第13話 働かざるもの食うべからず


まだ朝日が半分ほどしか出ていない朝早く、ツカサとヒメナは念願の(主にツカサの)冒険者組合の受付所に来ていた。


場所は優しそうな顔の店主が丁寧に教えてくれたためすぐに分かったのだ。


「早く来すぎたか?全然人がいないな」

ツカサとしては活気がありワイワイしているのが見たかったので、少し残念そうな顔をする。


「まぁとりあえずあれ、売りに行こうよ」

ヒメナはツカサの袖をクイクイと引っ張り、催促する。

ツカサはこういう仕草って本当に可愛いな、などと思ったが恥ずかしいので口には出さなかった。


受付所は夜中以外開いていて、それは扉が開いているか閉まっているかで分かるのだとか。


中に入ると正面の受付に1人だけ職員らしき人がうつ伏せで寝ていた。

「おーい?一応魔物の素材を売りは来たんだが」

ツカサがそう声をかけると、受付の女性は慌てて起き上がった。

「も、申し訳ない。まさかこの時間帯に来る人がいるとは思わず…。私は受付担当のミタと言います。」

少し恥ずかしそうにはにかむ受付の嬢はすぐにシャキッと姿勢を正し、真面目な顔になった。

「それで本日の要件はなんでしょうか?」

「俺らがして欲しいのは冒険者登録と素材の買取だ」

ツカサも端的にそう答える。

ミタは聞いたことのない組み合わせで首をかしげる。

「えーと、まだ冒険者登録はしていない、けど魔物の素材買取?…とりあえず冒険者登録からしますね」

しかしすぐに持ち直し、作業を再開した。


「冒険者にはいくつも種類があります。1つ目は戦闘専門、2つ目は採取専門、3つ目は家事の手伝いや人探しなどの何でも屋の3つに大きく分かれています。

また個人の活動以外にも戦闘専門と何でも屋には戦争に参加する兵として雇われることもあります。どの分野を選びますか?」


ミタはマニュアルを暗記しているのか、噛むことなくスラスラと読み上げるように説明をしてくれた。


「じゃあ戦闘専門で」

ツカサは特に迷うこともなく決める。

「私もツカサと同じで」

ヒメナも即決した。


「分かりました、手続きしてくるので待っててください。」

ミタはそれだけいうと奥の方は引っ込んでしまった。


ツカサは受付所をゆっくり見渡す。

「お、あれが依頼板か」

ツカサは無造作にしかし重ならないように沢山の紙が貼り付けられた掲示板に近づいた。


「これを管理してるって思うとここで働いてる人って凄いよね」

ツカサは純粋な瞳でそう言うヒメナの横顔を見ると、何となく触ってみたくなった。


ツカサは衝動に流されるまま、ヒメナのほっぺたをつついてみる。

「どうしたの?」

不思議そうな顔をするヒメナ

「いや、何となく触ってみたくなった?」

ツカサはヒメナの柔らかいほっぺたを優しく撫でていく。

次第に心地よさそうな顔をするヒメナに引き寄せられるように顔を近づけ…


そこでカウンターから大きめの咳払いが発せられる。

「「うわっ」」

ツカサはまたヒメナの美貌に理性を持っていかれていたことに気づき、僅かに照れる。

「手続きおわりましたよ、これで晴れて冒険者です。その首筋のあざを見た感じ相当な才能を秘めていそうですし活躍楽しみにしてますよ。

それで買取もすると言ってましたが素材はありますか?」

ツカサとヒメナはほほぉー、と数秒冒険者証明書を眺めるとゴソゴソと自分の袋を探り始めた。


「俺があるのはこんだけだ。」

ツカサは袋からオオカミの骨や爪、また熊の魔物の爪も数本ずつ持って来ていた。


「私はこれです」

ヒメナは不味いと評判(2人の間で)の亀のの甲羅の一部とツカサと同じくオオカミ類の骨や爪が少々入っていた。


「少々お待ちください。今担当のものを読んで来ますので。」

ミタは思っていたより多めだったので、急いで鑑定士を呼びに行った。

特にあの甲羅はなかなか出回らない希少価値の高いものだからだ。


ミタが誰がを呼びに行って数分、寝癖そのままおじさんが出て来た。


「全く誰だよ、こんな朝早くに大量の素材持って来たやつはよう」

整えられていない髭と乱暴な口調がよく似合っていた。


しかしツカサの姿を見るなり、半目だった目をしっかりと見開き

「俺の勘だがあんたただもんじゃないだろ、いやお嬢ちゃんからもなんか嫌な予感がするよ。」

鑑定士の男は冷や汗を浮かべながらそう言った。

しかしそんな会話をしつつも、鑑定を進めていく男はまさに仕事人と言えるだろう。


