第9話 不思議が詰まった図書館

2人は気づくとどこかを漂っていた。

残念ながらツカサは気を失い、ヒメナに抱きかかえられている状態だったが。


2人の体には全く重力がかかっておらず、周りはただただ真っ白な世界。


今にも神と名乗る輩が出てきてもおかしくない雰囲気を醸し出していたが、ヒメナにわかるはずもなかった。



ただ白い世界を漂う。

どれだけの時間が過ぎたのか、どれだけ移動したのか、ヒメナはずっとツカサを抱えていた。




ぼーっとしていたヒメナはふと自分の視界の中におかしなものを見つけた。


木製の高級感溢れる扉が見えたのだ。



ヒメナはいつまで経っても目を覚まさないツカサを救うためにも、この白い世界から抜け出すためにもあの扉にたどり着かないといけないと思った。


「ツカサ、もうすぐ待ってて、もうすぐだから…」


ヒメナは一心不乱に体を動かし、泳いだことはないが泳ぐように進んだ。


そしてついに扉にたどり着き、中に入ると同時に意識が途切れた。


――――――――――――――――――――


ツカサは夢心地ながらも何か遠い旅をしてきたような感覚を感じていた。


しかしその感覚からによって現実に引き戻される。


「…カサ、ツカサー、も、もしかして死んじゃってる…?え?嘘だよね?」

起きるのが面倒に感じて、二度寝気分で目を瞑ったままにしていたツカサだが、ヒメナの声が涙声になってきたので目を開けた。


「ちゃんと生きてるから安心しろ」

ツカサがそう言うとヒメナは目を見開いて、抱きついてきた。

「良かった、良かったぁー」

ツカサはそう呟くヒメナの頭を優しく撫でる。


そこでふと自分達が数センチほど水の貼った床で寝ていたことに気づく。

床には洞窟で見た不思議鉱石に似たものが所々埋め込まれていた。


ツカサがキョロキョロしているとヒメナも顔を上げる。

ツカサは再びあることに気づく。


「ヒメナの目、なんか色変わってるな。前は黄金色だったのに、真ん中だけ赤色になってるぞ」

ツカサはじっとヒメナの目を覗き込みそう言った。


「そんなの言い出したらツカサなんか、髪も目も白くなってるけど」

まさかの衝撃の事実。

残念ながら今のツカサには自分の髪色を確認する術はなかったので、なんとか微かにみえる前髪を引っ張り、本当に真っ白になっちゃってるよ…と衝撃を受ける。



ツカサはとりあえず部屋を出るため、ヨロヨロと扉に向かう。

「あれほど酷かったツカサの傷も治ってるし、流石に外出た瞬間に襲われるとかはない…と思う」

ヒメナの言葉を聞きつつも、一応そーっと扉を開けるツカサ。


扉の先には眩しいほどの光と壁一面に本棚が敷き詰められた図書館が広がっていた。

「「おぉ〜」」と同じリアクションをする2人。


ツカサは内心、本のことよりも出来ればボロボロ短パンのみのスタイルを脱出したいと思っていたので、これだけ綺麗なところならばワンチャン何か着るものがあるのでは?と期待を抱いていたりする。



