第17話 開かれた禁忌の扉


ツカサとヒメナはアホどもが立てたずさんな計画を阻止するため、雲すらつきぬけるほどの大きさを誇る山に向かって走っていた。


「近づけば近づくほど思うけど、この山ほんと高いな」

既に結構な角度で首を傾けないと頂上部が見えない大山、通称「神山」を見てツカサはそう言う。


「私あの山の頂上に1回登ってみたいなー、絶対綺麗な景色見れると思うんだよ」

ヒメナは相変わらず呑気である。


そんな話をしているうちに山の麓に広がる森の始まりに到着した。

しかしその瞬間、森の奥から何かの衝撃が走り、大気の魔素が震えた。


「っ!…思っていたより順調に計画が進みすぎてるみたいだな、もう生贄を捧げたか」

ツカサはギリ、と苦虫を噛み潰したような顔をし森の中を駆け始めた。


「この感じはまずいかも、久々に全力で走ることにしますか」

ヒメナも少し焦った顔でそう言ったかと思うと、両腕から何本もの樹を生み出しツカサの前の全ての木々をなぎ倒しながら進み始めた。



――――――――――――――――――――



2人が到着していた時には既に惨劇となっていた。


禁忌の扉とされている<悪魔の獄門>は生贄として捧げられた20人の命を喰らうことで五体の悪魔をこの世に解き放っていた。


そして生贄を連れてきた教国の者は既に死に絶えていた。

そしてその死体も禍々しい扉が吸い込むように次々と噛み砕いて喰らっていく。


ツカサは流れるような動きで氷の刀を生み出し、悪魔の一体の首を切りとばす。

しかし悪魔は平然と動き首を再びくっ付けた。


「心臓潰さないと死なない、みたいな感じなのか?」

ツカサは再び悪魔に向かって駆け出す。

悪魔が放ってきた直径1メートルほどのいくつもの火の玉をギリギリなところで避け心臓があるであろう左胸に刀を突き立てる。

すると悪魔は汚らしい声で叫び、やがて動かなくなった。


この時ツカサの頭の中にはある思いが一瞬浮かび上がった。

「何故こうも一生懸命教国の計画を、悪魔たちを、どうにかしようと奮闘しているんだ?」と

しかしそんな考えまるでなかったかのようにすぐに消えた。



ヒメナは地面に手をつき、地面からいくつもの樹を生やし悪魔を固定したところで丁寧にとどめを刺していく。


ツカサが二体、ヒメナが三体悪魔を殺したところで事態は更に急変していくこととなる。



――――――――――――――――――――


「打てぇぇーー!!!」

それはそんな叫ぶような命令から始まった。


皮肉にもヒメナが薙ぎ払って作った道により到着が早まった悪魔攻撃部隊である。



教国が考えていた計画は単純なものだった。


言い伝えによる禁忌の門に生贄を与え、呼び出した悪魔を弱らせ従えることで自国の兵器として使う。

ただそれだけである。



悪魔を弱らせるために集められた戦力は、数千に及ぶ魔法使いや戦士に魔道具までもが大量に使われていた。



そして今何百人が一斉にはなった魔法が2人に襲いかかった。

しかしそんな魔法で2人が倒れるはずもなく、ヒメナは上空に飛び上がることで、ツカサは操作領域内で無理やり魔法を打ち消すことで無力化した。


それでも敵は揺るがない。

「まだまだぁ!打てぇー!!」

再び指揮をとっている男の掛け声で、地上にとどまっているツカサに向けて目も眩むような量の火の玉、風の刃、岩の弾丸、まれに雷の槍や光の矢までもが一直線に襲いかかる。


しかし上にいたヒメナはその魔法が目くらましだと分かった。

何故ならワンテンポ遅らせて、大砲で放たれた鉄球がツカサに向かっていたから。


しかしヒメナに焦りはない。

ツカサがただ速いだけの鉄球でどうにかなるとは思えなかったからだ。



しかしここでここにいる誰もが予想できなかったことが起きる。


ツカサは再び操作領域で全ての魔法を打ち消した。

そこで突然飛来した完全物理の鉄球。


ツカサは咄嗟に腕でガードした。

しかしダメージは無くとも鉄球の勢いはそのままツカサに伝わりツカサは後ろに吹き飛ぶこととなる。


そしてツカサの後ろには<悪魔の獄門>が存在した。

悪魔の獄門はツカサが吹き飛んでから直前にまるで口を開けるように異界への門を開いき、ツカサの姿はその中は吸い込まれていった。


その光景を見て取り乱したのはヒメナだった。

「ツカサあぁぁー!!」

反射的にまだ開いている異界への入り口飛び込もうとするが、そこでまともな思考回路が再開した。


「この門が開きっぱなしっていうのはさっきの人を食べていた時とはまた違う?じゃあツカサは生贄なったのでは無く、悪魔がいる世界に入ったと考えられる…か。」


激しい魔法の猛攻で立ち上がった土埃が落ち着くまでの数秒でヒメナは自分のすべきことを決めた。


「私がいますべきことは追いかけることでは無くここでツカサが帰ってくるのを待つこと。そして帰るためのこの門を守ること…。


よしっ、かかって来いやぁ、人間どもがぁ!」


ヒメナの1人対数千の兵と数千の兵器との戦いはこの時始まった。



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