第40話 妄想裁判公判 被告人質問 前編
人生に、”たら、れば”は通用しない。そんな事は百も承知。しかし、かってに妄想するのは自由である。
埃にまみれたゴミだらけの小さな部屋。神野は静かに考えた。今の知識で途中からやり直せるとしたら…。
N警察署からなら、楽勝であろう。
N簡易裁判所公判(被告人質問)を、神野自身が弁護人となるのであれば、Kスポーツジム事件現場での行為に関する”被告人質問”はこんな感じかな。
妄想裁判公判 被告人質問
「貴方はKスポーツジムで、原告女性の臀部を触ったという事で起訴されていますが、事実はどうなんですか?」
「臀部付近に当たったとは思いますが、触ったという認識はありません」
「では、順を追って確認していきます。当日午後にマシンフロアで原告女性に会いましたね。最初に腹筋運動をされてますが、その経緯をお話し下さい」
「新規のマシンが導入されたそうなので見せてもらおうと思い、エリアに案内して貰ってたんです。その途中、いい機会だから訊いておきたい事を思いだして、尋ねました」
「どんな事ですか?」
「『以前は50回ぐらいはできていた腹筋での上体起しが、今は全然できなくなった。それは腰が硬くなり、垂直のまま曲げられなくなった精ではないかと思っている』と話したら、彼女の勘違いだと思いますが、腹筋台まで私を導き、腹筋トレーニングを教えてくれようとしました」
「原告女性は被告人の方から『やって見せて欲しい』と乞われたと証言していますが、事実はどうなんですか?」
「私の方からは依頼していません。私は腹筋での上体起しができないほど、腰が硬くなった。それを柔らかくする術を知っていたら教えて欲しかった。ただそれだけです。腹筋トレーニングのやり方を教えてくれとは一言も言ってません」
「分りました。原告女性が腹筋運動の実演をしてくれている時、貴方は原告女性の身体を触りませんでしたか?」
「彼女が腰の角度が90度になるのが正しい姿勢だと言って、左手指で示してくれたんで、つられて背中と太股のあたりに触れたと思います」
「原告女性は又、『角度は膝の角度だと思うが、腹筋するのに膝の角度とは意味が分らない』と証言していますが、これについては?」
「角度を示したのは彼女の方です。膝でなく、腰の角度を示していました。それに、腹筋の強度は膝の角度で決まります。これらは彼女の偽証です」
「背中や太腿には、どういう気持ちで触れました?」
「ただつられて触れただけ」
「触れた時間はどのぐらいですか?」
「1秒ぐらい」
「目撃者は『5分ぐらい、背中や肩に触っていた』と証言していますが、間違いですか?」
「間違いというより偽証だと思います」
「偽証する理由は何でしょうか?」
「数年前、私が彼女を『貧乳、短足』扱いした事に対する、女ならではの復讐だと思います」
「今の話、後で詳しくお聴きします。
原告女性に対して、何かセクハラ発言をされた事はありませんか?」
「ありません。唯一、心当たりがあるのは、彼女の顔がフィギュアスケータの樋口新葉に似ている。顔もだけど、体型的にも似ている。『新葉さんはフィギュアスケーターとしては非常に珍しいグラマラスな体型である』という話はした事はあります。最大限の誉め言葉です」
「今回以前に、原告女性の身体に触った事はありませんか?」
「体組成計で筋肉量や脂肪率、水分率などを測定してもらったことがありますが、機械でプリントすると有料ですが、手書きして貰うと無料になります。手書きして貰った時にお礼を言って、肩をポンと叩いたことはあります」
「原告女性とは会話はよくされるんですか?」
「挨拶は誰に対しても必ずします。週に3~4回は利用してるので、その時は必ず。だから、100回近くはしてると思います」
「挨拶以外では、ありませんか?」
「先ほどの”最大限の誉め言葉”以外では、女子更衣室でのロッカーの開け閉めが、やかましかったのを注意した事があります。隣の男子更衣室まで響いていたので、従業員としてはまずいのではないかと」
to the final Episode Part2
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