第103話 水竜の盾の効果
「えと、これ……」
私が水竜の
「ああ、そうだ。セツが修理したのだ」
「ですよね」
視線を盾に戻す。
やっぱり何度見てもピカピカだ。曇りの欠片もない。
持ったらすごく重い感じがするに違いない。盾なんだから元々重いんだろうけど。
「体は大丈夫なのか?」
「え? ああ、はい。何とも。魔力じゃなくて素材を使ったので」
体から魔力が抜けていく感じは全然なかった。
「こんなに簡単に修理されてしまうとわたしの立場がない」
ミカエルさんが肩を落とした。
「で、でも、ミカエルさんは修理屋ではないですし!」
「修理屋の卵の師のつもりだったのだが?」
「……すみません」
フォローしたつもりが、追い打ちをかけてしまったらしい。
そうだよね……修理の研究してるしね……。
「こればかりは素質によるものだから仕方がないな」
肩を落としたまま、ミカエルさんが諦めたように言った。
「なんにせよ、防具の初修理の成功だ。おめでとう」
「あ、そっか。ありがとうございます!」
初めて防具の修理ができたんだ。
生活魔導具だけじゃなくて、防具も修理できるってことがわかった。
「そういえば、水竜の盾にはどんな効果があるんですか?」
魔導具というからには、何らかの効果があるはず。
「ああ、効果は防火や防熱だな。このままでも火に強いが、スイッチを入れれば水の
ミカエルさんは、比較的損耗率のたまっていない盾を手に取って
そして裏側にあるスイッチを入れると、盾の前、触れるか触れないかの位置に水の膜ができた。
透き通ったその膜は表面がぷるぷると震えて波打っている。
ミカエルさんがこっちに盾を向けてきたので、つんっと触ってみた。
指が濡れた感触がする。
ただの水だ。
でも、力を入れても指は水を貫通することができなかった。
「すごい」
まさに水の盾なわけだ。
ミカエルさんがスイッチを切った。
盾の損耗率が増えて、さっきよりほんの少し曇った。
「水で攻撃とかはできないんですか?」
炎の攻撃をしてくるモンスター用ってことは、相手は火属性だよね。水に弱そう。
「水竜の盾にはそういう効果はない。防御専門だ」
「てことは、攻撃できる盾もあるってことですね」
「ある。が、これよりも高級だ。そうそうあるものではない。修理も難しい」
損耗率のたまった壊れかけの盾が倉庫に眠っているところを想像した。
難しいっていうのは、修理すること自体が大変なのもあるし、材料を集めるのも大変だってことなんだろう。
どんな材料が必要なのかも、それを手に入れるためにどれだけ苦労するのかはわからないけど、薬草を集めるのだけでもあんなに危なかったんだから、ずっと大変なんだってことはわかる。
盾本体を手に入れるのはきっともっと大変なんだ。
私は安全な所で修理することしかできない。
「あの、もう一枚、修理してみてもいいですか?」
たった今修理したばかりのピカピカの盾の隣を見る。この盾はすごく曇っていた。サビサビって感じ。
ぐっと目に力を入れて見ると、ピカピカでも曇ってもいない、ただの魔導具に見える。
ちょっと前までは意識しないと曇りは見えなかったのに、今は意識しないと普通の見方ができなくなっちゃった。
「駄目だ」
「えっ」
てっきり許可してくれるものだと思っていたのに、ミカエルさんにあっさりと却下されてしまった。
「今のはたまたま材料が使えたからよかったものの、うっかり自分の魔力を使ったらどうするのだ。このランクの魔導具では、先日のように魔力枯渇で倒れてもおかしくない」
「うぐ……」
それは私も思った。
盾を修理しちゃった時、材料が吸い込まれていったのを見て「セーフ!」って心の中で言っちゃったもん。
「第一」
ミカエルさんが指を一本立てて私の顔をじっと見る。
すごく真剣な顔だ。
何を言われるんだろう、と緊張した。
師匠を差し置いて弟子にはさせられない、とか?
でも何となく、ミカエルさんはそういう上下関係にはうるさくないんだよね。
最初はすっごく偉そうだったけど、私の素質を知ってからはそんなことなくなったし、一番側にいるガンテさんも、そんなすごい家出身ってわけでもないみたいだし。
貴族としての体面を大事にはするけど、身内には甘い、みたいな。
むしろ、経験になるから、って私にさせてくれそう。
それとも、自分が受けた依頼だから、とかかな?
これもなんか違うような気がする。
使える物は使えってタイプ。
貴族だから人に何かをやらせるのは慣れてるだろうし、お金で解決するならそうしてそう。
じゃあ何だろう、とドキドキしていると、ミカエルさんが口を開いた。
「修理をしようにも材料がない」
「あっ」
私は手元のメモを見た。
そうだった。水竜の
「というわけで、今日は仕舞いだ。
「わかりました……」
やってみたくても、材料がないならどうしようもない。
私なら材料なしでもできるかもしれないけど、魔力不足で倒れるのは嫌だもん。
そうして、その日は、私とミカエルさんは帰宅した。
んだけど――。
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