【一】
都の西の外れには、
平時ならば、好んで訪れる者などいない寂れた一角だが、月に一度ほど、詰めかける人々の喧騒で飽和する日がある。ここで行われる儀式をひとめ見ようと集まってくるのだ。
ひとだかりの中心に
しゃらん。
しゃらん。再び鈴の音が響き、舞台の袖から少女が一人、現れた。風になびく緋袴。結い上げた長い黒髪。照りつける初夏の陽射しの下で、真白の千早が
華奢な背筋を、すっと伸ばして、少女は舞台へと上がる。その手には一振りの、細身の太刀が握られている。男の横に立ち、少女は、ゆっくりと、それを抜いた。研ぎ澄まされた刃が鋭く光を
しゃらん。しゃらん。鈴の音が連なる。段々と大きく、数を増し、岩を叩く清流のように激しく打ち鳴らされていく。集束する視線。制される呼吸。やがて、ふっ、と吸い込まれるように、鈴が鳴り止む。打ちひらかれた無音。
ひらり。剣を振り、少女は音もなく身を
「いつものことながら、見事なものですね、
群衆から離れた広場の端、侍従が支える日除けの傘の下で、私の隣に立つ青年――
「さすが、我が兄上です」
無邪気に笑顔を向けられて、私は小さく苦い息をついた。
「私は儀式の
徇とは目を合わさないまま、私は視線を舞台へと注いだ。
剣を水平に掲げ、少女は
「幽様の教え方が素晴らしいのですよ」
徇の声は明るい。夏空のように曇りひとつない瞳で、私を見つめる。私は、ただ、目を伏せる。
しゃらん。再び奏でられる鈴の音が、儀式の終焉を告げる。少女が舞台をおりていく。群衆にも、いましがた手にかけた
「……浄めの……巫女……様…………」
舞台の下、ある者は感嘆に唇を震わせて、ある者は畏怖に声を詰まらせて、小柄な少女の背中を見送る。私は身を包む黒い袍の影で、
徇に別れを告げ、私は舞台の裏へと回った。待機していた
「……
私は呼ぶ。正しく完璧な、巫女の器の名を。人々が決して呼ぶことのない、少女の命につけられた名を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。