第2話 信長と一門衆
そもそも佐久間信盛と織田信長は性格が正反対であった。信長が行動的、積極的、感情的であったのに対して信盛は慎重で消極的で感情を表に出さないタイプの人であった。信盛は信長の短所をよくサポートし織田家をよく支えた。信長が烈火のごとく戦えたのも信盛が内でよく纏め、家中の緩衝材の役割を果たしていたからである。
信盛は織田家中ではなくてはならない予防薬としての役目を終え信長をよくサポートした。全く性格も役割も違う二人ではあったが、二人とも一つの点では一致していた。
彼らは地縁、血縁のつながりが極端に少ないことであった。家臣の柴田や滝川など昔からの銘菓で地縁血縁が多くあり、明智や羽柴のように新参者で地縁、血縁がなくても必死に作ろうと努力していたのに対し、二人は共にそれを敢えて作ろうとしなかった。あまりにかけ離れたツートップではあったが彼らは、縁を作る必要がなかったのである。
その結果、佐久間信盛はあっけなく追放され尾張も没落の憂き目に遭ってしまった。戦国時代は地縁、血縁のつながりによって固く結びついていた時代であった。信盛の追放は織田家の結束を乱し勢力図を変えてしまった。そのことがおだけの崩壊を早めてしまったのである。心ならずも信盛の死が本能寺を想像させてしまう結果となってしまった。
佐久間家は、もともと終わりの名もない地侍の出であった。それが信長の父信秀に見出され、一躍を織田家の武将に取り立てられた家である信盛は佐久間家の中でも分流の出身であった。信盛の父は系図類には左衛門信晴とあるが事績は不明である。初期の有力家臣の佐久間信重とは、従兄弟というが詳らかではない。
永禄7年12月御器所の八所社の社殿を佐久間信重と余語勝盛と共に修理している。棟札銘を見ると家勝の方が格上のようである。柴田勝家の姉婿となった佐久間盛次も御器所の佐久間であるが、家勝との関係は不明である。
盛次の次男保田安政(保田知宗の養子)は信盛の与力となっていたが、信盛追放後は叔父の勝家を頼った。信盛の妻は前田利家の本家筋と思われるしも下之一色城主の前田与十郎の姉妹である。信盛の弟信直の妻は熱田加藤家十三代順盛前田家と加藤家と姻戚関係を結んでいた。信盛の嫡男は信栄、その弟は兵衛介、新十郎信実、入道道徳、半右衛門がいる。娘は安見右近太夫室、福島高晴(正則の弟)室になっているが何も分限は小さい。
佐久間一族はこのように対人でありながら結束は緩く、子女も有力武将の元に嫁がすることなく血縁関係は弱かった。その点信長は血縁、地縁に恵まれていた。信長には11人の兄弟14人の姉妹がいた。長兄の信広が天正2年の長島攻めで討ち死にしたのをはじめ、不慮の死や討ち死になる信長の天下統一戦まで生き残り、かつ有力な一門衆としての扱いを受けた兄弟は弟の信包くらいである。同じく弟である長益(有楽寄)や長利の分限はかなり小さかった。
しまいには浅井長政室おいちなど夫が有力な一文と期待された者もいたほとんどは分限は少なく期待していた浅井長政も殺してしまった。
当時の信長というのは、信秀の不肖の嫡子という程度の認識だった。若くして信貞の後を継ぎ守護代家や同僚と干伐を交えながら尾張を代表する武将に成長した伸秀は超大物で、信長はその子息にすぎないという感覚だった。
尾張は曲折あったものの斯波氏の守護代として、織田氏が代々務め多くの同族が各地に存在していた。信長が生まれた頃にはすでに守護代川小田伊勢守屋が岩倉城を拠点に尾張上四郡を支配し大和守が清須城に下四郡を統括していた。清須には三奉行の因幡守谷、藤左衛門家、弾正忠家の織田家がおり、さらには守護を弑逆した系譜不明の織田三位や楽田城主の織田筑後守ら多くの織田家が存在していた。信長は弾正忠家の出である。織田家の傍流に過ぎなかった弾正忠家も祖父信貞の代に富貴を誇る港町津島に進行して徐々に領有化して力を蓄え、父信秀に至ってその財力と才覚で守護代を凌駕する采配で尾張の旗頭的な地位まで上り詰めた。
しかし隣国美濃攻めで大敗し、弟の信康三奉行の一人織田藤左衛門、信長の家老と言われる青山秀勝、熱田神宮の宮司千秋秀光、有力武将の毛利藤九郎らが討死した。三河方面でも第二次小豆坂の戦いで敗北、尾張国内で守護代家の反乱など信秀をめぐる周囲の情勢は悪化の一途を辿りつつあった。
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