【十四】
朝
歩みを止め、幽は後ろに続く少年を振り返った。
「この花は……」
擦り切れた願いが紡ぐ、微かな笑みを浮かべて。
「元は、私が、たったひとりのために創り出した薬だった」
壁一面に備えられた戸棚のひとつをひらく。氷砂糖に似た半透明の白い結晶――《ハクカ》が、整列する遮光瓶に収められている。慣れた手つきで、幽はそれを量り取った。
幼さの残る幽の手が、ひとひらの薬包紙を少年に差し出す。おとなびた少年の手が、それを受け取る。幽に拾われたときは小さな子供だった彼の背は、今は幽を頭ひとつ分は追い越していた。幽の体は、少年だった頃のまま変わっていない。宮司に選ばれた日、
咲き誇る白い花。いつかの山の頂を、幽は思い出していた。かつて先代に手を引かれて上り、そしてまた
「ありがとう、幽」
少年は微笑む。骨のように白く。
『ありがとう、幽』
いつか、この手で柱に結わえた少女が宛てた心と等しく。
「これで、やっと」
ふたりのかみさまを葬ることができる。
「呪いを解くんだ」
心という、永劫の呪いを。
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