第11話 素っ頓狂、再降臨
この場の全員が思わず呆気に取られてしまった。
エレノアは勿論、あのローラも隠せない程に驚いている。
こうなればその意外性……もとい非常識の度合いも、かなりのものだと分かるだろう。
そんな中、私は自身の中に突如として浮上した「舌打ちしたい欲」を内心に留める事でかなり精いっぱいだった。
殿下達の方から私に言ってきた事だから、勝手に「少なくともこういうフライングの仕方はしないだろう」と思い込んでた。
が、最初からレイは私に頼る事に乗り気じゃなかったのか、それとも目の前に転がり込んできた可能性に舞い上がったか。
結果として彼女はマナーをかなぐり捨てて、自分の利に手を伸ばそうとしたわけだ。
「私、殿下と想いを通じ合わせているんです! だから」
だから王妃には私がなります。
彼女の主張はどうやらソレだ。
そんな彼女を眺めつつ、私は改めて「やはり彼女に王妃は無理だ」と思わずにはいられない。
気分が高まったにしても、流石にコレはあり得ない。
コレによって自分の心証がすこぶる悪くなる事も想像できないような彼女に、殿下の隣に居る資格は無い。
が、だからこそ私としては陛下の中の彼女の評価が勝手に下がっていく事は、実に都合が良い事だった。
ただ一つ気になる事があるとすれば、そもそもの計画から外れてしまった事だけど。
(このくらいなら、まだ修正可能だし)
正直言ってそれをするのは面倒だし、独断で動く彼女は邪魔だ。
だけどそれでも、私はある程度自信があった。
今日の私の目的は、ただ一つ。
私が殿下の妃候補から完璧に外れる事。
その為になら殿下の願いも叶えるし、国の未来だって憂う。
人の恋路の背中だって押す。
今回は別にエレノアが窮地に陥っている訳でもないし、そう難しい事じゃ――。
「えっ?! レイさんって、殿下のことが好きだったんですか?」
あぁもうホント、何でこうも予定外が立て続けに起きるのか。
エレノアのこの一声には、流石の私も思わず「あぁ」と声を漏らした。
(ついこの間、危うい立場になったばかりだっていうのに……何でこの子はこうも学習能力が無いというか、何というか)
否、多分無意識にやってしまう病気のようなものなのだ。
その証拠に彼女はやはり、まだ自分の言葉の重要性に気付いていない。
それにしても、彼女にはちゃんとお守りがついてた筈だ。
そう思って彼女の隣に視線を流せば、すぐに困ったような目をかち合った。
一体僕に、どうしろと?
言いかけの彼女の口を押さえにかかれば良いの?
どう考えても防止は無理でしょう。
彼の目がそんな風に訴えている。
なるほど確かにその通りだ。
いくら二人が気安い仲だと言ったって、王の目の前で淑女の口を押さえ込むなんて事、例え婚約者であったとしてもはしたなくて出来やしない。
しかしなるほど、隣に居た彼にも想像できなかったか。
まぁしかし私も実際に全く気付けなかった訳だからあまり強く責められないけれど、こうなってしまうともう実質エレノアは、公の場では止める事が誰にも出来ない存在になる。
公の場での『素っ頓狂』が、何より一番リスクが高いというのにも関わらず、だ。
こうなればもう、私たちに出来る事は精々事後フォローくらいなものだ。
もう他に手の施しようがない。
今回は、すべき事がまず一つある。
しかし事前に練っていた計画はしゃしゃり出てきたレイによって軌道修正を余儀なくされて、その上エレノアの今の言葉をフォローしなければならなくなった。
不幸中の幸いなのは、エレノアの言及が私のしたい事に掠っている事と、おそらく敵は同じという事だろう。
上手くやれば多分両者は両立できる。
それを上手くやるのが私の、今回のミッションだ。
(はーぁまったく、手の掛かる)
しかし彼女は親友だ。
放っておくわけにもいかないんだから仕方がない。
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