急進の小町、現着

「特務医官・出町柳未央奈、現着しました」

薫風にさっそうと黒髪をなびかせ、降り立つ。新明和UF-63V「さよなきどり」のXウイングティルトローター越しに太陽がはためく。未央奈は激しい嫉妬を感じた、人力では陰る事すらかなわぬ好天に。

TF34ターボファンエンジンが熱気を焙っている。次々と吐き出されるチームはそれを凌駕する闘志に溢れていた。浪南救急医療センターは医療崩壊の震源地だ。立て直しの急務を求められる最前線。

「急進の小町って君か」

センター長が白衣の天使をまじまじと見つめる。

「出町柳です。称号も階級もましてや属性も救急医療には関係ありません。救命の数が勲章です」

彼女はぴしゃりと言い放った。そして看護師の数を聞いた。

「男女合わせて…」

壁のスマートパネルを一瞥して「全然足りないわ」と指摘する。

示された要求にセンター長は驚く。「に、二倍?」

感染予防隔離ゾーニングのためのスペースは確保できています。しかし重症呼吸器不全の患者を体位変換する場合は防護服で完全装備する必要があり、しかも重労働です。最低でも二人介助は必要です」

「そ、そんな…」

センター長は頭を抱えた。


「今まで何をやっていたの?」

未央奈はモニターパネルの並ぶ部屋でスタッフをどやしつけた。感染症を含める以前に一般救急医療が崩壊していたのだ。交通事故などで重傷者が救急車を依頼しても適切な病院に搬送されない状況に陥っていた。

「第四波の変異株は従来より若年層に感染しやすいのよ。しかも発症から重症化まで48時間以内。従来株より待ち時間が短いの」

センター側は否定する。

「しかし、救急車はいっぱいいっぱいだ」

すると、未央奈は釈明者の肩越しにコンソールを操作した。

「ちょっと、勝手に…」

ウインドウが積み重なってリストがフルスクリーン表示される。

「デキサメサゾンは在庫してるじゃない。あたしの経験からいうとこれと酸素吸入を適切な段階で行わないと助かる命も助からないの」

担当者は出しゃばりな未央奈を睨みつけた。

「あんた、何様だよ」

即座に言い返す。

「災害医療担当医よ。これは人災なのよ!


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