第3話 赤い国との戦い

 外来治療中の2年間は、私は「赤い世界」との戦いに費やされました。それは非常につらく、私の身体的・精神的消耗をもたらしましました。私が、「赤い国」と名付けたそれは、私を毎回恐怖のどん底に突き落とし、私は、その世界では無力でした。


 恐怖の襲来と、あの能面のお坊さんが出現する「赤い世界」、いわゆる非現実的世界の間で、私は気狂のように、喚き叫び回ったほうがましだと思いました。その方が何も考えず、何も感じない、つまり無感情の状態になると思っていたからです。私は、狂気とはどのようなものかはまだ理解できていませんでした。そして私は、「漆黒の太陽」と周りの「赤い世界」捕まらないためのの絶望的な鬼ごっこをしていたのです。




 私は初め、狂気になることは決して病気であるとは思っていませんでした。それはむしろ、現実に対抗するも一つの世界、無慈悲で、目もくらむ、赤の光と漆黒の影が支配する、果てしもない広漠たる空間や、無限に続く平べったい赤道、漆黒の太陽の冷たく赤い光に照らされた鉱物的物質たち、まるで、北極の荒地のように荒涼とした国でした。このはりつめた空虚の中で、すべてのものは不変であり、不動であり、凝結し、結晶化していました。物体は意味をもたない幾何学的立方体であり、そこに配置されたその世界の舞台の小道具のようでした。


 人々は太陽の光に照らされた人々はカツンカツンと音を立てながら能面のお坊さんに変化していき、彼らは見な冷え切った、私を殺すためだけに存在しているような気がしました。私の身体は恐怖で固まり、名伏し難い苦悩と絶対的孤独の中にあって、まるで私自身もその舞台の小道具のような結晶化された塊のような状態でした。永遠にあらゆるものを取り囲んでいるこの生命的接触を失ったこの世界こそ、狂気そのものであることを悟りました。




 私はのちに、この世界からの隠れ家であり、私の命であり、私の現実そのものであり、私の氷の魂の中にある、暖かい小さな炎をみつけることができるのでした。

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