第10話 少し変哲のあるカップルが生まれる話

*個人的な趣味入ってます




藤瀬 司ふじせ つかさである俺は人生で初めて人(?)を好きになった。


気づいていなかっただけで、前からそうだったのかもしれないが明確に認識が変わったのはあの日からだ。


――――――――――――――――――――



それはこのファンタジー図書館に来て恐らく7日くらい経った時のこと。


ヒメナか突然

「私ちょっと髪切ろうと思う。」

と言い出した。


「俺が切ってやろうか?」

と提案するも


「いや自分で切ってみる。でツカサをあっと言わせてあ、げ、る」

それだけ言ってヒメナは大浴場に直行した。


俺はいつも通り本を読みながら時間を潰していると、大浴場の方から

「ツカサー、ちょっと目を瞑ってこっち来て」

とヒメナの声が聞こえた。


俺は魔素の流れで物が大体どこにあるか分かるので、スルスルと目をつぶりながら大浴場を目指す。


「アイタッ」

だいたい分かるだけで、完全には分からない。

よって本棚に足の小指をぶつけた。

そんなこともありながら、ヒメナの前まで来た。

「来たぞー」

と俺が言うと


「どうぞ、目を開けてください!…どう?似合ってる?」

目を開けると少し恥ずかしそうにしているヒメナがいた。


風呂上がりだからか、恥ずかしさかで少し赤みがかった頬。

一度見たはずの溶かされたサラサラの髪。


そして10人中12人が文句なしの美少女と認める大きな目や小ぶりな鼻が見事に整った顔。


俺は恐らく数秒くらい固まってたんだと思う。


「おーい?反応なしかい?」

気づけばヒメナが近づいて顔の前で手を振っていた。


普通の全国少年諸君ならここでキョドッていたところだろう。

しかし、俺は今まで刺青のせいで心を静めポーカーフェイスを使うことが多々あったため、表情を保つどころか褒めるという高等テクニックまでも使ってみせた。


「うん、可愛いと思うぞ、というかもう…」

この時は焦った、このあと何を言おうとしたのかは分からないがとにかく我慢できてよかったと思う。


「えへへ、これで切った甲斐はあったというものですよ」

ヒメナは上機嫌でそう言った。



俺はこの時決めたのだ。

どこぞの主人公のように引き伸ばさず、機を自分で作り告白しようと




そうと決まれば早いもので、

ヒメナに湖のほとりでピクニックをしてみないかと誘った。


「いいよ」と返事が返って来た時はどんなにホッとしたことやら…




俺はヒメナに料理を作ってもらい、事前に見つけていた景色が綺麗な場所に案内した。


「うわぁ、ここすごく眺め良い。また来ようっと」

と喜ぶヒメナの顔を見るだけで、心臓が高鳴るのを感じた。

大丈夫、何とかにやけてない。


「じゃあヒメナの料理味わわせてもらおうかな」

と俺


わざわざカゴに入れて、布を被せてあるのが良い。

まさにピクニックだと思った。


「今回は割と自信あるの、どうぞ召し上がれ」

自信ありげな顔をヒメナ、可愛いです。


被せてあった布を取るとそこには色々な種類のパンがあった。

食パンとのせる具の数々、そしてサンドウィッチもあった。


「もしかして、1から作ったのか?」

俺は驚いた声でそう聞いた


「そうそう、作り方が書いてある本を見つけて頑張ってみました。」

えっへんと大きいか小さいかと言われれば大きい胸をはるヒメナ


そういえば最近、調理場に困ってること多かったな、と思い出す。


俺は抱きしめたくなる衝動を抑えつつまずはサンドウィッチにかぶりついた。

「おぉー!美味い、めっちゃうまいわぁ」

ここしばらくパンを全く食べていなかったからか、それとも好きな人の手料理だからか本当に美味しく感じた。



「ほら、こっちも結構自信あるんだよね。はいあーん」

ヒメナは無自覚なのか、意図的なのかとりあえず俺のことを殺しにかかっていると思わざるを得なかった。


俺がヒメナの持ったサンドウィッチにかぶりつくとヒメナはまた満面の笑みになった。




その後も2人でゆっくり食べ進め、ついに全て食べ終わった。


何をするでもなくただ景色を眺める時間が過ぎる。

しかしその沈黙は気まずいものではなく、むしろ心地よいと言っても良いほどだった。



しかしいつまでもこの時間が続くわけではないことを俺は知っていた。


そして静かに深呼吸をし、

床に置いていたヒメナの手にそっと自分の手を重ねる。


「え?」

そうこちらを向いたヒメナの顔は僅かに赤みがかっているような気もした。


「その、聞いて欲しいことがあるんだ。」

俺は緊張のせいか変に改まった言葉遣いになる。


「う、うん」

ヒメナにもその緊張が伝わってしまったのか、ヒメナもキュッと顔を引き締めた。


そして俺は今の手持ちの勇気を全て使い果たす。

「俺はヒメナの全部が好きだ。

だから俺の恋人になって欲しい。」


俺は意地なんとかヒメナの顔から目を逸らさないようにした。

するとヒメナの引き締まっていた顔が突如フニャッと緩み、俺に抱きついて来た。


「こちらこそ喜んで!」



――――――――――――――――――――



その後の生活は本当に充実していた。


好きなだけ好きな人に触れることができる。

恋人とはなんで素晴らしいものなんだと、お互い恋人という概念に感謝していた。



初めてのキスは2回目のピクニックの終わりだった。

嬉しくてその後も何回かしたのを今でも覚えている。




それからしばらく経ったある日、少し固くなっているヒメナがこんな提案をして来た。


「私たちって全然寝室使わないし、一緒に寝てみない?」と


俺はそこから何を話して寝室まで行ったのかを覚えていない。


2人で同じベッドに潜り込むと、ヒメナの方から指を絡ませてきた。

俺はそれに答えるようにキスをし、次第に舌を絡めあった。


そしてお互いの初めてを捧げあったのだ。




たぶん俺はあの日の紅潮したヒメナの顔を忘れることはないと思う。


うっ、鼻血出そう…

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