第27話 顔ぶれ

「その腕……どうしたんだエリィ!」


「そこまで話す義理はないわ」


「義理とかそんな問題ではないぞ! 心配をしているんだ!

 治癒の魔法は使えるはずだろう。なのになぜ」


「いらないお節介ね。

 クード。あなたもそう思うでしょう?」


 そんなやりとりが終わったのと同時だった。黒衣を纏う二人の男が入室し、扉に錠をかけた。


 時計を見ると、ちょうど集合時間を迎えた時間。


 答える間も無く「それでは二人とも。ご機嫌よう」エリィはそう残して去っていった。


「——腕さえ残っているなら治癒の魔法でつなげられるはずだ。

 まさか大きな事故にでもあったのだろうか……」


 視線を泳がせながら口にするシュナ。


 おそらく選挙に潜む影の側面、“首狩り魔女”の話を耳にしていないのだろう。


『あなたもこうならないように気をつけることね』


 警告めいたエリィの言葉からして、無関係とは思えない。


 狩られた魔法使いたち。


 犠牲者は二人と思っていたが……前提を見直す必要があるかもしれない。


 表に出ていない犠牲者がいるかもしれないこと。


 そして、狩られるのが首ばかりとは限らないということを。


「友達が心配なのはわかるが、時間だ。切り替えるぞ」 

「あ、ああ。そうだなクード」


 まだ動揺を拭いきれない様子だったが、シュナが居住まいを正す。





 選挙管理委員(選管)の男たちはともに教会所属の魔法使いだった。

 二人は自己紹介もそこそこに、選挙の説明をはじめた。


 選挙の投票日は19日後。期日までに立候補を表明した7名によって争われる。

 

 ○候補者一覧(届出順)


 ネイキッド=バロン

 ジュースティア=バロン

 エリィ=フローレンス

 イヴ=フローレンス

 ドリー=バロン

 シュナ=アークライド

 クード=ジルバート


 当選者は最も票を集めた一名。


 選挙権は16歳以上のすべての国民に与えられる。前回の投票率は72%と、世間の注目はそれなりに高い。


 バロンのように複数の候補を擁立している家があるのは、選挙の流れで推す人間を変えたり、立候補者に何かあった時の保険にする意図があるのだろう。


 おそらく選挙終盤になれば、最も有力な候補者に票を集中させる動きを見せるはずだ。


 最後に当選者の資格確認があった。条件はふたつ。


 1つは期日までに立候補の届けを出していること。


 もう1つは、投票日の午前9時に再びこの会場にいること。


 選管の男はそう言って話を締めた。


 妨害工作のことは最後まで触れなかった。この会場に来ていない二人の扱いについても言及はなし。


 そう考えると本部は今の事態を黙認する様子だった。


 選挙にはバロン兄弟の一族や、関係の深い魔法使いもいるはず。


 それでも表だった動きを見せないとなると……。


 この中で、まだ何人かは近いうちに脱落する。首狩り魔女の正体をつきとめない限り。


 会場に集まった候補者たちを見渡して、俺は息を呑んだ。

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