「さてさて?俺やヒメナどう見ても一般人だろう?」

ツカサは無闇に自己紹介するつもりもなかったので、適当にごまかす方針を選んだ。


しかし男はそれ以上聞いてくることはなく、ツカサは上から目線でしつこくない男はモテるぞ、と褒める。


男が鑑定している間、2人は所々に置いてあるテーブルに腰を下ろしダラダラしていた。

「空間を広げてものを入れる魔法みたいなのがあったら便利なんだけどなぁ」

ツカサはぽろっとそんなことを呟く。


「それ聞くの5回目。ツカサならもう少し演算速度上げれば空間魔法も使えるんじゃない?」

顔をテーブルに突っ伏したまま、ヒメナはそう答える。


魔法は魔法陣を描かないと何も始まらないので暗記する必要があるのだが、空間魔法などの特殊な魔法はその場その場で微調整する必要があるのだ。


「要は算盤マスターになればいいわけなんだが…」

ヒメナは顔をあげ、そうブツブツ独り言を言っているツカサの頭を弄っていると、ツカサは突然顔をあげ

「学校に行けばいいんじゃないか?」

名案を思いついた、と言うツカサの声が静かな受付所に響いた。


「学院に興味があるんですか?」

鑑定士を後ろで見守っていたミタがツカサの声に反応した。

「学院…まぁそんな感じだな」

ツカサはまさかミタが食いつくとは思わず、少し戸惑いつつそう返す。

「ちょうど今教師の募集が出てますよ、ほら」

ミタはどこからか書類を持ち出し、ツカサの前に広げた。

「あ、でも2級冒険者以上ですね」

ミタは募集条件に目を通したのか、少し残念そうにそう言った。

「冒険者には階級みたいなのがあるんですか?」

と聞いたのはヒメナだ。

ツカサは顔には出さなかったものの、内心感動していた。


「えぇ、一番下の8級から1級まだ存在します。戦闘専門は最も人の入れ替わりが多いですね。」

ツカサはミタの説明に特に反応を示さず、質問を重ねる。

「どうやったら昇格できるんだ?」


ミタはテーブルの上に置かれていたツカサの証明書を持ち裏返す。

「依頼をこなしたり一定量の素材を持ち込んだ場合、ここに組合のハンコを押します。それが最後の枠まで押されたとき昇格できる仕組みですね」

ちゃんとしたスタンプカードだった。

ミタの説明はまだ続く。

「しかしその制度は4級までで、3級からは定期的に行われる一斉試験で合格しなければ昇格できません。試験っていっても戦闘専門ならただ先輩冒険者と戦うだけですが。

ちょうど3日後が試験日なので見学してみては?」

ミタは丁寧に試験日のことまで教えてくれた。

そしてツカサはそのミタが教えてくれた情報によってここ数日やることが決まった。


「ヒメナ、目標は3日間で4級昇格にしよう。」

ヒメナはその言葉に対して驚くことはなく、言葉には呆れの感情が含まれていた。

「説明聞いてて薄々そう言うかと思ってた。これは忙しくなるぁ、はあ」

2人のやりとりを聞いてミタが頭の上に?を生やしていると鑑定士の男から声がかかる。


「素材はほとんど痛んでないし、合計小金貨2枚と銀貨3枚ってとこか、あんたは継承者の中でも特に飛び抜けた戦闘センスがあるみたいだな」

ミタはツカサとヒメナの証明カードにハンコを4つ押した。

ハンコは銀貨5枚分の素材で1つのようだ。

「朝から狩ってきた甲斐があったな」

ツカサはお金を受け取り、ホクホク顔でそう言う。


「ほら、これから死ぬほど往復するんでしょ、早く依頼選んで行かないと」

そんなツカサとは違いヒメナは子供を叱りつけるようにそう言った。


「あっ!依頼は「8級から」と書かれているものから選んでくださいね!」

言い忘れていたっ、とミタは大きめの声でそう言った。


ヒメナはあらかじめやる依頼を覚えていたのか何枚かパパッと取り、ミタに渡す。



そうしてツカサの手を掴み、慌ただしく受付所を出て行った。



「ありゃ男の方が尻に敷かれるタイプだな…」

鑑定士の男の声が静かな受付所に響いた。







通貨の説明をする場面を作ることができず、不本意ながらここで説明しときます。


鉄貨 だいたい10円

銅貨 だいたい100円

銀貨 だいたい1000円

小金貨 だいたい1万円

金貨 だいたい10万円

白金貨 だいたい100万円


こんな感じで行きます

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