断頭台に眠る魔女 出題編
第24話 断頭台に眠る魔女
もしも魔法が使えたら。
そんな想像をしたことがある人は少なくないだろう。
炎を出してみたい。姿を消してみたい。瞬間移動をしてみたい。風を操ってみたい。
バリアを出してみたい。姿を変えてみたい。傷を治してみたい。その逆に、何かを破壊してみたい。
まだまだあると思う。人間の想像力に限りはないから。
魔法という存在は、そんな人間の想像力に。あるいは欲望に応えてきた。
けれど、いつだって先を行くのは想像力のほう。
どれだけ望んでも叶えられない領域というものは存在する。
死んだ人間を生き返らせることはできない
これも魔法が及ばない領域の一部。そう考えられていた。
あの事件が起きるまでは。
首と胴体が切り離されてなお“心臓は動き続ける“。
不可解で不条理。そんな神をも恐れぬ魔法の暗躍。
“首狩り魔女事件“
魔法使いたちが一人、また一人と首を奪われてゆく。
血塗られた舞台が幕を開ける。
——断頭台に眠る魔女——
「クードのわからずや! あんぽんたん!
えーと、アホ! えーと、えーと……わからずや!」
「悪口が苦手か」
罵倒のボキャブラリーが少なすぎる。きっと口喧嘩に慣れていないんだろうな。この娘。
真っ赤になって机を叩く少女に、俺はため息混じりのツッコミを入れた。
「どうして私の挑戦を止めようとするのだ。仲間なら背中を押してくれてもいいだろう」
「無謀な挑戦は止めてやるのも仲間だろ」
「むきー!」
——この怒り狂っている魔法使いの少女シュナと、俺のやりとり。
かれこれ30分くらい同じような問答を繰り返していた。
「アイスティーを淹れたわ。二人とも、一度休憩にしたらどう?」
自分の部屋を喧嘩の舞台にされておきながら、部屋の主、アリアが涼やかに微笑む。
しかしシュナは「お気遣い感謝します。しかしもう失礼しますので!」そう言って勢いよくソファを立った。
「クードのばか! お父様がクードに手伝ってもらえと言うから連れてきたが、もう知るものか!
姫様、お騒がせしてすみませんでした」
シュナは荷物をまとめると、すたすたと部屋の出口に向かって歩いていった。
そして部屋を出ようとする直前。ちらりと俺の方を向いて言った。
「何を言われても私は選挙に出るからな。
“魔術師“になって、一人でも多くの人の役に立ちたいんだ」
言葉の最後は、扉が閉まる音に重なって消えた。
そんな背中をアリアと二人で見送る。「クードも心配性ね」そんなことを言いながら、アリアは氷の入ったグラスに口をつけた。
「いいじゃない、魔術師の選挙。何事も経験でしょう」
アリアもまじで言ってんのかよ……と内心で嘆息する。
魔術師選挙。勝者には国家および協会公認の魔法使いである称号「魔術師」を名乗るライセンスが与えられる。
そんな選挙が20日後に控えていた。
「魔法の技術は確かなのだし、シュナは魔王を討伐したメンバーの一員。十分な実績もある。
案外、いいところまでいくんじゃないかしら」
アリアの見立てに俺は黙って頷いた。そこは間違っていない。
1年前の魔王討伐任務。シュナはその磨かれた魔法の数々で、勇者一味の勝利に大きく貢献した。
選挙に出る看板としては十分。魔法使いとしての実力も、今やシュナはかなりの上位者だろう。
ただ問題は、魔術師の選抜が“選挙”の体裁を取っている点にある。
「シュナの実力に疑いはない。あの馬鹿正直な性格も、ウケる人にはウケるだろう。顔もいいしな。
魔法で人の助けになりたいという情熱も本物だ。ただの人気投票だったらシュナにも勝ち目はあるだろう。
しかし魔術師の選挙となればそうはいかない。
勝者に与えられる“魔術師“のライセンスは特権の塊だ。シュナは純粋に世のため人のために使おうとしているようだが、甘い汁を吸う為にライセンスを求める人間も少なくない。
確実にいろんな裏工作が絡んでくる」
要するに、利害関係が複雑に絡んだ組織戦。
シュナが立候補を表明した選挙はそういう戦いなのだ。
そうなれば話は変わってくる。シュナは名家の生まれだが、そういう後ろ盾を使った戦い方を望むタイプじゃない。
おそらく他の候補者たちは、その資金と人脈をフルに使って支持基盤の奪い合いをしている状況だろう。
情熱と志で戦おうとしているシュナだけ土俵が違う。
「クードの言いたいことはわかったわ。けれど少し、らしくないわね」
「ん? シュナが選挙に出る事か?」
「いいえ。シュナじゃなくてクード。あなたが」
俺? と自分を指すと、アリアは「ええ」と首を縦に振った。
「うまくいかないのも経験だ。とか言って、背中を押しそうなものじゃない。いつものあなたなら」
「……」
「何かあったのね」
質問ではない。これは確認の口調。
勘が鋭いどころじゃないな。このお姫様は。
いずれ耳に入るだろう。隠しても仕方がない。
「“首狩り魔女“の噂は聞いてるか」
観念して、俺は閉ざしていた口を開いた。
「選挙に立候補を表明した魔法使い達ばかりが、立て続けに首を狩られている。
それも心臓は動いたままっていう怪奇現象のおまけ付きで」
首はないのに心臓の動く体。
言葉から絵面を想像したのだろう。アリアの表情が曇った。
「この選挙は首を突っ込んだ者が命を落とす……そんなギロチン台かもしれない。
犯人はおそらく選挙の関係者。
まだ犠牲者は出るだろう。首狩り魔女の正体を突き止めない限り」
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