第10話 N簡易裁判所公判2 原告尋問②
「続いて、前屈のときにお尻を触られた時の話を伺いますね」
「はい」
「どういう流れでそういうことをすることになったんでしょうか?」
「それもやって見せて欲しいと言われて、前屈をした時に、もっとこうして、もっと下に前屈をしてという意味で、もっとこうしてと言われながら、左の肩とお尻を同時に触られました」
この説明だと、太ももを滑らした旨の説明がない。
神野は考えた。これは裁判官にケツに触られたと印象付けるため、故意に太もものことを話さなかったのか? これも奈穂の入れ知恵か?
「一つずつ確認しますが、前屈というのは一般的にいう、立った状態で両脚を前に倒して、両手をつま先の方にのばすというような体勢でよろしいですか?」
「はい」
(全然違う。こんな体操は小学生でも知っている。前に出した脚を後ろ脚に重ねて膝を押さなければ意味がない)
「それを被告人からやって欲しいと言われたということですね?」
「はい」
「触られ方についての確認ですが、太ももとお尻の付け根あたりから上に向けて触られたということですか?」
「はい」
(違う。太ももの下の方からケツの付け根あたりまでだ!)
「手の形というのはどんな形だったんでしょうか?」
「こう……」
「今、証人は掌を開いた状態で、下から上にすくい上げるような動作をしていましたが、そのような形でお尻を触られたんですね?」
「はい」
「その姿は見えていたんでしょうか?」
「姿は見えてないです」
「被告人はどの位置にいたんでしょうか?」
「私の左後ろにいました」
「先ほどお尻を触られたときの触られ方ですが、もう少し詳しく話してもらえますか?」
「お尻からつけ根まで撫でるように触られました」
「お尻を触られた部分についてお伺いしますが、太ももの付け根からお尻のどの部分まで触られましたか?」
「お尻の真ん中あたりまでです」
「『もっとこうして』と言われたそうですが、それはもっと前屈の姿勢をという意味だと思ったということですか?」
「はい」
「前屈の指導を受けるのに貴女の身体を触る必要性はあったんでしょうか?」
「ないと思います」
「触らないと解らないことはあったんでしょうか?」
「解ることはないと思います」
神野はKa検察官のこういった尋問にも疑問を感じた。
『貴女は被告人から、前屈の指導を受ける必要があったと思いますか?』という尋問をまずすべきであろう。
一般的な前屈の仕方は殆どの人は小学生のときに習い、知っている。彼は野外ランナーの為の、前屈ではなくアキレス腱から臀部下部を一気に伸ばすストレッチングの効果を理解して欲しかっただけである。
筋トレやストレッチングを効果的に行うのであれば、部位に触れて意識を高めるのはアスリートとしての常識である。
(やはり、この子には豆腐が必要だ)
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