第34話
そして俺が茶の湯ばかりしていると陰口を叩き、俺を置い貶めた奴らが自分は与力武将に何人も裏切られたのは笑止の限りじゃ。
本能寺は強敵じゃった。上様でさえ、滅ぼすことができなかった唯一の相手じゃった。そもそも本願寺は、日本最大の宗教集団じゃ。奴らは本拠地の威信をかけて、大阪中の流通拠点に寺を作り 商売人の流通網を築き 、日本最強の財力で大阪の経済を握った。 その財源で、武将をも動かせた。
よそ者の俺は、敵地大阪で十の砦の点と線だけを確保する孤軍の状態じゃった。 佐久間軍は 織田家最大とはいえ、中核戦力は畿内の武将で本願寺の息のかかったものばかりであった。 勝負以前にこの体勢を保つだけでも必死で、なんとか本願寺と向き合える状態じゃった。
ここでも、茶の湯で本願寺宗を繋ぎとめた。5年間も本願寺一色の大阪に何事もなく駐屯できたのは、俺の努力のおかげだったと自負していた。5年間完全に包囲して落ちなかったという城は、古来聞いたことがない。 あのまま包囲を続けていても、多分まだ落とせてはいなかったであろう。
本願寺はあの寺を大量の鉄砲で鉄壁の 防御網を作り、織田軍を待ち構えていた。もし上様が言われた通りに本願寺を力攻めしていたなら、織田軍は原田直政の二の舞で鉄砲の餌食となるだけだっただろう。
本願寺ほど、鉄砲を上手に扱う者はいない。織田軍は、戦い方でも本願寺に勝てなかった。あの戦上手の上様が、本願寺攻略の糸口すら見つけられなかったのだから見事じゃった。
本願寺は日本で最も豊かな大阪を拠点に、日本最大の財力で 雑賀衆など 最強の鉄砲集団を作り織田軍を翻弄した。 織田軍は、すでにこの戦法で多くの将が討ち取られ、その強さは実感させられていた。
俺の与力武将たちのほとんどが関西人であり、無理に力攻めをしても本気で進軍しないだろう。 本態の佐久間軍だけが大損害を受けて、敗れるのがおちだった。 織田軍は、本願寺をただ包囲するのが精一杯の状態だった。 その包囲すら難しかったんじゃ。 内通者を織田軍は 止めることができなかったからだ。
包囲していた我々は、ゲリラ戦術で度々食料などの補給物資が奪われ、逆に本願寺側は次々と食料から日用品までいろいろな援助物資がどこからともなく入ってきていた。籠城している石山本願寺には、僧侶や武装した農民、雑賀衆ら傭兵、大阪の商人を含む町人など多くの人々が 暮らしていた。
普通の籠城戦なら、半年もたたずに全員餓死して当然だ。しかしいざ開城してみると、包囲していた我が軍より本願寺側の方が豊かであった。我々は財力では、到底本願寺にはかなわない。奴らは日本中の流通拠点に寺内町の自治を政き、 日本の富の大部分を独占していた。
本願寺戦は形式上は織田家の勝利で終わっているが、実体は織田家の根負けである。織田家は、天皇や近衛家に恃み和議を申し込んだのじゃ。
織田家は本願寺戦で鉄甲船を造るなど、多くの財力を投入し、疲弊し、それでも落とせなかった。
本願寺戦で、途方もない無駄な財力を使って自滅するよりは、共存共栄の道を選んだのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます