第27話

 この信盛の働きをどう評価するかだが、次の第3条、第4条で上様の評価が分かる。明智光秀の丹羽平定は、天下の武功を示したと絶賛。ついで羽柴秀吉は、 数ヶ国を平定して比類なしと褒める。 乳兄弟の 池田恒興は、分限が少ないにも関わらず 荒木方の最後の拠点である花熊城を攻略し、恒興もまた天下に武勇を示したと具体例を示し、諸将のこうした働きを見てなぜ一廉の働きをしようとしなかったのか難詰する。

 信盛に匹敵する織田家の重鎮である柴田勝家に対しては、越前一国を支配していたが彼らの活躍を聞いて世間の評判を気にかけ、この春加賀を平定したと褒賞しつつ、本来信盛のなすべき働きを噛んで含めるように示唆する。

  次の第5条では、上様が激怒した真の理由が分かる。 武力に自信がないのなら、調略をしかければいいことであるし、どうしていいか分からなければ相談しに来ればいいものを5年間に1度も状況報告に来なかったのは油断であり怠慢である。

 秀吉のようにしょっちゅうご機嫌伺いに来ることなく、上様に相談や指示を仰ぎにも来ず、5年間何の音沙汰もなくのんびりと本願寺を功囲していたのが許せなかったのだろう。実際には目付も派遣されており情報交換はしていたが、直接上様にお伺いを立てるという行為をしなかった。

 7条目は信長の 家臣の中では特別待遇を与えていたにも関わらず 、7カ国に跨がる与力と自分の家臣を加えればどんな相手と一勝負してもそれほど敗戦することはなかったはずであると信盛の不甲斐なさを追求する。

 11条には、天正元年朝倉郡追撃時の失態で上様から叱責をされながら抗弁したことを挙げている。 上様は摩下の武将の追撃がないのに苛立って、自ら先陣をかけた。諸将は上様が先陣を切ったと聞いて、慌てて追いかけ 地蔵山を超えたところで追いついた。

 激怒した信長は、数回命令していたにも関わらず躊躇したのは各自の失態であり命令違反であると怒鳴った。柴田勝家、滝川一益、丹羽長秀、 羽柴秀吉らは面目ない旨を謹んで詫びたが、ただ一人信盛のみが涙を流しそのように仰せられても我々ほどの家臣はなかなか持つことができませんと忠告した。

 火に油を注いだ発言に上様は激怒され、どれほどの実績があって言ってるのか笑止千万であると ますます反感を買った。信盛が命令違反を謝罪せず、皆をかばって諸将の人気を取ろうとしたことを上様は許せなかった。そして結果的に、上様の面目を失わせたと信盛を糾弾した。

 12条目は、信栄の罵倒である。

甚九郎覚悟条々書き並べ候えば、筆にも墨にも述べ難き事

と最低の評価と下した。

 その後の条については、人格そのものを否定するような悪口を書き綴っている。人間が生活をするのには、助け合って生きるべきである。しかし上様は、それを否定したような言い方である。もはや上様は、忠臣を必要としていなかった。

 信栄は震える手で書状を畳み、救いを求めるように上座を伺う。

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