第24話 N簡易裁判所公判5 論告・求刑 最終弁論 判決
翌月、Ka検察官の論告・求刑、K弁護人の最終弁論があった。
Ka検察官は準備していた文面を早口で一気にまくし立てた。神野には殆ど何を言ってるか聞き取れなかった。
ただ2つは、はっきり聞き取れた。
1つは、『略式裁判に一度は応じておきながら罰金額が30万円と知ったらすぐに正式裁判に訴えた』とのくだり。
もう1つは、『前屈の際、原告女性はお尻を一度だけ下から撫で上げられたと証言しているのに対し、目撃者はお尻を手で触り、何度も上下に動かしたと証言している。しかしこれは原告女性が怖さのあまり一番強く感じたところだけが記憶に残っており、あとは記憶をなくしている。目撃者証言通り、被告人は原告のお尻を触り何度も上下に動かしたものである』との文言。
神野には奈穂が偽証をしていることは明白であったが、2人の証言が大きく違う事により奈穂の目撃者証言は崩れたと思っている。しかしこのKa検察官はそれでも、目撃者証言の正当性を述べている。
最後に求刑として、罰金50万円と言った。これは三流検察官がよく使う『Door in the Face』というやつだろう。買い物目的の日本人観光客が外国で買い物をする時、30ドルで売ってる商品を20ドルで買う為に10ドルから値引き交渉に入るのと同じ方法だ。せこい奴だ。
K弁護人の最終弁論はかなりひどかった。つっかえ、つっかえ文面を読んでいた。とても真の被害者である被告人を守ろうとしているとは思えない。
神野は敗北を悟った。最後に神野にも言い分が与えられた。しかし、怒りに震える彼に当初言おうとしていた言葉が出ない。
発言時間も制約を受け、これだけ言うのがやっとだった。
『Kスポーツジムが私を憎んでいる事がまだあります。プールに汚物が浮いていたことがありました。でも回収して消毒するだけだった。それを指摘した自分を憎んでいます。目撃者の証言は殆ど偽証です』
帰りに神野は静かに訊いてみた。「裁判て、こんな程度ですか?」
K弁護人も静かに答える。「こんな程度と言えば、こんな程度です」
翌月、判決が言い渡された。
『被告人を罰金30万円に処する』
Ka検察官の『Door in the Face』が見事、的中したわけだ。
しかし、神野はこの時点では大いに腹立たしさはあるが、次を見据えていた。高等裁判では絶対勝てる。こんな理不尽な判決が通るわけがない。
神野がNa裁判官の判決理由説明の中で気になったところがいくつかあった。
『Kスポーツジムが被告人を退会させようと思えば、契約解除すれば済む。虚偽の証言をさせる必要はない。Kスポーツジムのような健全な企業がそのような事をするはずがない』
『被害者の供述態度は控えめな印象を与えるものである』
そして一番、神野が引っかかったのはこのくだりだ。
『被害者は《お尻の真ん中あたりまで1回撫で上げられた。時間は1秒未満》と述べている。 対して目撃者は《鏡越しに見て、お尻の付け根から丸みの部分まで手を上下に動かして撫でていた。2~3メートルに近づいて見たらまだお尻を触っていた》と述べている。 確かに時間、回数に違いがあるが、最後の重要な部分では両者の供述は完全に一致している』
(ふざけるな~!)
K弁護人が期待していた通り、『原告女性と目撃者の供述は完全に不一致で、目撃者の供述は信頼性に欠ける』はずが、悪徳裁判官により揉み消されてしまった。
前回の公判ではKa検察官は原告女性の証言より目撃者の証言を優先させていた。
一方、Na裁判官は目撃証言より原告女性の証言を優先させた。それは正しい判断だとは思う。しかし、両者の供述が不一致なら、どちらも信頼性を欠くとの判断が正しいのではないか。
最後に悪徳裁判官は、上告するならどうたら…言ったあと、『閉廷します』と言って、そそくさと逃げるように退室した。
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