第31話 リヴェール姉妹と少年の旅路 エピローグ

 ルークたち三人が任務を終えて10日が過ぎた。


 彼らの回収した解毒草により、毒に侵された6名の騎士は全員が解毒に成功。その命を救われた。


 それから“蠍”事件の事後処理として、村ではさまざまなことが動き出した。


 まずは騎士団の今後について。ルークたちが戻って二日後、カミルは回復した騎士の中から数名を集めた。任務に出るためだ。


 内容はクライヴ=パストール・ルミノアル=ナナ両名の救出。および安否確認。


 結果の見えた“確認”ではあった。だが反対する者は誰もいなかった。


 隊長のカミルを筆頭に、騎士からはゲルド・サラ・カレットの三名が参加。そして索敵のセンスを買われ、ロイドが部隊に同行した。


 今回は夜営も狩猟もなし。ただ行って、調べるだけの任務。


 彼らは半日ほどで村に戻った。蠍と交戦した現場のすぐそばで、クライヴの遺体を回収することに成功する。しかしもう一名。ルミノアルの姿はついぞ発見されることはなかった。


 記録としては行方不明になるが、魔獣の領域における“不明”が何を意味するのか。知らない者はいない。


 報せを聞いたフランチェスカは嗚咽を上げて泣いていた。もう一人の娘。リリアーナの反応は薄かったという。しかし感情を堪えているように見えたとカレットは語った。


 調査の結果により、カミル=ローは正式に騎士団の団長に就任。そして魔獣遣い“ナナ”一族に継がれるマスターの名はリリアーナが襲名することが決められた。


 それから代用食料の確保。近隣の村との連絡調整。日々はめまぐるしく過ぎていった。


 ――そんな時間を。


 ベッドに横たわりながら、ルークは空を眺めて過ごしていた。





「おにーいちゃん! お見舞いにきたよ」


 ばん! と勢いよくルークの部屋の扉が開け放たれた。


 !? びっくりして首をそちらに向けるルーク。


 「失礼しまーす」


 言いながら、ココノはもう部屋に足を踏み入れていた。


「の、ノックくらいしてから入ってこいよ。心臓に悪いだろうが!」

「え? ちゃんとしたよ? ばーん! って」

「あれはノックじゃないだろう」

「もう、細かいこと言わないの。わたしとお兄ちゃんの仲じゃない」


 どんな仲だ。噛みあっていない返事をしてココノがベッドに腰掛ける。ルークは派手にため息をついた。


 ちなみにこのお見舞い。毎日のようにやってくるからたまらない。


「――す、すまないルーク。驚かせてしまって」


 後を追うように、果物かごを抱えたカレットが二人の傍に駆け寄った。


「姉ちゃんが謝ることないよ。それよりお見舞い、来てくれてありがとう」

「ああ。これ、差し入れだ」


 差し出したかごには梨と林檎が乗っていた。「お姉ちゃん。剥いて剥いて」ココノが足をばたつかせて催促する。カレットは微笑むと、器用に林檎をうさぎの形に切ってみせた。


「はい。できあがりだ」

「やった。はい、お兄ちゃん。あーん」

「?」

「食べさせて」

「いや、なんで俺が食べさせなあかんの」


 口を開けたままのココノにきょとんとした目を向ける。ココノは包帯の巻かれた右腕を指してみせた。


 蠍との戦いで傷ついた右腕。ルークたちの命を守り、代わりに犠牲となった右腕だ。


「……まだ動かせないのか」


 悲痛な面持ちでルークが尋ねる。ココノは「簡単に治らないよ」誰もがはばかるその見立てを、あっさりと口にした。


「それでも肘で止まったし、これ以上ひどくなることはないんだけどね。けどご飯食べたりするときとか、すっごく不便なんだよ?」

「――悪かった」

