第16話 教国の悪巧み


ツカサとヒメナはゆっくりと最上階のベランダに着地した。


ベランダは様々な植物が植えてあり、小さな庭園のような風貌だった。


ベランダの真ん中にはお茶をするためのテーブルも置いてあった。

ヒメナは綺麗、と呟きツカサは悪役なのに趣味はまともだ…と意味のわからないことを呟いていた。


その時ガチャ、と音がし誰かが入ってきた。

2人は急いでまた壁に張り付く。


「あーあ、今日も疲れた。最近会議ばっかりで参るよ。」

そう言いながら1人の侍女っぽい人を連れて、部屋に入ってきたのは若い男だった。


「確かに、最近は物騒な話ばかりのようですしね。一体なんのために独立したのやら…」

侍女(仮)はそう言い終えると深いため息を吐く。


「ほんとほんと、唯一の癒しはこのベランダとテイラー、君だけだよ」

若い男は軽い調子でそう言う。


「なに冗談言ってるんですか、一応教皇なんですからちゃっちゃと仕事してください。」

テイラーは全く照れることなく、ビシッと教皇を叱る。


壁に張り付いていたツカサとヒメナは突然の教皇出現にびくっとする。


「ちょっとぐらい照れてくれてもいいのに。まぁちゃんと責務は果たすからそう怒らないでくれよ」

若い教皇は山積みになった書類を片付け始めた。



それからはただ教皇が書類を片付けているだけの時間が続く。

ツカサがそろそろ帰るか?と言い始めた時、2人の潜入捜査が身を結ぶこととなる。




バンッと扉を開け放ったのは、大太りのおじさんと取り巻きっぽいのが3名。


「教皇様、会議でこのままあの計画を進める事とその計画に使う予算が決まりました。承認していただけますな?」

入ってきていきなり太ったおじさんはそうまくしたてた。


「分かった分かった。少し待ってくれ。」

教皇はそう言うと太いのが持ってきた書類にサインをして返した。


「ありがとうございます。これでこの国の安泰は約束されるでしょう。」

満足気な顔をした太いのは浅く頭を下げたかと思うと、すぐにまた部屋を出て行った。


「新聖勇者教会総会長ミッチャム、いつの間にか貴族みたいななりをするようになったな」

教皇は天井を見つめながらそんなことを呟く。




「ヒメナ、これは当たりをひいたんじゃないか?」

ツカサは極小の声でヒメナに話しかける。


「私もそう思う。…提案なんだけど中に入ってみない?」

そう言うヒメナはとても楽しそうだ。


そして2人はまず変装するための服と身分の調達から始めた




正直ツカサとヒメナ自身、全力を出せばこの大聖堂くらい制圧できるのは薄々分かっていた。

しかしそれでは面白みがないのだ。


人を殺すことに躊躇がないとはいえ、2人はあくまでこの世界を楽しんで生きたいだけなのだから。




――――――――――――――――――――



ツカサは白いに近い金髪の男から服を強奪し、ヒメナは黒髪がいなかったので髪を全て帽子の中に隠すスタイル人を見つけ教会服を頂いてきた。



「ふふっ、こんなにうまくいくとはね」

ヒメナは手で顔を隠しながらも楽しそうに笑った。


ツカサはそんなヒメナの様子を見て本来の目的とは違うが既に、ここに潜入した甲斐があったな、と謎の達成感に浸っていた。


そんなツカサの袖がヒメナによって引っ張られる。

思わず振り向くと、白くて綺麗な指が斜め上を指していた。


ツカサはその指の方向を見ると、最上階の部屋で見たミッチャムがのしのしと歩いていた。


2人は目を合わせると自然な立ち振る舞いでミッチャムの後をつける。


しばらく付いていくと明らかに豪華な扉が現れ、その中にミッチャムは入っていった。


身に纏っている装飾品といい、とりあえず価値の高そうなものを付ければいいと思ってそうなミッチャムは、是非教皇の庭園を見習って欲しいと思ったツカサとヒメナであった。



ヒメナは扉の隙間から樹を侵入させ、ミッチャムを声も出させぬまま拘束した。

ツカサとヒメナが部屋に入ると、ミッチャムは驚いた顔で何か言おうとしている。


「さてさて、計画とやらのことについて書いてあるのはどこにあるんだろうか?」

ツカサはパパッと周りを見渡した後、ミッチャムの目を覗き込んだ。


ミッチャムは言うつもりがないのか、目を逸らしなにも話すことはなかった。

ツカサは無言で氷の短刀を生み出し、ミッチャムの首筋を薄く切る。

するとミッチャムはガタガタと震え出し、棚を指差した。


ヒメナはその棚をガサガサ探っていると、本に紛れていくつかの書類を見つけた。


「やっぱり本人に聞くのが一番手っ取り早いな」

ツカサはそんなことを言いながらヒメナと手分けしてその書類を読み進めていく。


「これ、実現したらまずいことになるんじゃない?」

ヒメナはそう言いながらツカサの顔を見る。


「この計画通り進んでいるとすればもう斥候隊が到着してるころか?…やっぱり結果的にあの不気味な気配が漂う大山に向かうことになったな」

言葉こそめんどくさそうに言っているが、ツカサはまた未知の出来事に出会えるかもしれないとワクワクしていた。


「それじゃあここにもう用は無いし、アレの様子見に行こうよ」

ヒメナは既にやる気満々である。



ツカサはミッチャムのここ数分の記憶を消し、大聖堂を後にした。



さすがに可哀想に思ったのでちゃんと服は借りた強奪した人に返しにいきました。

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