第12話 街暮らし始めました。
ツカサとヒメナは若干混乱した。
確かにさっき人を殺したが、そんなに構えられているとは思っていなかったからだ。
しかし実際は人を殺した者というより、あり得ないほどの魔力を垂れ流し森の奥から魔物を追い出してきた化け物という認識だった。
武器を構えた集団の1人が叫ぶ。
「お前らが追い出した魔物のせいで何人が死んだと思ってる!俺たちが何をしたっていうんだ!」
ここでツカサとヒメナは初めて自分たちがどう認識をされているのかを理解した。
「もしかして魔臓の食いすぎで、溢れた魔力が弱い魔物を追い出してたんじゃないか?」
ツカサはこの一瞬で思いついた原因をコソッとヒメナに耳打ちする。
そしてヒメナはあーそれだ。と小さく呟く。
ここで選ぶのは二択、
皆殺しにするか、誤解が解けるか試してみるか。
「いや、待てよ?」
ツカサは名案を思いついた。
ツカサはまず武器を構えて動かない者たちが全員入るくらいの操作領域を広げる。
後衛として控えていた魔法使いっぽい格好をした人は、真っ先に自分が操作領域に覆われていると気づいたのか逃げようとするが、そんなことをみすみす許すツカサではない。
横から何をするつもり?という視線が突き刺さるがとりあえずスルー
ツカサはいつもより丁寧に魔法を発動する。
「記憶改竄」
ツカサが言葉発した瞬間、武器を構えた人たち全員がただ棒立ちするカカシとなってしまった。
「えぇ!?本当に何してんの?」
透き通る声で突っ込むヒメナ、しかし一生懸命記憶を改竄しているツカサには届かない。
数分後、ツカサはおでこを手の甲で拭い一仕事終えたっ、とスッキリとした顔を見せた。
ツカサが振り返ると、ジト目のヒメナがいた。
「ま、まぁちゃんと俺らを見た記憶は消したし、普通に街に入れるはず…だよ?」
ツカサは必死にヒメナの機嫌を取り戻そうと頑張ったが、ほとんど成果は出なかった。
後半はヒメナが必死になっているツカサ見るためだけに拗ねている演技をしていただけだったが。
――――――――――――――――――――
歩くこと数時間、やっと街にたどり着くことができた。
街は10メートルはあるであろう壁で囲まれていて、門のところには鎧を着た門番が立っていた。
ツカサはやっと異世界らしいことができる、と息巻いて門を通り抜けた。
「「おぉ〜」」
街の中は活気にあふれていた。
大きめの通りの両側には屋台のような店が広がり、食べ物が焼ける匂いが辺りに漂う。
ツカサははぐれないようにヒメナの手を握り、街を散策した。
その目的はどんな店があるのかを確認することだったが、ツカサにとって散策は使命といっても過言ではない1つの目的のためにしていようなものだった。
それこそ例の冒険者と呼ばれる職業である。
ツカサは森で囲まれた時から、あの人たちの職業が冒険者なのでは?と考えていた。
そして街を歩き回っていると、すれ違いざまに軽装備ではあるが武器を携帯している人を度々見かけたので、自然とツカサの顔には笑みがこぼれた。
そう、ヒメナのことをゲスな目で見てくる通行人すらなんとか無視できる程度には、ツカサは上機嫌だったのだ。
一方ヒメナは始め、ツカサがしっかりと会話をしてくれないのでまた拗ねようかかと思ったが、何やら楽しそうなツカサを見て、しばらく付き合ってあげようと思った。
自分をいやらしい目で見てくる通行人は話しかけてこない限り、殺さないでおこうと思う程度には上機嫌なヒメナであった。
そんな道中2人は運命の出会いを果たすこととなる。
それはどこからか突然漂ってきたのだ。
そうタレの匂いが!
