精神論の誤謬と訂正

同日、14時。県庁に災害医療の専門部署が設置された。災害派遣医療部隊ディーマットである。

出町柳未央奈が指示を飛ばしていると庁舎の外が騒がしくなった。

「きびたき?」

エンジン音に聞き覚えがあった。広域連合大病院直属のティルトローター機。

案の定、どやどやとWEB会議メンバーが乱入してきた。

「出町柳、破壊工作を今すぐやめるんだ」

議長は強い口調で命じた。

「再構築です」

未央奈は背を向けたまま応じない。

「いいや、犯罪だ。救える命をいたずらに選別している」

言われて未央奈はムッとした。だが売り言葉に買い言葉では時間の浪費だ。

この瞬間にも青息吐息の患者が死んでいく。そこで出方を変えた。

「『悪戯、闇雲』でなく適切だとしたら?」

議長は喰いついた。「適切かどうかは私が判断する」

かかった。

未央奈はにこやかに反論する。

「三次救急の受け入れ調整とICUの使用制限は『そちら』に権限がありましたわね?」

議長はぐっと言葉を詰まらせる。未央奈は医官法の付帯事項と関連法を検索して示した。

「しかし…出町柳」

「参謀本部は広域連合大病院WEB会議の役目です。どの命を優先すべきか医療従事者たちはバランス配分に悩んでいます。しかしこれはの問題であっての判断まで現場に任せるは酷じゃありませんこと?」

「どういう意味だね」

「現場は最前線を臨機応変に戦っています。しかし、この災害医療せんそうをどう戦って、何を犠牲にして、どう勝ちを得るかは不透明です。責任の所在が不明瞭だからです。戦略を練る指揮官が不在だとおもいませんか?」

いわれてみればそうだ。あの病院の院長や医師や看護師は根性論ばかりこねくりまわしていた。誰かが自己犠牲を払い、誰かを全体に捧げ、苦難を融通しあうだけでは、患者の命を奪う病魔に勝てない。

肝心の実働作戦が欠けているからだ。

「きびたきはフライングキャッチで捕食する習性がありましたよね? 飛んできたからには機動的に動いて下さい」

未央奈にやりこまられて議長はぐうの音も出ない。 

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