第11話 N簡易裁判所公判2 原告尋問③

 KA検察官の尋問は続き、

「その後、どうなりましたか?」

「フロントスタッフが鏡越しに手を見ていたので、私に気を使って、『電話がかかっているよ』と声を掛けてくれ、私は走ってその場を去りました」


「声を掛けてくれたのは同僚の女性の方ですね?」

「はい」


「その人が気を利かせてくれて、『電話が掛かってますよ』と言ってくれた」

「はい」


「それをきっかけに貴女は被告人から離れた」

「はい」


「結局この時、電話は掛かってきてたんですか?」

「掛かってないです」


「それで、その女性とは何か話をしましたか?」

「その時あったことを話しました」


「そのことについて同僚の女性は何か言ってましたか?」

「『それはおかしい』と心配してくれてました」


「その後、どうしましたか?」

「その日出勤していた社員の方に報告しました」


「それから、どうなりましたか?」

「次の日に本店長が、本人に事実確認されて認められたので、

警察に届けるかどうか話をして届け出に行きました」


 この日、神野はKスポーツジムには行ってない。2日後の勘違いのようだ。

 それに、当たったのを認めただけで、触ったとは一言も言ってない。


「翌日に本店長さんが被告人と話しをしたということでしょうか?」

「はい」


「その時に認められたというのは、そういうことをしたのを認めたということでしょうか?」

「はい」


「その後に貴女が本店長と一緒に警察に届け出をしたといことでしょうか?」

「はい」


「今のお話の中で、身体を触られたときに直前に許可をとるような言動はありましたか?」

「なかったです」


「被告人は貴女の足首からふくらはぎにかけて触ったという話をしているんですが、そんなことはありましたか?」

「いや、足首を触られた記憶はないです」


「ふくらはぎはどうですか?」

「ふくらはぎもないです」


 神野は親しいアスリート仲間に初めてこのストレッチングの指導・説明をするときは、足首から臀部下部あたりまでスライドすることが多い。

 状況によっては、足首、ふくらはぎは割愛するが、この時はそうしたものと思われる。


「被告人は『お尻は触っていない。触ったとしても偶然である』と言ってるんですが、そうではないんですか?」

「はい。偶然ではないです」


「それは、何故そう思うんですか?」

「触られ方が偶然ではなかったです」


「その時以外に、貴女は被告人から嫌なことをされたことはありましたか?」

「セクハラ発言とか、肩とか手を触られたことはありました」


 神野には全く心当たりはなかった。

 セクハラ発言ではないが、胸の立派なフィギュアスケーターに顔も身体つきも似ていると言った記憶はあった。どうやらこのことを大袈裟に脚色したものと思われる。これも奈穂の入れ知恵か?

 裕子は仕事のできない子だ。同僚と比較してかなり劣っている。また体形面でも若い子たちは概ねすらっとした美形の子が多い。一方、裕子は脂肪の多い体質だ。

 それらの劣等感故に、胸を同僚に自慢したかったのではないか?

 今回の公判では発言してないが、本店長や警察官には『胸が大きいと言われた』とずいぶんはっきり言っていた。


「肩とか手を触られたことは以前にもあったんですか?」

「はい」

 

「お尻とか太ももとかを触られたことはあったんですか?」

「それはなかったです」


「今回の事件が初めてということですか?」

「はい」


「セクハラ発言という話があったんですが、具体的に何か覚えていますか?」

「覚えてないです」


「言われた覚えはあるということですね?」

「はい」


「被告人に対して、どのような刑罰を望まれますか?」

「厳罰をお願いします」



                     to the next Episode






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