17本目 涙の理由
何をやっても中途半端。
熱しやすく、冷めやすい。
いざ、気持ちを切り替え新たな一歩を踏み出そうとも、二歩目を踏み出した試しはない。
何か凄いことをしたい、何か作りたい。何でも良いから評価されたい。
でも、大したことは何ひとつやり遂げられなかった。
勉強も趣味もスポーツだってちょっと齧っただけですぐ辞めた。
全てが凡。
“何者か”になりたいと言いつつ、何もしないで過ぎる日々、漠然とした不安で思考に靄がかかる。
環境のせいでも、金が無いからでも、時間が無いからでもないのは分かってる。
すべて自分のせい。いつまでも全てにおいてワナビ止まり。
こうやって生きているうちに没個性な人生が終わっていくのだろうか。
“何者か”になれる日は、いつか訪れるのだろうか。
× × ×
「今回書いた脚本、どうでしょうか?」
襟首がヨレたTシャツを着ている若い男は、固唾を飲んで返事を待った。
向かいに座る、隙のないスーツと上品なネクタイを締めた男は、手に持つ資料に目をしばらく、ついに顔を上げた。
「はっきり言って、これはないね」
Tシャツは落ち込む様子でもなく、すぐスーツに食い下がる。
「え?正直、自信あるんですけど」
「君、これ仕事だよ?」
「もちろんです!」
「ダメ、全部使えない。はぁ、逆にどこが良いと思ったの」
スーツはため息をつきながら、ボツの通知を繰り返す。
「この冒頭のモノローグ、自信を失った若者がこれから努力して、あがいて、成長していく、そんな物語が今にも始まりそうじゃないですか!」
「うちはそういうの求めてないんだよ!」
「求めるってなんですか!?」
「いや、だから......」
ヨレTは遂に身を乗り出して叫んだ。
「じゃあハッキリどこがダメなのか言ってくださいよ!」
スーツはTシャツを上回る勢い立ち上がり怒鳴った。
「だって俺たちが作るのAVじゃん!」
つづく
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