第16話

  佐久間信盛は、先陣を切って戦い信長を助けた。 対する一向宗側の兵士は、今の世の中が悪いのは領主である大将のせいだと教えられていた。彼らは、世の中を良くするために戦っており武士のような功名心もなく純粋に信長を狙い撃ち、信長は名もなき兵に足を撃たれた。信長が戦場で負傷したのは、後にも先にもこれだけである。しかし信長は全く怯まず先手の足軽に混じって戦場を駆け回り、一斉に攻めかかって一揆勢を切り捨て、天王寺砦に駆け込んで籠城軍に合流した。

 天王寺砦に入城しても、状況は変わらない。敵勢は大軍であり、引き続き天王寺砦を包囲しているのも同じである。しかも大将が入城したことで、悪化したと言っていい。

 信長は寡勢を持って大軍に向かい、諸将は信長のために必死に戦いなんとか敵を撃退できた。佐久間信盛も足軽に混じって戦った。凋落や人を出し抜くことが得意な羽柴秀吉や明智光秀は、ここ一番のときには何の役にも立たなかった。

 討ち死にした原田直政に変わる本願寺攻めの総大将には、佐久間信盛が任じられた。信長は石山の周囲に10箇所の砦を新たに築くように命じ、6月5日に安土へと帰還して行った。

「上様の言われた通り砦は築いたが、

問題はこれからじゃ。」  

 佐久間信盛は、10カ所の砦が完成しても浮かぬ顔であった。信盛は嫡男信栄と、天王寺砦を本営として詰めることになっていた。 これまで信盛に預けられていた南近江と尾張三河の 一部に加え、原田直政の支配下にあった大和、山城、和泉、摂津の諸将が新たに信盛の配下になり織田家で最大の軍団を抱えることになった。

  織田家家老の名に恥じない堂々たる軍勢だった。しかしその内容は、織田家への忠誠心を持つものはごく一部で烏合の衆だった。一旦負け戦となると、前回の戦のようにあっという間に四散してしまう。本願寺を包囲しても油断できなかった。

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