第3話
自分より強い飼い犬だが、今川や斎藤に敗れ傷ついているのを見た尾張の多くの同族の織田家が守護や守護代を巻き込んで襲いかかるチャンスを伺っていた。 信秀の死後、信長は彼ら織田家との戦いに明け暮れた。
意外なことにこの時弾正忠家織田家は、誰一人として裏切ることなく信長を支えた。 通常このような場合、一人くらいは信長に代わって自分が弾正忠家当主になろうという人物が現れるのが戦国時代の常である。
特に先代信秀の弟たちの一人は、必ず裏切るのが戦国時代の普通で朝倉や武田といった名門ほどその傾向が強かった。
信長の父信秀の兄弟は5人乗り信光など有力な武将も いたが誰一人信長を裏切ることなく信長に仕えた。 信長の兄弟も弟の信勝が信長と跡目争いで戦ったが、その信勝も同族の織田家とつるむことはなかった。 敵の敵は味方の時代である。 落ち目になっても弾正忠家は、尾張一の勢力を保っていた。 強かった敵と一人で戦うのは誰でも嫌なものである。 敵の中に味方を探すか、敵と戦ってくれる仲間を探すのが戦国時代である。 信長の父信秀もそうやって尾張を纏めてきたのである。
しかし、尾張には信秀の次を狙う謀臣は現れなかった。 幸運にも信長は同族の織田を各個撃破し、尾張統一を成し遂げることに成功した。
ところが、信長は弾正忠家の織田一族を誰一人として中心に加えることはなかった。 叔父信光のように優秀な人物もいたが、不思議と不慮の死を遂げた。 5人の叔父に何人かの子供がいたはずだが、誰も取り立てなかった。 信長以前には守護代織田氏を始め尾張には多くの織田家が史料に登場するが、信長の時代になると織田氏を名乗る家系はほとんどいなくなる。 同族いわれている津田氏、柘植氏、中川氏、藤懸氏、島氏などに改姓したようである。 信長の家系である弾正忠家と並ぶ三奉行の織田家、藤左衛門尉は弾正忠家に最も近い織田一族で跡継ぎといわれる太郎左衛門信張は、織田一族で唯一織田を名乗り続けたが信長に重用されることはなかった。
織田信長は佐久間家と違って血縁、地縁が多かったら信長は血縁を軽んじた。地縁も採用の条件の一つではあったが、最大の取り立て理由は能力とお気に入りかだった。信長の部下たちには地縁、血縁で軍団を強くすることを心がけた信長も、自身は地縁、血縁で自分ががんじがらめにされるのを嫌がった。自分の兄弟さえ信長は使い捨て、その子供を一門衆として取り立てることをしなかった。織田家は他の大名家と違って一門衆が極端に力がない家となっていた。
その分信長は何のしがらみを持つことなく自由に行動でき、それが織田家の急成長の要因の一つであった。 しかし信長の子供が成長し天下統一が目前に迫ると、子供達を重用するようになる。佐久間の追放は嫡男信忠と三男信孝を大名とするためであった。信忠を後継ぎとし織田政権を盤石にするには、佐久間家の存在は邪魔でしかなかった。
しかし忠臣をこのような形で追放したのを見た部下たちは、明日の自分の運命を悟った。彼らの心は徐々に信長から離れ、誰も主君の危機を忠告することをせず悲劇を招くことになる。
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