第33話
俺は、意固地になってしまった。もはや俺は忘れ去られた形骸にすぎない。 形骸になった俺は、上様から見捨てられたのだ。 およそ上様に認められるには、上様にご機嫌伺いをしてうまく立ち回り、告げ口して人を蹴落とし、上手く上様に取り入ることだ。
こういう芸のできる連中でなければ、出世はできぬと見えたわ。 だから織田家に忠節をつくし、脇目もふらず奉公した者は、出世もできなければ子孫も栄えぬ。 物事が、みんな逆なのだ。
羽柴や 明智らが一手に政治に参与しているのを見ると、不要となった俺がよく分かる。 その挙げ句、俺は追従者、へつらい者の羽振りの良さを見せつけられることになった。
こんな世の中になって、俺は用のなくなった男だ。 もう、見捨てられた男だ。
親族を討ち死にさせ、織田家のために必死に戦った戦ってきた男の末路が、これだった。
俺が茶の湯に熱心だったのは、ただ太平の世になった時の保身だったのではない。 草履取りやも元医者の奴らには、武将としての心得や作法を知らない。
だから荒木村重、別所長治などの重要な自分の与力武将に裏切られるのだ。 俺に言わせれば、奴らは与力武将の扱いが悪いのだ。俺は与力武将には、名誉や面目を大事にし、できるだけ彼らの面目を潰さないよう方策を考えた。
茶の湯は与力武将の面目を立て、真の解決法を思案するのに最適な場であった。ここでは感情的にならず、理性的に物事を決められる。しかも文化的な雰囲気で、武士の精神と教養と嗜みを満足させ、共有した空間で仲間意識も高められた。
俺は三好義継や六角烝禎など、元天下人など過去の大物を滅ぼした。 俺の与力武将は、元 天下人らの家臣たちであり、彼ら家臣の元天下人には多くの恩義があった。しかも義継は、戦国武将最高の貴種であり、しがらみからも三好に付いた方が自然な連中を率いて、自分は戦わねばならなかった。
よそ者の俺が連中を従わせるには、相当な苦労が必要だった。
皆には、この苦労が分からない。
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