第15話 冒険者より安定した職の方が良い


ツカサは二日酔いによる頭痛を感じながら、目を覚ました。


横を向くと一糸纏わぬ姿のヒメナがスヤスヤと寝ている。

髪をすくように頭を撫でると立ち上がり自分の顔を生み出した水で包み込む。


自分の顔を洗い口をゆすぐと、その水を窓から裏庭に捨てる。

そしてもう一度水を生み出すと次は体を水で洗う。


「ふわぁー、ツカサ…おはよ」

そこでヒメナが起きる。


「おはよー」


ヒメナも同じように顔と髪を洗い、水を捨て次に体を洗う。

そろそろ見慣れてきたとはいえ、朝日に照らされるヒメナの体はあまりに美しくツカサは思わず目線から外すようにした。


さすがに朝からするわけにはいかない、ただそれだけを考えなんとか理性を保つツカサであった。




それぞれ昨日に女性冒険者たちから昇格祝いでもらった服を来て、2人の1日が始まった。




――――――――――――――――――――


「こんにちはー、例の件どうでした?」

ヒメナは忙しそうにしているミタに話しかけた。


「支部長が「志願する人がいたら王都に来るよう言ってくれ」っていう伝言を受け取ってたらしいですから、王都に行って貰うことになります。」

そこまで言ったところであっ、と言って何かを取り出してきた。


「これが王都までの地図です。大まかですが許してくださいね」

そう言ってミタは再び小走りでカウンターの奥に行ってしまった。


「居酒屋業を再開してから忙しそうだね」

ヒメナが周りを見渡しながらそう言った。


「せっかくだしちょっと飲むっていうのは…?」

ツカサは恐る恐るヒメナの顔をうかがう。


「仕方ないなー、1杯だけなら許す」

ヒメナも周りで美味しそうに酒を飲む冒険者たちを見て、羨ましく思っていたところなので特に咎めることは無かった。


「「かんぱーい」」

2人は朝から酒を飲むという大罪を冒した。


「ふー、美味いわ、こっちに来てよかった」

しっかり未成年のツカサは既に酒の美味しさに取り憑かれていた。


「町に出てきた甲斐があったよ。王都はもっと美味しい酒があったら良いんだけど。」

少しうったりした顔でそう言うヒメナ。


2人とも王都に真っ当な教師になるということはすっかり忘れていた。





昼過ぎ、2人はついに町を出た。


「王都は方角的には東か、長い旅になりそうだ」

ツカサは進む方向を確認し、走り始める。

ヒメナもツカサに続いて走り始めた。



――――――――――――――――――――


一直線に走り続けて3日目、今までは小さな村をいくつか通り過ぎたくらいだったが、ここで初めて国と呼べる規模の人工物の集まり砂漠の土地の中で見つけた。


「どうする?行ってみるか?」

そう聞いて来たツカサにヒメナは

「もちろん、についてももしかしたら何かわかるかもしれないし」

と答えた。



2人は門の前に並ぶ列に加わった。


「ここはしっかり1人1人確認してるんだな、用心深いことだ。」

ツカサはあの町と大違いだな、と呟く。


ついに2人の番が回って来た。

「身分を証明できるものは?」

そう聞かれたので、2人とも冒険者であることを証明するカードを見せた。

「冒険者か、よし通っていいぞ」

割とすんなり通れた。


「いやー、このカードさまさまです。なんか階級の恩恵もあったみたいだし。」

ヒメナはそう言いながら振り返り、持ち物を1つ1つ確認されているみすぼらしい格好の冒険者を見た。



ツカサはそうだな、とだけ答え町の様子を見ていた。


町の建物のほとんどは白く、統一感が自然と綺麗な街並みに錯覚されるようだった。


とりあえず2人は休憩がてらに近くにあった店に入った。

適当に食べ物を頼み、一息ついた。


「砂漠ってめっちゃ喉乾くなぁ」

ヒメナはパタパタと服を仰ぎながら、魔法で生み出した水をゴクゴク飲む。


しばらく雑談をしていると、食べ物が届く。

「旅人さんかい?申し訳ないが、最近はどんどん土地も枯れて来て少し粗末な料理になってしまった」

その言葉にツカサは反応する。

「この辺が砂漠になったのは最近になってからなのか?」


「えぇ、ほんの5年前はこんなことはなかったんだが、教会のお偉いさん方が何やら実験を始めると宣言したあたりから土地は枯れ始め今に至るってとこだねぇ」


ヒメナは適当に女店主の話のある部分に引っかかりを覚えた。

「この国を治めてるのって王族じゃなくて教会なんですか?」


ヒメナのその言葉に女店主は驚いた顔をする。

「そんなことも知らずにやってきたのかい?ここは第3教国といって第1教国から分裂した国だよ。」


ツカサはなるほどな、と答えそこ会話を切った。

「いろいろ教えてもらって助かったよ」

そして2人は料理を食べ始めた。



店主が離れたところで、ツカサはヒメナに話しかける。

「俺は是非とも愚王の顔を拝みに行くついでに、アレについてのことも調べるためあの馬鹿でかい建物に潜入でもしようかと思うんだがどうする?」


ヒメナはツカサと同じようにニヤリと笑い、

「そんな楽しそうなことやるしかないでしょ」

そう言い切った。




30分後、2人は思い切ると行動は早い。


既に大聖堂と呼ばれる建物の壁をよじ登っていた。

「魔法って便利だな、こんなツルツルの壁も登れるし」

ツカサは土魔法で壁に凹凸を作り、それを使って安全綱無しのロッククライミングをしていた。

ちなみにヒメナは体から生み出した樹を凹凸に引っ掛けて登っているので本人は全く疲れていなかったりする。


既に高さは50メートルを超えている。

落ちたら即死という本来なら足が竦みあがる状況においてツカサは全くの平常心だった。


まさかこんなところで改めて自分が人ではないことを思い知らされるとはな、

とツカサは呟きポリポリと頭をかくと、再び登り始めた。




人の入ることのできない窓がいくつかあり、外から覗くと中にはたくさんの兵が警備しているのが見えた。


しかしツカサとヒメナがいるのは壁の外。

一度も見つかることなく、最上階の部屋に難なくたどり着いたのだった。

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