第101話 水竜の盾のレシピ
いつものように、魔導具の仕分けをやって、一件だけ入ってきた修理をやって、文字の勉強をやって、レシピの勉強をやっていると、夕方にミカエルさんが戻ってきた。
ミカエルさんの後から、兵士が五人入ってきた。
両手に重そうな盾を持っている。きっと水竜の盾だ。
盾をテーブルの上に並べると、兵士はミカエルさんに一礼して帰っていった。
すぐ近くに行って見てみると、何となく水に関係する物なんだろうな、と感じた。水竜の盾だって知ってるからかもしれないけど。
ミカエルさんは盾の一枚の両脇に両手を突いて、ため息をついた。
「依頼、受けることにしたんですか?」
「断れなかった。王命だそうだ」
王宮にいた頃にたまに会っていた王様を思い出す。確か、ウルド王、だっけ。
確かに王様の命令なら断れない。ミカエルさんにとっては伯父さんってことになるんだとしても。
「一体どうやってこの数を修理すればいいのだ……」
「あの、私、手伝いましょうか?」
「いいや、セツにはまだ早すぎる」
ミカエルさんが首を振った。
「期限までに出来る範囲で、と言われているから、やれるだけやる」
「素材はどうするんですか?」
依頼主――この場合は王様になるのかな――が用意するって話だったような。
でも、運ばれて来たのは盾だけで、材料らしき物はない。
「まだ準備中だそうだ」
「一つもないんですか?」
「ああ」
えぇぇ……素材持ち込みで期限切って依頼してきて、なのに材料ないの?
「一枚は手持ちの素材でなんとかするとして、残りは来るのを待つしかないな」
「ミカエルさんが自分で手に入れるとか」
公爵家ならなんとかできそう。
「こちらで手配したとしても、市場にはもうないだろう。ギルドにはもう依頼は出ているし、公爵家の人間に取りに行かせても取り合いになるだけで意味はない」
そうか。王様が動いてるんだもんね。あっちが優先されるに決まってる。
「ああ、全く、無茶を言う……」
「でも、その分お金はもらえるんですよね?」
空気を良くしようと思って言ってみる。
「金などどうでもいい」
「そうでした……」
はあ、ともう一度ため息をついたあと、ミカエルさんが顔を向けた。
「わたしはこれから一枚修理する。先に帰るといい」
「私、ミカエルさんが修理するとこ、見たいです!」
私は勢いよく手を上げた。
これまでも何度か研究で修理している所を見たり、説明してもらったりはしたことがあるけど、装備品の修理は初めてだ。大変だっていうのもどんな感じなのか知りたい。
「ああ、そうだな。見せるのもいいか」
薬棚に向かうミカエルさんに、ついて行く。
「水竜の盾の修理に必要な物は――」
水竜の
青真珠――青い真珠、二個。三個しかなかった。
妖精の羽根――虹色に光る薄い羽根、一枚。五枚あった。
水――普通の水、コップ一杯。水道の魔導具で出した。
「こんなに必要なんですか?」
今まで私がやってきた修理はせいぜい二種類しか使わない。
「それと、これだな」
ミカエルさんが大きな魔石を三つ出した。
「青真珠を三個使えば妖精の羽根と水鱗は不要だが、青真珠の方が貴重だからな」
「へえ」
レシピと一緒にメモに書き込む。できるだけこっちの文字で書いたけど、わからない物は日本語だ。
ここに十枚も並んでいて、他にもたくさんあるって言うから、水竜の盾って大しものじゃないんだろうなって思ったけど、こんなに高価そうな素材を使うんだから、実は結構レアな魔導具なのかも?
「これだけの水竜の盾、どうやって集めたのか」
並んでいる盾を見て、ミカエルさんはうんざりしたように私と同じ疑問を口にした。
「軍隊で使うんですか?」
戦争……が起こるのかな。本物の戦争は知らないけど、その悲惨さは歴史やニュースで知っている。
「この数ならそうだろうな。どこかのモンスターの討伐だろう」
「なるほど」
モンスターか。よかった。
もし戦争に使うような物だったら、修理したくないし、ミカエルさんにもして欲しくない。
でも……装備品を修理するってことは、いつかそういう時が来るかもしれないんだ。
依頼の時に用途を聞くわけじゃないから、何に使われるなんてわからない。もしかしたら、私が修理したものが、人を傷つけるために使われちゃうかも。
え、でもそれって、
前に自分でも、そういう事件も多そうなのにって思った。
じゃあ、もしかして、私が当たりにした投擲弾が、誰かを傷つけたことがあるかもしれないってこと……?
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