結局のところ、例の騒動の結末は
第17話 昔なじみの懐かしいローラ
とある昼下がり。
エレノアと共に、今とあるお茶会に招かれていた。
「あっ! コレとっても美味しいですよ、シシリー様!!」
そう言った彼女は、今日も相変わらずのマイペースさで元気一杯にクッキーをモグモグしている。
その様子に思わず苦笑しながらも、彼女に促されるままにクッキーを口に運んで「あ、本当に美味しいわ」と小さな声で呟いた。
すると別にお菓子を用意してくれた訳でもないエレノアが、何故か嬉しそうに「そうでしょう?」と相槌を打つ。
そんな風に、比較的和やかにお茶会は進行していた。
が、私とエレノアはあくまでも招待された側だ。
この場には、私たちを招待してくれたもう一人が存在する。
「ローラ様、コレはどちらのクッキーです?」
美味しかったのでそんな風に尋ねれば、このお茶会の主催者が柔らかい笑みを零してくれた。
「隣国の物なのですが、甘さが控えめで美味しいでしょう?」
「えぇ、とても」
彼女の答えに頷きながらもう一度クッキーへと手を伸ばす。
だってお世辞なんかじゃなく、本当に美味しいんだものこのクッキー。
今日のお茶会はローラ主催の非公式の場、招待されたのは私とエレノアの2人だけだ。
今回は、どうやら例の一件で迷惑を掛けた私たちへのお詫びの為のものらしい。
一応モルドにも声を掛けたようだけど、彼は「女性三人で楽しんでおいでよ」と笑って遠慮してくれた。
確かにローラも最近色々言われていているから鬱憤が溜まっているだろう。
彼の配慮の意味は分かるし「くれぐれもよろしく言っておいてよ」と言っていたので、そういう事だ先ほどきちんと彼女にも私が伝えておいた。
因みにエレノアもその話をしていた場に居て確かに頷いていた筈だったが、目の前のクッキーに夢中で頭からスッポリ抜けてしまってた。
その様があまりにエレノアらしくて、思わず笑ってしまったのはご愛敬だ。
なんて思っていると、ローラが頭を下げてくる。
「申し訳ありません、非公式なお茶会で」
非公式なものは、公式なものよりどうしても規模感やもてなし加減が劣る。
多分その事を謝っているのだろう。
しかし私はむしろこの形で良かったなと思っている。
「私もローラ様とゆっくり話したいと思っていましたし、この場でなら本音でお話しできますし」
久しぶりに肩肘張らずにお話がしたかったんです。
そう答えれば、彼女は嬉しそうに笑ってくれる。
「それなら良かったです。私もシシリー様とお話したいと思っていました。以前みたいに」
「ローラ様が殿下の婚約者になってからは、どうしてもお互いに距離を取らねばならなかったですから……」
彼女の言葉にそう答えながら苦笑すると、彼女も「それは仕方がない事ですよ」と言ってくれた。
「私の家とシシリー様の家は、派閥が違いますから。私が選ばれてしまった事でシシリー様を王妃に押し上げたかった方たちが煩かったのでしょう? 今までシシリー様がそちらの派閥をずっと押さえてくださっていた事は、私の耳にも入っていました」
何だバレてたのか。
そう思って私は笑う。
確かに彼女の言う通り、殿下の婚約者が決まって以降はローラを失脚させようという意見が派閥内あったのは事実だ。
しかしそれは、何も『未来の王妃としての彼女の地盤固めの為の時間確保』がしたかった訳じゃない。
「私は殿下の妃になる気はありません。それを阻止するための措置です。あくまでも自分の為ですよ」
結局のところ、私はそのために奔走し、彼女は彼女で王妃教育や人脈作りに精一杯だったのだ。
だから互いに個人的に付き合うような時間が取れず、その結果疎遠になってしまっていた。
それまでは、家格が合う同年代として敵対派閥同士でも個人の付き合いがあったのに。
「さぁ、今日はどんどん食べてくださいね。今回はお二人へのお詫びと感謝を込めたおもてなしでもあるのですから」
そう言いながら優しく微笑んだローラに私は思わず「いえいえ」と苦笑する。
「あまり持ち上げないでください。あくまでも私はこの子が放っておけなかっただけですし、あれは結局結果論ですから。むしろ、ローラ様の邪魔になってしまったのではないですか? 突然の事とは言え、ローラ様があそこで何一つ反論しなかった事がちょっと腑に落ちません。十分殿下を返り討ちにする事だって出来たでしょうに」
思い返せば彼女があの場で殿下の言葉に最初に「世迷言だ」と言い返した時からずっと、彼女には違和感を抱いていた。
私が知るローラなら絶対、あの状態であんな言葉を吹っ掛ければ彼が逆上する事なんて分かっていたに違いない。
社交的な手腕が鈍っていない事など、疎遠になっても聞こえてくるのだ。
十分分かって然るべきである。
最初は彼女も頭に血が昇ってポカをしたのかと思ったが、考えれば考える程おかしいと分かる。
その上彼女は私とエレノアが話をしている時もずっと、横やりを入れてくる気配は無かった。
だからずっと、おかしいなと思って気になっていた。
正直にそう告げると、彼女の方がおもむろに「知っていますか?」と聞いてきた。
「社交界ではあの一件、どうやら『私と貴方の合作』という事になっているらしいですよ?」
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