2人は匂いが流れてくる方向に引き寄せられるように歩いていった。
するとそこには大繁盛している屋台が存在した。
そこでヒメナは残念なことに気づく。
「そういえば私たちお金持ってないじゃん」
ものすごく悲しそうな顔をするヒメナ。
しかしツカサの顔には負の感情は全くなく、
「そんなこともあるかと、殺した人からお金貰っときましたー」
めっちゃドヤ顔だった。
ヒメナは入手手口に微妙な顔になったが、あの美味しい匂いのするものと天秤にかけた瞬間どうでもよくなり、ツカサの手を引っ張りれたに並んだ。
待つこと数分、
「はいよっ、串焼き二本!べっぴんさんにはちょっとだけ多めにしといてやったぜ?」
なんかヒメナだけちょっと多くなった。
見た目は完全に焼き鳥で、ぶつ切りの肉が木の棒に突き刺されていた。
2人は熱々の串焼きを持ちながらさっき通り過ぎた噴水のところに腰を下ろした。
「「いただきまーす」」
2人は会話すらせず、ただ串焼きを味わった。
「これは美味かった。魔臓とはまた違ううまさだな」
「確かに、絶対また食べたいな」
予想以上の美味しさに和やかなムードになっていた2人に声をかけるものがいた。
「ねぇ、君僕たちと食事しない?あの串焼きよりも美味しいものを食べさせてあげるよ。」
声の主は金髪の普通顔の男といかつめの男の二人組だった。
ヒメナはやっぱり街の中でもフード被っとくべきだったかな?と若干後悔をする。
しかしツカサは後悔などはせず、ヒメナがフードを外した状態で過ごせるようにしてあげたいと思っていた。
そしてそのためにおこなった行動こそ。
「あぁ?」
眉間にしわを寄せ、全力で睨んだ。
普通顔は身長170ほどだったので、180センチのツカサは見下ろす形となる。
しかしそれでは後ろのガタイがいい男が引かない。
そのため魔物が威嚇に使っていたように範囲を絞ってその範囲だけ自分の魔力で覆うことで、本能的に恐怖を覚えさせるという小技を披露した。
ツカサの思い通りに、二人組はそそくさと退散していった。
しかし何でもかんでも上手くいくはずはない。
ヒメナが後ろからくいくい、とマントを引っ張るのでツカサは何事かと振り向くと、自分たちの周りを指差した。
ツカサはぐるりと見渡すと、ツカサが向いた方向にいた人はビクビクと震え始めるという以上現象が起きていた。
「どうしてこんなことになってるんだ?」
ツカサはコソッとヒメナに耳打ちをする。
「ツカサがありえないほど濃密な殺意撒き散らすからだけど?まぁ私だったら人気のないところで痛い目に合わせてたと思うし、まだマシかも」
おいおいなんて物騒な、と思うツカサだがしっかりブーメランだったりする。
次の日から小さな噂として
「白い髪の男と歩いている黒髪の少女には手を出すな」
という教訓が広まった。
ちょっとした騒動はあったものの、2人は新たな問題に直面していた。
それは宿を取るか問題、である。
本来ほぼ寝る必要のない2人、だがゆっくりしたいのもあり迷いながら街をさまよい歩いていた。
空は既に夕日でオレンジになっている。
そして持っているお金は銀貨3枚と銅貨が6枚だけだった。
どちらも大きさは10円玉くらいである。
2人は市場のようなところに来ていた。
見たことのない食材に、2人は目を輝かせて見回っていた。
そんな時ツカサは横目で5.6歳くらいの幼女が狭い建物の間の道に入っていくのを見た。
なんとなく気になりさり気なく幼女の様子を伺っていると、大型犬に吠えられ尻餅をつくところを見てしまった。
うーん、と少し悩むツカサだったが片手間だしいいかと幼女を少しだけ助けてあげることにした。
「ちょっとあの子助けてくるわ。」
それだけヒメナに言い残し、ツカサは幼女に吠えている犬を蹴り飛ばした。
後から来たヒメナが大丈夫?と幼女に話しかけている。
突然のことで、あわあわしていた幼女だったがすぐに立ち上がり
「そうだ!急いでこれを運ばないと!助けてくれありがとう!」
小さな体で持ち上げるには少し重そうなカゴをよいしょよいしょと運び始める。
ツカサはどうする?とヒメナにアイコンタクトを送ると、手伝ってあげたら?(多分)と返ってきた。
「これも何かの縁ってことで、これ運んでやるよ、どこが家なんだ?」
ツカサはしゃがんで幼女に視線を合わせ話しかける。
幼女は少し戸惑うもののすぐに持ち直し、ツカサにカゴを渡すと先頭を歩き始めた。
「ウルカの家はこっちだよ!」
森の中で返り血を浴びながら魔臓を食べまくる日々もなかなか楽しかったが、こういう平和もありだなと2人は思った。
歩きながらツカサは話をつなぐ。
「そういえばウルカの家は何か店でも開いてるのか?」
「うん!宿をやってるんだよ!」
ウルカは元気よくそう答えた。
そこでツカサとヒメナの行動方針はだいたい決まった。
安かったらそこに泊まろうっ…
ウルカの親が経営している宿は割とすぐ到着した。
「ママ、パパただいまー!お兄ちゃんたちに手伝ってもらったよー!」
とウルカの元気のいい声が、店に響く。
「「お邪魔しまーす」」
ツカサとヒメナはちょっと遠慮がちに店に入った。
宿の一階は居酒屋っぽくなっており、客もいたが全員がウルカのことを「おかえりー、嬢ちゃん」「お使い偉いぞー」などと暖かく迎えていた。
店の内装は豪華ではないものの清潔感はあり、庶民派のいい宿という印象だった。
そこでウルカの親であろうと男が店の奥から出てきた。
「えーと、いらっしゃいませ?泊まっていきますか?」
なんかもう見るからに優しそうな顔をした人が出てきた。
「ここって一泊何円ですか?」
ヒメナは恐る恐る宿代を聞く。
「一部屋銀貨二枚ですよ」
「「一泊お願いします!」」
速攻で決めた。
ツカサは店主に外でご飯を食べてきたと説明し、ヒメナと共に一旦部屋に入った。
部屋には1つ大きな窓が付いていてそこから月と夜空を見ることができた。
「綺麗…」
ヒメナは夜空を見て、そう呟いた。
しかしすぐにツカサの方を向いたと思うと、深い口づけをした。
「ん、んん…落ち着いてするのは久しぶりだから…」
顔を赤くしてそう言ったヒメナ。
ツカサは理性がほとんど飛び、ヒメナをベッドに押し倒した。
ツカサはヒメナの黒く艶やかな髪をすくい上げ、
「ヒメナ、好きだ」
そういうと僅かな月明かりに照らされる部屋の中で、2人の体は重なりあった。
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