第102話 盾の修理
「何を考えている。まさか、自分が修理した武器が人を
「え!?」
そのものズバリ考えを見透かされて、私は驚きの声を上げてしまった。
「そんな事だろうと思った」
ふん、とミカエルさんが鼻を鳴らした。
「魔導具師になれば……いや、武器や刃物を扱う職人も、みな同じ苦悩に直面するものだ。だがな、道具に罪はない。結局は使う者次第だ。回復ポーションだって、
それって、痛めつけたあとに回復させて、また傷つける……ってこと? 怖すぎる……!
ミカエルさんの言うことはもっともだ。物語の中でも散々言われてきていた。
包丁が殺人に使われたからって、それを作った人や
それを言ったら、トンカチだって
戦闘機やミサイルだって……人を傷つける物でもあるけど、大切な人を守るための物だって考えることもできる。
私が修理をした武器が人を傷つけたって、それは傷つけた人の責任で、私のせいじゃない。
理屈ではわかる。
わかるけど、たぶん私はずっとこの
「どうしても気になるなら、武具の修理は請け負わなければいい」
「でももう、
ミカエルさんは斜め上を見てから、私に視線を戻した。
「それもそうか。では、
「私が修理した武器で助かる人もいますよね?」
「ああ」
「それなら、修理できるようになりたいです」
モンスターを倒すために使われるかもしれない。そしてその武器のお陰で死ななくて済む人がいるかもしれない。
誰かのためになるなら、私はやりたい。
「そのためには、まずは生活魔導具の修理ができるようにならなければな」
「う……そうですね。その通りです」
と言っても、私にできなかった修理は今のところない。
自分の魔力を使わずに素材で修理できるようになるまでは、ミカエルさんが修理屋のメニューにある魔導具以外の修理を許してくれないだけで。
少しくらいなら大丈夫じゃないかな、とは思うんだけど、お師匠さまの許可が下りないんだから仕方ない。
「では、修理に取りかかるぞ」
「はい」
ミカエルさんは盾を裏返しにした。
へえ、盾の裏側ってこんな風になってるんだ。手で持つハンドルみたいなのがついている。そりゃそうか。
その上に材料を置いていく。三個ある魔石のうちの二個も置いた。
ミカエルさんは残りの一個を右手で持って、左手は盾にかざした。
私はテーブルの向かいに立って、修理の様子を見守る。
目をつぶったミカエルさんが、魔石を盾に近づけていく。
気迫のような物を感じて、すっごく集中しているのがわかった。
その体勢のまま、ミカエルさんはじっとしていた。
つられて私も息を
でも、なかなか魔石の光は消えないし、材料も盾の中に入っていかない。
ミカエルさんのこめかみから汗が伝った。
やがて、すっと魔石の魔力が抜けた。
だけど素材に変化はなく、盾はくすんだままだった。
失敗だ。
ふぅ、と息をついたミカエルさんが目を開けた。
「駄目か。やはり水竜の盾ともなると
ミカエルさんがハンカチを取り出して、汗を
何分たったのかはわからない。だけど、すっごい大変なのはわかった。魔石を近づけるだけじゃ全然できないんだ。
修理屋の人たちはミカエルさんよりずっと修理が得意だろうけど、ミカエルさんだって、下手くそってわけじゃないと思う。
これは確かに時間がかかるかもしれない。
ミカエルさんは水差しから浄化の魔導具が入ったコップに水を
「もう一度いくぞ」
再チャレンジだ。
さっきよりも長い時間、ミカエルさんは集中し続けた。
だけど、結局、盾を修理することはできなかった。
「駄目だな」
ミカエルさんが手に持っていた魔力の抜けた魔石を盾の上に置いた。
「集中している間って、何を考えてるんですか?」
「人それぞれだが、わたしは材料が球になるところをイメージしている」
「私もそうです。あと、修理~、修理~って念じてます」
材料を使うのと修理するのを強く願っている。気を抜くと、魔力だけで修理しちゃったり、充填しちゃったりするから。
失敗しても素材が消えたりしないってのはいいよね。
修理のコマンドを選んだら一瞬で結果が出る代わりに、失敗すると素材がなくなっちゃうゲームとかもあるよね。
こんなに貴重な素材が消えたらすごいショックだろうな。
この世界の元になったゲームは、修理屋の人に修理をお願いするんだから百パーセント成功するんだろうけど、実は修理屋の人は裏ではこんな大変な思いをしていたわけだ。
私もいつかはこういうのも修理できるようになるのかな。
ミカエルさんが疲れちゃうから早く修理されてあげてよ、という気持ちで、盾に乗っている魔石をつんっとつついた。
バァァァァ……。
「えっ!?」
「なっ!」
盾の上の材料が光ったかと思うと、色んな色の小さな球になり、しゅぽんと盾の裏に吸い込まれていった。
三個の魔石の中心の光が消える。
そして――盾の曇りはとれてピカピカになっていた。
「まったくお前は……」
ミカエルさんが片手で両目を覆ってため息をついた。
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