「責めてなんかないよう。お兄ちゃんのおかげで命が助かったんだし。それより、ほら」


 ……。ルークは何も言えず、林檎を口に運んでやった。「んー! おいしー!」ココノは口をもごもごさせて言った。


「ごくん。はい、お兄ちゃんもあーん♪」

「――。おい、普通にフォーク持ってんじゃねーか」

「うん。左手は無事だし」


 ぺろりと舌を出すココノ。ルークは頭を抱えた。フォークを握るのに利き手も何もない。雰囲気に飲まれて、そんな単純なことに気付かなかった自分が恥ずかしかった。


「ココノ! あんまりルークを困らせるんじゃない。ルーク……平気か?」

「……ああ」

「妹が迷惑をかけた。お、お詫びに今度は私が食べさせてあげるからな」

「なぜッ!」


 なぜこんな展開に!? 無理やりすぎる展開にルークの視線が泳いだ。


 カレットがいつの間にか林檎の刺さったフォークを差し出している。あーんの姿勢だ。ほんのり頬が赤らんでいる。恥ずかしいならやらなきゃいいのに。


「い、いいよ姉ちゃん。普通に食べられるから」

「遠慮するな。ほら……」


 微妙で甘酸っぱい空気になる二人。ココノはちょっと冷めた目で二人のやりとりを見ていた。


 これはちょっと良くない空気だよ(わたしにとって)。よし、邪魔しよう。


 ココノは魔力を練り込むと、自分の姿をイメージした。召喚術の発動だ。


「ふう」気だるげなため息と共に、ココが姿を現した。とつぜん増えた気配にカレットとルークの視線が集まる。


「ふははは! いちゃつくのもそこまでだよお姉ちゃん! さあ、ココ! 二人の邪魔をするのだっ」

「お断りよ」

「ええっ!?」


 さらっと髪を掻き上げるココと、戸惑うココノ。


「せっかくお兄さんがいるのに、そんな三枚目のポジションに収まるわたしではないわ。

 ――やっとお会いできました。お兄さん。ベッドでお待ちいただいているなんて……つまりはそういうことと捉えてよろしいですね?」


 ココが熱っぽい視線をルークに送る。「こらぁ!」ココノの怒号が部屋を震わせた。


「召喚獣が主のゆうこと聞かないってどういうことよ!」

「わたしはあなた。あなたはわたし。上も下もないでしょ。というか、わたしの方がちょっぴりオトナ。性格が」

「い、言ってくれるね!」


 売り言葉に買い言葉。ココノとココは口げんかを始めた。本人同士の言い争いというのも斬新というか、不思議な光景だった。思わず見入るルークとカレット。


 それから一分くらいしてココは姿を消した。なんのために呼んだんだろう。マジで。肩を上下させるココノをルークは唖然として見守っていた。


 それからなんとなく場は落ち着いて(疲れて?)、穏やかな雑談の舞台が整った。「ルークの具合はどうなのだ?」カレットがそんなことを訊く。


「割と元の調子に戻ってきた。でも微妙な疲れがまだ残ってる感じだ。どうしてこんな時間がかかるんだろ。今までは限界まで動いても、一日くらいで回復できたのに」

「限界を大幅に超えていたからだろう。あの戦いのあと……ルークが私たちを村まで運んでくれたのだと聞いた」


 言いながら、カレットは目を伏せた。


「世話をかけたな。それと、ありがとう」

「言うほど大変じゃなかったよ。魔獣にも奇跡的に遭わなかったし。姉ちゃんもココノも軽かったしさ」


 視線を逸らすルーク。照れた顔をカレットは微笑んで見つめていた。


「しかし治ってきたのなら良かった。歩くことは?」

「普通に歩くだけなら問題はない」

「そうか。……ルーク。実はお爺様が、ルークと話をしたいとおっしゃっている」

「長老が?」


 聞き返すルーク。カレットは神妙な顔で頷いた。