そんな2人にどこからか声が聞こえてきた。


「起きたのですね、私はここの管理者、いえ清掃員をしている者です」

その声はどうやら今ツカサとヒメナの目の前に浮かんでいる水晶のような球体から発せられているようだった。


ツカサはおぉ!ファンタジーだ。と言言いそうになったのを飲み込む。


「えーと、助けてくれたってことで合ってます?」

ヒメナが恐る恐る聞いてみる。


「はい、しかしツカサ様に限ってはほぼ死にかけだったので砕けた骨を<死神>の物で代用しました。簡単に言ってしまえば既に人ではありません。」

丁寧と言えるのか怪しい口調で淡々とはなされた内容は、とてもハイそうですかと信じられないものだった。


しかし起きたら髪の毛が真っ白になっていたことも、

今、息をするように操作領域を広げ、自分の体のどこをどうやって魔力が通っているのか全て分かる感覚があることも全てが球体の言っていることを証明しているように思えた。



「えぇー、そんなサラッとということっ!?てかなんでそんなに冷静なの!?」

驚きすぎて逆に一周回って冷静なツカサに対し、ヒメナはある意味いい反応をした。


「もはや一周回って境地に至った?みたいな?」

おどけてツカサがそう返したりしていると、球体は

「だいたいのことは本に書いているので、自分で探してください。では」

と言ってどこかに言ってしまった。


間取りくらい教えてくれてもいいのに、と思ったツカサだがよく考えれば新築の家に来た時のようにも感じ、開き直ってヒメナと探索をすることにした。



横に大きい円柱のような図書館を中心として、扉がいくつもあり色々な用途の部屋に繋がっている。


畑がある部屋や服が置いてある部屋、浴場にただただ広い部屋など完璧に設備は整えられていた。


唯一設備の範囲を超えていたのが、魚が泳いでいる湖と魔物ではない普通の動物が暮らしいている森になっていた部屋で、思わず2人が

「「ここを作った人は何者なんだよ…」」

とハモってしまったほどだ。



この様々な設備を動かしているのはどうやら円柱の図書館の中央に生えている大樹から供給される魔力のようで、人を卒業し魔素の流れを感じる事が出来るようになったのをツカサはその偉大さをひしひしと感じた。



そして一通り見回った後、ツカサは念願の新品の服を手に入れ、ヒメナは大浴場を満喫した。



――――――――――――――――――――



図書館生活が始まってから、何十日経った頃。


2人は本を読んでは風呂に入ったり、新しい魔法を試してみたりと充実した生活を送っていた。


ヒメナも元々人ではなかったとはいえ、球体のおかげで更に人離れしたらしくほとんど睡眠を必要とせず、食事も必要としない体になっていた。

これはもちろんツカサにも当てはまる。


しかし食事も楽しみの1つ。

今では畑や湖で取れた食材を使った料理をヒメナがやる気が出た時のみ作るようになった。


睡眠もしなくなった今2人に、一日という概念がないので食事は本当に不定期なのだ。


――――――――――――――――――――


ここで再び魔法についておさらいコーナー


この世界の魔法には系統があるよ

基本系統 上級系統

・炎 ・雷

・水 ・氷

・風 ・光

・土 ・空間

魔法を極めた者は、さらなる境地「魔術」にたどり着けるかも…?


魔法に適性は無いけど、才能は存在するよ。

・基本系統については初歩ならほぼ誰でも使う事が出来る。

しかし上級系統や基本系統の大規模魔法には才能がないと使えないよ。


魔法は意外と複雑で、氷の槍を飛ばすためには氷の槍を作り出してから風邪を使って飛ばさないといけない。

*操作領域内のみ氷の槍だけでも動かすことはできる。



〜ほったらかしになっていた<継承者>について〜


継承者とは前の時代に生きていた人の大きな才能受け継いだ人のこと、と古代の書物には記されている。


継承した証は刺青のような形で体のどこかに浮かび上がる。


継承紋が浮かび上がった者は、身体能力が高かったり頭の回転が早かったりと天性の才能を有していることが多い。




実はツカサの刺青は図書館で目覚めてから、少し変化したのだが本人は気づかなかった。


――――――――――――――――――――


毎日毎日、何万とある本を読み進めると本当にいろんなことを知る事ができた。


まずこの図書館を作り出したのは、<神代魔女>と名乗っている人物で本人の日記には、今はツカサの骨となっている死神を殺したのも神代魔女さんだとか。


そしてヒメナの樹を生み出し操る力は、森精族エルフの中でも少数しかいないとされる力に似たものだったが、エルフの方は<霊樹>と呼ばれる自我を持つ樹と契約することで使えるようになるらしく、特に契約もせずに使うヒメナの力は結局分からずじまいだった。



そしてついさっき、ツカサは探し求めていた本を見つけた。

それこそ図書館から外出する方法が書かれた本だ。


方法は割と簡単で、本の中に挟まっていた鍵を出口専用の扉に使えば外に出られると書かれていた。





「やっと異世界もののスタートライン立てるのか…長かったなー」

ツカサは感慨深くなり、思わず独り言とため息を吐く。


「お、やっと見つかったんだ。これで外に出られるー」

と話しながら近づいてきたヒメナ。

今では顔を隠していた前髪も整えられている。

髪を切るまであまり気にしていなかったが、ヒメナさんはガチ美少女でツカサのどストライクだったりする。


そして今はツカサの恋人でもある。




「まだまだ読んでない本あるけど、もう外、出るか?」

鍵を眺めつつ、ツカサはそう言う。


「ちょっとここの生活も名残惜しいけど若干飽きてきたし、外出たいかも」

ツカサの首に腕を回しつつヒメナはそう言った。




そしてついに2人の図書館ごもり生活は終わりを迎えようとしていた。

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