第95話 納税の義務
「ミカエルさんっ!」
「なんだ?」
「私っ、修理のお仕事してないのに、ポーションも魔石もたくさん使っちゃってて!」
「問題ない。これは弟子を育てるための費用だ。わたしが払う」
「そんなの駄目です!」
なんでミカエルさんが? 私の練習なのに? 師匠って弟子のお金まで面倒見るの?
「セツ、わたしが公爵家の人間だと忘れたのか? 金なら使い切れないほど持っている。気にするな」
「そういう問題じゃないです!」
ご飯をおごってもらうくらいなら嬉しいけど、これは、なんか違う。
仕事をしてるんだから私は社会人ってことだ。なのに仕事のことで甘えるのは変だと思う。
「師が弟子に金をかけるのは将来自分の利益になると踏むからだ。いわば投資だな。それと、セツが嫌がると思っていたから言わなかったが、特異な魔導具師を観察できるいい機会でもある」
「ミカエルさんにも利益があるってことですか?」
「そうだな」
「なら、わかりました。お言葉に甘えます」
「でも、私がちゃんと修理屋として稼げるようになったら、私が払いますから!」
ふっ、とミカエルさんが笑った。
「セツは面白いな」
「何がですか」
ミカエルさんは笑った理由を答えてくれなかった。
馬鹿にされたような感じではなかったから、私もそれ以上は聞かなかった。
* * * * *
練習の合間に、魔導具の箱が運ばれてきたら、選別をして、不発弾を「当たり」にする作業をする。
選別の時に出てきた用途のわからない魔導具は、毎回ミカエルさんが説明してくれるから、私もだいぶ詳しくなった。
魔導具には大きく二種類ある。生活で使う物と、戦いで使う物だ。
使うとレンズに色がつくだけの眼鏡、なんて謎の魔導具もあるけど、それは一応、生活に使う物として分類されている。
その他に、本当に用途がわからない魔導具もある。
スイッチを入れるだけじゃ駄目で、特殊な条件下でしか動作しないんだって。
光を当てていないといけなかったり、浄化の魔導具みたいに水の中でだけでしか動かなかったり。
もしかしたらその中に、
まだ使い方がわかっていないけど、壊れる寸前で試してみることができない、っていう魔導具なんてものもある。貴重だから壊すわけにもいかないし、修理レシピが分かるまで王宮で保管されているらしい。
壊れる直前で使えないっていうのは、用途がわかっている魔導具の中にもある。
都市間を結ぶワープ装置もその一つ。
すごく昔は王族なんかが結構頻繁に使っていたらしいんだけど、損耗率がたまってしまった今は、本当に必要なときしか使われない。前回使われてたのはもう二十年も前のことだ。
そういう、レシピのない魔導具を修理できたらいいのに。
それこそ、素材がなくても修理できる私の能力がいかせる分野だ。
でも、私には圧倒的に魔力が足りない。それじゃあ、レシピがないような複雑だったり大きかったりする魔導具は修理できない。
今の所、素材を使うのを邪魔する、厄介な能力でしかない。
そんなネガティブな事を考えていると、一階のお店のベルが鳴った。
チリンチリン、と涼やかな音だ。
「行ってきます!」
私はやっていた選別をいったん止めて、工房を飛び出した。
修理するための携帯用コンロの魔導具と代金を受け取って工房に戻った私は、お金を宝箱に入れた。
宝箱っていうのは私が勝手に呼んでいるだけで、本当はただの金庫だ。だって金貨や銀貨が入ってるんだよ。宝箱じゃん。
登録した人しか開けられないっていう高価な魔導具もあるけど、開けるたびに本人の血を垂らさなくちゃいけないらしくて、そこまですごくお金を持っているわけでもないから使っていない。
宝箱の鍵をカチャリと閉めて、ふと思う。
「先月っていくら儲かったんだろう?」
魔石の値段は知ってるけど、素材の値段はわからなかったから、魔導具一個当たりいくらの利益があるのか知らなかった。
素材を使わずに魔力で修理しちゃう時もあるし、練習用の素材や魔石はミカエルさんに出してもらえるし、まさか赤字になるような価格設定ではないだろうから、利益は出ているんだろう。
お店に戻ろうとして顔を上げた私は、ミカエルさんがひどく驚いた顔をしているのに気がついた。
「どうしたんですか」
「しまった……」
ミカエルさんが苦い顔をして片目を覆い、うつむく。
「何がです?」
「納税を忘れていた」
「納税? 税金ですか?」
「そうだ。先月分の税額の算出と納税処理をしなければ。いつまでだったか……」
「大変そうですね」
大人は色々あるんだな、と思いながら言うと、ミカエルさんは眉を寄せた。
「
「私の?」
税金が? 何で?
「修理屋をやっているのだから当然だろう」
「あ、そっか。ギルドに、受けた依頼と使った物を報告しないといけないんですね」
まずい。
練習の成果を記録するために、一応メモは残してあるけど、依頼と練習がごちゃごちゃになってる。
依頼の数はまだ少ないから、ギリ覚えてるはず……。
斜め上を見ながら、記憶をたぐり寄せる。
この修理が終わったら、確認しよう。
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