「大事な用があるそうだ。出歩けるようになってからで構わないとのことだが」


「いや、平気だ」ルークはベッドを降りた。少しふらついてはいたが、自分の足でちゃんと立てていた。


「無理をすることはないんだぞ?」

「無理でもなんでもない。話っていうのも気になるし。今から行くよ」

「あ、わたしもついてくー」


 ちょっと大人しくしていたココノが元気に手を挙げる。


「ではみんなで行こう」


 カレットが部屋のカーテンを閉めた。




 ルークの着替えを待って、カレットとココノも一緒にリヴェール邸へと向かった。


 村の道を三人で歩く。他愛のない会話をしながらの散歩。ルークはなんだか懐かしい気分になった。


 日常に帰ってきたような気がした。


 ――しばらく学校にも行けてないが、ロイやフランはどうしているだろう。少しは元気になれただろうか。あいつらも、普段の生活に戻れてるのかな。


 ふと、級友たちの顔がルークの脳裏に浮かんだ。話が終わったら二人のもとを訪ねてみよう。俺も一度はボロボロになった。けど今は元気を取り戻した姿を見せたいと思う。


 それで二人を少しでも勇気づけられたらいいなって思う。


 雑談に花を咲かせながら、ルークはそんなことを考えていた。


 そうこうしているうちに目的地に到着。きちんとノックをして扉を開ける。


 長老のノア=リヴェールが机に向かって筆を走らせていた。


「ルークをお連れしました。長老」


 カレットの言葉を背中に受け、ノアは眼鏡を外した。「そこに掛けなさい」ノアが促すと、カレットがテーブルに収まっていた椅子を引いた。


 無言の会釈を返してルークが腰をかける。ノアは書状に封をして、顔を上げた。


「ココノとカレットも一緒か。ちょうど良かった」


 三人を前にして、ノアは穏やかに口火を切った。言葉は淡々としている。しかし柔らかな表情は、威厳とは真逆の気安さをルークに感じさせた。


「どうだ。身体の様子は」

「あ、はい。ほとんど回復しています」


 元気さをアピールするように、ルークは腕を回して見せた。「そうか」ノアは目を細め、口髭に手を当てた。


「並々ならん回復力だ。では、心のほうはどうだ」

「心?」

「恐ろしさを拭うことはできたか」


 初めての任務。そして魔獣との交戦。本来なら子供に経験させることではない。ルークの精神に傷がついていやしないか。それを訊いているようだった。


「確かに、死ぬかもって思った瞬間はありました」


 夜の森を走った思い出を振り返りながら、ルークは口を開いた。


「けど……すみません。こんな言い方していいのかわからないんですが」

「心のままに話してよい」

「――はい。あのときは無我夢中であまり意識してなかったんですが……今振り返ると、恐ろしさの中にもどこか、未知の世界を歩く体験にわくわくしている自分もいたような気がします」


「! る、ルーク!」


 カレットが表情をひきつらせる。「相変わらずだねえ」姉とは対照的にココノはけたけたと笑った。


「よい、よい」


 ノアの言葉にカレットは口をつぐむ。ルークはテーブルの一点を見つめたまま沈黙していた。冗談の顔つきではなかった。


「そうか。死と隣り合わせの世界にあってなおも心が躍った、とな。これも血か」

「血?」

「グランデも――主の父親もそうであったよ」


 父さんも? 視線で尋ねるルークにノアが頷く。


「ルーク。主とおんなじように、グランデも幼いころから外へよう逃げ出す子供だった。儂は何度グランデと追いかけっこをしたかわからん。魔獣に出会って怪我をしたこともあった。とっ捕まえては厳しく叱って家に連れ戻した。


