな気がするし……。

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