第39話 裁判終わって…

 人生、いろいろあるもんだ。

 神野は今回の出来事を振り返ってみた。かなりはっきりと思い出せる。通り過ぎて行った人物を一人一人思い出してみる。


野々宮奈穂(目撃者)

 もう4年前になるか。野々宮奈穂に完全な冗談ながら、失礼な事を言ってしまった。間接的な表現ではあるが、『貧乳、短足』と。

 自身のランニング仲間、トレーニング仲間の女性はたいがい貧乳気味で、ほぼ全員が全然気にしていない。仲間内で、普通に飛び交う言葉だ。

 だが、中には大きなコンプレックスになっている女もいるようだ。冗談が通じず、大きな復讐をされることもある。

『あざみの効用(味方だと思っていた仲間の中に思わぬ敵が潜んでいる)』を身をもって教えられた神野であった。


大友裕子(原告)

 大友裕子は益にも害にもならない女だと思っていた。大間違いだった。バイトの女子大生は明るい娘が多いが、おとなしい静かな娘は頭の中が分らない。

 多少なりとも知的面がスローな彼女は、しっかりした悪女に洗脳され易い。それに周囲のスタイルの良い、やや貧乳ながら美形の女性たちに自慢の胸や尻をアピールしたかったのであろう。


N警察署警察官

 彼らは集団で襲い掛かってくる。というより、チームワークで、上手く立ち回るというべきか。

 被疑者を訪ねたあと、2~3時間だと言って穏やかに誘う。パトカーに乗せてしまうと被疑者に犯罪者意識をさせる。

 取調室では足場の悪い部屋の奥にくぎ付けにする。途中で担当が代わる。初めは家庭環境、出身地、職歴など軽い質問で気持ちを和ませる。

 周囲に暇な連中がうろうろしているが、役割があるようだ。会話に自分との共通点があれば、『ああ、私もそうなんですよ…』といった具合に、会話を軟らかく導こうとする。

 取り調べの終盤、供述書のまとめにはいるが、立件するのに自分たちの都合の良い文言を使う。いくら、『当たった』とか『触れた』と言っても、『触った』としか記述しない。

 最後に、気に入らない文言があったので、『相談する人がいるので、今日はサインはしない』と言ったとたん、『後で、いつでも訂正できますから』と、即座に声がかかった。

 神野はKスポーツジムの前屈現場に続いて、ここでも同じ罠にかかった。人を陥れようとしている奴は、反応が鋭い。

 

 神野が今回最も不信に思ったのは現場検証である。

 何故に、被害者たる女および目撃者だけ現場検証を行い、被疑者にはしないのか? きちんと双方にしておけば、もう少し正当な裁判になったはずだ。

 被害者たる女、被疑者、目撃者の位置を正しく理解しておくべきである。恐らく、被疑者をちゃちゃっと犯罪人にして、司法送りにしたかったのであろう。


捜査検事

 警察官の作成した供述書から抜粋したものをそのまま供述書にしており、自らは何の捜査活動もしない。捜査検事・近松茂道なら、絶対に許さないであろう。何の価値もない検事。


法廷検事

 原告と目撃者の証言の食い違いを無視し、目撃証言だけを採り入れた。両者の証言が一致してなければ、採用すべきではないのではないか。

 求刑も”Door in the Face”を使うなど、三流もいいとこ。

 

書記官

 被告人を有罪にしたい裁判官に対する忖度が伺われた。

 原告証言および被疑者の供述に対して、あまり大きく食い違わないよう供述記録をごまかしている。即ち、目撃者は『被告人は原告のお尻を、何度も手を上下に動かして触っていた』と、述べているのに対して、書記官の供述記録では『何度も』を外している。明らかに、目撃者の偽証を目立たなくしたものだ。


弁護人

 N簡易裁判所 K弁護人

 もう少し積極的に現場に足を運び、現場検証を行うかと思っていたが、『証拠隠滅の恐れがあるので行かれない』とか…。被疑者だけが行かれないのか、まさか弁護人もなのか?