 しかし奴は懲りんかった。最後は村の騎士たちが誰も追いつけんほどの力を身に着けて、探検に出かけおった。世界の隅々まで見てくる、と。そう言ってな」


 この親にしてこの子ありというやつだ。ノアの微笑はそんな風にも言いたげだった。


「しかし似た者同士でも、親は親。子は子。主は主だ。」

「はあ」


 要領を得たような、得ていないような。ルークは曖昧に微笑んで返した。


 父子が似てるからって同じことをする必要はない――そういう話なのだろうか。だとしたら有難い気遣いだ。


 父親は偉大な冒険家とされている。けど別に俺が偉大なわけじゃないし、同じ場所を目指そうとも思わない。それこそ親は親。子は子だろう。


「――思い出話が過ぎてしまったな。ルークや。本題に戻ろう。

 しつこいようだが、最後にもう一度だけ問う。魔獣の恐ろしさを肌身で知った今も、外の世界への憧れは変わらずにいるか」


 その問いにルークは目を丸くした。そしてわずかの沈黙を挟んで「はい」と短く答えた。


 驚いた反応とは違う。ただ単に、当たり前のことを訊かれて戸惑っただけの様子だった。


「愚問だったか」


 ノアはまた微笑むと、先ほどまで筆を走らせていた書状をルークに差し出した。


「これは紹介状だ。グランシア国“王の騎士団”に宛てて書いてある」


 そして少年の瞳を見据えて言った。

 

「ルーク=エイル。主に外の世界へ旅立つ許しを出そう」


「――。

 ? ルーク。意外と落ち着いているのだな」


 黙ったままのルークへカレットが声をかける。横目に見えるルークの表情は真顔のまま固まっていた。


「もっとこう、思いきりはしゃぐかと思っていたが」

「いや。なんというか、驚きすぎて実感が……」


 やっとのことでルークが口を開いた。落ち着いているわけではなかった。ずっと見てきた夢がひとつ叶う。冷静でいられるはずなんてない。


 動悸が速い。身体が熱い。でも言葉が出ない。


 人間って、本当にびっくりするとこうなるのか。ルークはなんとか気持ちを整えようと。大きく息を吸った。


「――ありがとうございます。長老。けどどうして俺に許しを?」


 ノアの言を謹んで受けながらも、ルークは震えた声で訊き返す。ノアは「主は充分な成長を遂げた」と言ってルークの全身を眺めた。


「村の騎士団でさえ抗えなかった魔獣と戦い、勝利し、そして村を救ってみせた。もはやこの小さな村に収まる器ではなかろう。

 広い世界へ羽ばたいて、その力を存分に発揮してくるが良い」


 ルークはまた言葉を失って、小さく頭を下げた。「良かったね。お兄ちゃん」ココノが呟くように声をかける。カレットは俯くようにして視線を落としていた。


「ただ一つだけ、主に頼みがある」


 ノアはカレットとココノに視線を送ると、話を続けた。


「主の旅路に、カレットとココノの姉妹を同行させて欲しい」

「え……」


 思いもよらなかった申し出に、三人が三人とも声を漏らした。


「主も知っての通り、蠍との戦いでココノの腕は重い傷を負った。この村で治療を続けても元に戻る見込みはない。


 しかし世界には想像を絶する魔法が存在すると聞く。旅路の途中に、ココノの腕を治せる魔術の使い手と出会うこともあるかもしれん。


 老いた儂には……もはや長い旅へ出る力も、新たに魔術を身に着ける力もないだろう。


 だからその望みを、ルーク。そしてカレット。主らに託したいのだ」


 それは任務でも、長老としての命でもない。ただの純粋な頼みごとだった。


 孫を案じる祖父としての願い事だった。


「了解しました。長老」


 今度は言葉を失うこともなく。ルークは一も二もなく承諾の返事をした。


 カレットはココノの方をちらりと見て、それから「必ず果たして参ります。お爺様」そう約束して頷いた。


 ココノは唇を結んで二人の言葉を聞いていた。しかし顔だけは、しっかりと前を向いていた。




 それから三人は少々の打ち合わせと歓談を交わして、家を出た。


 旅立ちは1か月後。すぐに発つわけではない。けれど三人の足は自然とひとつの場所に向いて歩いていた。避獣石の祀られた広場だ。


「それにしても、ホントに行けるんだよな。俺ら」


 まだ信じられないといった風に、ルークがひとりごちた。


「気分が浮ついてしょうがない。夢でも見てるんじゃないかって気がする」

「夢の中? だったら何があってもノープロブレムだよね。あんなことやこんなことも。たとえばわたしがお兄ちゃんに――むぐ」

「な、何を言うかわからないが……とにかく言わせないぞ!」


 目を輝かせるココノの口を、カレットが慌てて塞いだ。「……むー。言論が弾圧されたよ」口を尖らせるココノに「不埒な言葉は諌めるのがお姉ちゃんの役目だ」とカレットは人さし指を立てた。


