第21話
松永久秀の挙兵は、誰からも理解が得られなかった。誰もが主家三好を滅亡に追いやった梟雄として認識しており、久秀の覚悟は部下にさえ無謀な賭けとしか思われていなかった。
信長の嫡男信忠が、大軍を率いて久秀の信貴山城を包囲した。久秀は、力をなくしていたが影響力はまだ残していた。彼を生かしておくのは、あまりに気のいいことではなかった。久秀は織田の大軍の前に、なすすべがなかった 。彼は信長の天下を倒す人物が出ることを期待し、茶器の名品、平蜘蛛の茶釜と共に爆死した。
茶の湯を 茶道として完成させたのは、三好長慶だった。 長慶は身分の垣根を取り払い、誰もが平等にもてなし接することで、心と心の交流を対等な気持ちで感じることを目指したのだ。
しかし信長は、茶の湯を上辺だけを取り入れ政治の道具とした。彼は茶器を高額な道具とし、人身を掌握するために利用したのだ。信長を憎んでいた彼は、平蜘蛛を渡すはずがなかった。自身もろとも粉々にして、彼は慕っていた長慶様の元へ去っていった。三好家を衰退させた自分の過ちを悔い、自分の力不足を痛感しながら無念の最後だった。
佐久間信盛は、 久秀の死に方を全く理解できなかった。久秀は信盛の与力であると同時に、茶の湯の師匠でもあった。彼は今日の洗練された茶の湯の文化に心を奪われ久秀を尊敬さえしていたが、久秀の真の心は分からなかった。
信盛は織田家家臣として忠誠を尽くすことが大事で、茶の道は織田家宿老の立場を享受するための道具であった。彼も茶の湯で楽しんではいたが、殺伐とした戦場から逃れる平時の趣味でしかなかった。それでも織田家家中の中では、彼は最も久秀の心中がわかる人物で あった。
ともあれ松永久秀が死んだことで、三好の天下は完全に過去のものとなった。都人は三好のことを成り上がり者と蔑んでいたが、信長が天下を取ると途端に三好の天下を懐かしむようになった 。三好の統治は緩やかで、意外に誰もが自由に意見を言い発言も言えた。将軍や管領など立場の違いから対立することはあっても、最後は妥協点を見出し丸く収めることに成功していた。
しかし、上様は違った。上様は反対意見を許さず、絶対服従を将兵に強いた。上様は、人格や立場を無視した合理的な人事を遠慮なく行うようになった。武将を将棋の駒のように扱うようになり、今までの過程や実績を無視され、武士の面目を潰された彼らの中には謀反を起こす者も現れだした。都人も、上様の独裁的なやり方を快く思わない者も出てきた。
この二つの感情が一致した時、京本能寺で後に一大事変が起こることになる。京で明智光秀が非難されることなく、誰も織田家に味方する者がいないと分かっての行動だったのである。
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