第94話 素材を使った修理
それで、自分の魔力ではなく素材で修理をできるようになるべく、私はひたすらランプと浄化の魔導具を修理している。
ギルドの買取品を修理しちゃえばいいんじゃないかと思ったけど、それを無料でやると、他の修理屋さんの仕事を奪ってしまうことになるから駄目なのだそうだ。
だから、家中の魔導具をかき集め、練習のためと言ってギルドの職員さんの魔導具も借り、ミカエルさんもお屋敷からたくさん魔導具を持ってきてもらった。
ランプと浄化の魔導具なら使えばすぐに損耗率が上がるから、使っては修理、使っては修理、とやっていけばいいんだけど、なるべく損耗率の高い魔導具で練習した方がいいらしい。たぶん経験値的なやつが。
……なのに、いつまでたっても成功しない。魔力を充填しちゃう時もあるし。
「魔力を使わずにどうやって修理するんですか?」
「逆にわたしが聞きたい。どうやって素材を使わずに修理しているのだ」
ミカエルさんに問いかけると、ため息交じりに返された。
「魔石を近づけると、自然に魔力が抜けてくんです」
「魔石を近づければ、自然に素材が使われる」
私たちの会話はかみ合わない。
ゲームならどっちを使うかコマンドで選ぶんだろうけど……。
それなら私は、素材を使うっていう選択肢が出てこないキャラってことか。
ううん、違う。これはゲームじゃないんだから。
たぶんこれは感覚の問題だ。
魔導具の修理には素材が必要だって知らなかったし、
「まだ魔力は平気か」
「はい。まだ大丈夫です」
ミカエルさんには、決められた量以上には絶対やるなと言われていて、今もそれを守ってやっていた。魔力は十分に残っている。
「もう一度見せてみろ」
もう壊れる寸前というくらい使い込まれた魔導具を、ミカエルさんが私の前に置く。
私はその横に蛍草を置いた。
あとは魔石を近づけるだけだ。
動作だけ見ればすごく簡単だけど、素質がある人にしか修理はできない。
「魔力を使わないように気をつけるのだぞ」
「それはわかってるんですけど……」
魔力を使わないように――。
そう願いはするけれど、私の意思とは関係なく勝手に抜けていってしまうのだからどうしようもない。
「魔力ではなく、素材を使うのだ」
「素材を使う」
オウム返しのように呟いたとき、頭にひらめいた物があった。
私は今まで、魔力を使わないように、とは思っていたけど、素材を使うように、とは思っていなかった。
その感覚に従って、魔導具を蛍草の上に置き直す。
何となく、この方が上手くいく気がした。
魔導具には触れず、テーブルの上に置いたまま、右手の魔石を近づけていく。
素材を使って修理、素材を使う、素材を使う――。
頭の中で念じる。
コツン
「あっ」
魔石を魔導具にぶつけた瞬間、素材がふっと消えたかと思うと、小さな光がランプの魔導具をくるりと一周し、中に入っていった。
魔導具の曇りはとれて、ピカピカになっている。
「今のは……!?」
私は確かめるようにミカエルさんを見た。
いま私素材使ったよね? 修理できたよね? 成功だよね!?
「あ、ああ、成功だ」
驚いたような顔をしつつ、ミカエルさんはしっかりと言ってくれた。
「やったー! できたー!!」
わーい、と両手を挙げて喜ぶ私の頭に、ぽんっとミカエルさんの手が乗る。
「よくやった」
「っ!」
にこりと微笑まれて、ドキリと心臓が跳ねた。
「こっ、子ども扱いしないで下さいっ!」
思わずぺいっと手をはねのけてしまい、しまった、と思った。
ミカエルさんは嫌な顔をすることなく、あごに手を当てる。
「弟子は子どものようなものだが……そうだな、セツはわたしの妻になるのだから、子ども扱いはよくないな」
「妻にはなりませんっ!」
* * * * *
感覚を忘れないうちにとそれから練習を続けて、どうにかこうにか何回かに一回は成功するようになった。
素材を使わずに自分の魔力で修理をしたときは、魔力が抜けていくような感覚も感じられるようになった。
ただ、修理が
そもそも修理自体が失敗することもあった。魔導具には魔力が十分充填されているはずなのに、魔石の魔力だけが使われてしまって、何も起こらないのだ。
魔力が少なくなると疲れてきて集中力が落ちるみたい。その時の状態に左右されるというミカエルさんの言葉は本当だった。
そのたびに甘ったるい魔力ポーションを飲まされるから、最後には自分の体が砂糖漬けになったような気分だった。
そういえば、当たり前のようにごくごく飲んじゃってるけど、これいくらなんだろう。確か傷を直すポーションよりもずっと高価だったような……。
飲み終わったポーションのビンはまとめておくように言われてるから、きっとこれも経費として計算されるんだろうな。
ん?
じゃあ私、仕事してないのに、どんどんお金使っちゃってるってこと?
それってすごくまずいんじゃ?
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