「それじゃなんにも喋れなくなっちゃうよ」

「そんな事ばかり喋る予定だったのか!?」


 旅の途中も油断できないではないか……。カレットは表情をひきつらせた。そんな姉妹のやりとりを、ルークは微笑ましげに見ていた。


 きっと楽しい旅になると思った。


「ただ、一つだけ心配なのは戦力だよな。俺と姉ちゃんじゃ、二人で魔獣と戦い続けるにはまだ足りないと思う。ひと月でできるだけ強くならないと。ココノを守るために」

「わ。お兄ちゃんが守ってくれるんだ♪ なんか嬉しいなあ」

「いや……ルーク。その心配は無用だろう」


 大丈夫? 首を傾げるルークに、カレットは「気を落とさず聞いてほしい」と前置きをして、口を開いた。


「ココノの右腕は確かに使えなくなった」

「ああ。だから戦えないぶん、俺たちがなんとかするんだろ」

「いや。ココノは片腕でもまだ、私たちよりも実力が上だ」


「――姉ちゃんがそういう冗談言うのって珍しいよな」

「……」

「冗談だろ……?」


 その問いに、カレットは無言で目をそらした。ココノに視線を向けてみる。ココノは「ぶい」と言ってピースサインを作っていた。


「もちろん以前のような壁を越えた強さとまではいかないだろう。でもココを召喚できなくなったわけではないし、自分の身を守るのに十分な力を発揮できることは確かだ。


 けれどそれはココノが特別であるだけの話だ。ルークが未熟と言っているわけじゃないんだぞ? ただ……」


 慌てふためきながら言い繕うカレット。「平気だ」そう答えながらもルークは明らかに沈んだ面持ちだった。


 鍛え直そうと思った。本気で。守ってもらってばっかじゃ、格好がつかないから。


「戦えるっていっても、わたしは守ってもらう気まんまんだよ。よろしくね。おにーいちゃん♪」

「……ああ」


 言ってしまった手前、ルークは首肯するしかなかった。


「とにかく、三人で旅に出られるのだ。これほど嬉しいことはない」


 カレットの口から呟きが漏れた。その視線の先には、陽の光を浴びて輝く避獣石があった。


「――すまない。ココノの腕のことがあるのに、不謹慎だろうか」

「ううん。わたしもおんなじ気持ちだよ。お兄ちゃんもでしょ?」


 姉妹の視線がルークへと集まる。「当たり前だろ」ルークは力強く頷いた。


「嬉しくないはずない。二人と一緒なら、俺はどこへ行くのだって楽しみだよ」


 そんな素直な気持ちをルークは口にした。平然と。まるで挨拶でもするかのように。


 姉妹の胸を貫くセリフを、だ。


「お、お姉ちゃん聞いた? お兄ちゃんがついにわたしたちにデレたよ!?」


 目をまんまるにした姉妹が顔を見合わせる。


「聞いた。もちろん耳に焼き付けたぞココノ! これはうわさに聞く、ぷ、ぷろぽーずと受け取ってよいのだろうか!?」

「うん。よいと思うよ! 苦節十年ちかく。きょうだいみたいにしか思われてなかったわたしたちにも、ついに春がきたみたいだね」

「粘ったかいがあったな!」


「ちょ、ちょっと待て二人とも。なんか勘違いしてるだろ……!」


 ルークが割って入るが、しかし姉妹の暴走は止まらない。やいのやいの。と、姉妹と少年の騒ぐ声が澄んだ空に吸い込まれてゆく。




 そんな温かい秋の昼下がり。


 リヴェール姉妹と少年は、踏み出す新しい旅路に胸を躍らせるのだった。




リヴェール姉妹と少年の旅路 fin

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