 原告や目撃者の法廷尋問の後、彼らの供述の一つ一つについて、真偽を自分に確認して欲しかった。そうしたら、現場位置や目撃位置、目撃位置からの距離などについて、裁判で争うことができたはずだ。最高裁のO弁護人の趣意書のような弁論を期待していたが、期待はずれであった。 


 O高等裁判所 Ko弁護人

 目撃者の、原告および被告人とは大きく食い違った、目撃証言をきっちりついてくれた。この趣意書を棄却するのは、高裁の3人の裁判官の能力、人間性を疑わざるを得ない。


 最高裁判所 O弁護人

 優秀な弁護士だと思う。こちらの思いをしっかり上告趣意書に込めてくれた。ただ、この趣意書は判決通り”事実誤認の主張”であり、最高裁への上告理由にはならない。そんな事は分っていたに違いない。でも自分があまりに一生懸命だったので、思いを伝えてくれたのであろう。


 N簡易裁判所 Na裁判官

 噂通りの手抜き、大企業優先の裁判官である。『疑わしきは罰する』と決めているようである。『疑わしきは被告人に有利に』の大原則を平気で破り、裁判官の権限を悪用している。一日でも早く、辞めて欲しいご老害裁判官だ。


 O高等裁判所 裁判官

 3人が担当しているが、控訴の棄却を”満場一致”とは記述してないのは、1人だけ無罪を主張してくれた裁判官がいたという事か?

 棄却理由では、『5秒間ずっと原告の臀部を触り続けていたものと思われる』などと、原告証言および被告人供述に反する事実誤認を平気で記述している。

 Wa裁判長はTVや雑誌でも見られる顔のようであるが、彼も中身はNa裁判官と同等の低レベルの裁判官であろう。



 振り返れば、後悔する事だらけだ。

 警察官や検事、国選弁護士、各々の人格いろいろ。それに裁判所にも簡易裁判所、高等裁判所、最高裁判所とあり、それぞれで役割が全然違う。

 神野はそんな基本的な事も知らず、最高裁までに冤罪が晴れれば良いと安易に考えていた。そもそも、裁判になる事自体全く考えてなかった。『世の女性がみんな貴方のお仲間のような人ばかりではない。セクハラと感じる女性もいるんですよ』といった、お灸を据えられる程度だろうと思っていた。


 N警察署に”招待”されてから、一体どれほどのミスをしたのであろう。N警察署では、警察官の作成した適当な供述書に、安易にサインをしてしまった。

 彼らの目的を察していれば、そんなヘマをする事もなかった。せめてあの時、義叔父に相談していれば…。


 K地方検察庁でもそうである。裁判になると分った時点で、サインを取り消す事ができたはずである。頭の奥に、(裁判で負けるわけがない)という自信が災いしたようだ。裁判の不公平さも知らず。


 X法律事務所でのミスは何といっても、野々宮奈穂の鏡越しの目撃位置および直接目撃位置を完全に勘違いしていた事。高等裁判直前まで気が付かないとは…。


 O高等裁判所への控訴趣意書の提出期限直前に、上記目撃位置に気づいたのであるが、”時すでに遅し”と諦めずに、Ko弁護人に相談すべきであった。そうすれば提出後でも、控訴趣意書の訂正は可能である事が分ったはずである。


 まさかの最高裁までいく事になって初めて、神野は本気になった。腹心の友を巻き込んだり、不法侵入を冒してまでして最高の”間取り図含む証拠書類”を作り上げたのであるが、遅すぎた。


 この"事実誤認"を証明すべく”間取り図含む証拠書類”を、もしもN簡易裁判所あるいはO高等裁判所で提出していたら、どうなっていたんだろう? どうなって…?



to the final Episode Part1.


 

 



 






 

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