第72話 正しい修理の方法
「魔力切れか」
「そうみたいです」
「なら早く
ミカエルさんは魔石が入っている箱をあごで示した。
その指示に従って魔石に手を伸ばした私は、途中で手を引っ込めた。
「充填できません」
「何を言っている。魔力を充填するだけだ。まさか充填の仕方も知らないなどと言うまいな。魔導具師以前の話だぞ」
「充填のやり方くらい知ってます! そうじゃなくて、私が充填すると修理しちゃうかもしれないから……」
うっかり修理しちゃったら、そのランプは損耗率がなくなって、一番重くて一番ピカピカの状態になってしまう。
他のランプの魔導具はテストしていることもあって程ほどに損耗率がたまっているから、ゼロの状態から同じくらいまで損耗率を増やすのはちょっと大変そうだ。
「ますます何を言っている。ただ充填をしろと言っているだけだ。修理などしなくていい」
「わかっています。でも充填と修理ってまだ使い分けられてなくて……」
私は目を伏せてごにょごにょと誤魔化した。
これだから未熟者は、とまた笑われると思ったのに、ミカエルさんは何も言ってこなかった。
余程ひどく呆れているのかと目を上げてみれば、ミカエルさんはあごに手を当ててて、難しい顔をしていた。何かを考えているようだった。
「お前は修理もできるんだな?」
「はい。浄化の魔導具でしかやったことはないですが、できていると思います」
「それで、充填と修理が使い分けられないと言ったな?」
「はい、言いました」
「それはおかしい」
「まだ慣れてなくて、練習すればたぶん――」
「そうではない」
ミカエルさんは静かに首を振った。
さっきまでの偉そうな態度とは全然違って、真面目で真剣な雰囲気だった。
「いいか、これが充填だ」
ミカエルさんが魔石を手に取って、ランプの魔導具に近づけた。
「今、魔石の魔力が魔導具に移ったのが見えたか?」
「いいえ」
「そうか、お前には見えないのか」
「はい」
「まあいい、魔力が移ったのはわかるな?」
「はい。魔石の光が消えたので」
「わたしには、魔石から魔力が抜けて魔導具の周りを回ったあと、魔導具の中に取り込まれるように見えた。魔導具の中の魔力の残量が見える者もいるが、わたしにはそこまでは見えない」
ミカエルさんが魔導具を手渡してきた。
「損耗率は変わっていないな?」
私は重さを確かめて、曇り具合も見た。
他の魔導具とも比較してみる。絶対量はわからないけど、比較した感じでは変わっていないように感じた。
「変わっていないと思います」
「そうだ。充填は修理とは違うから、損耗率は変わらない」
ミカエルさんは私の手からランプの魔導具を取った。
「一方で、修理は損耗率を減らす。それは魔石だけではできない」
「そうなんですか?」
「おい」
ミカエルさんが後ろに
見せられたのは、一輪の花だった。
垂れた白い花は親指の爪くらいの大きさで、スズランのような形をしていた。
不思議なのは、お花の中がほんのり光って見える所。
「初めて見たような顔だな」
「初めて見ました」
「
ミカエルさんはランプの魔導具をテーブルの上に置き、くっつけるように蛍草を置いた。
そこに新しい魔石を近づけていく。
ミカエルさんが魔石にぐっと力を入れると、魔石の光が強くなった。
そして――。
「あっ」
魔石と魔導具がくっつきそうになった時、蛍草が赤い光に変わり、くるりと丸まって白く小さな
後に残ったのは、ランプの魔導具と、光を失った魔石のみ。
さっきまでそこにあったはずの蛍草は――。
「消えちゃった……」
「ランプの魔導具は蛍草を使って修理する。使った蛍草は魔導具に吸収される。損耗率を見てみろ」
持ち上げた魔導具は重かった。色を見ればピカピカしている。新品同様といった感じだった。
「これは浄化の魔導具も同じだ」
「え、でも――」
口を挟んだ私に、ミカエルさんは黙っていろ、という視線を向けた。
お供の人が、ミカエルさんに別の物を手渡す。
「
ミカエルさんの手の平の上にあったのは、私の手の平の半分くらいの大きさの青い鱗だった。
「
触ってみろ、と言われたので、つん、と指先で表面に触れてみると、水面みたいに丸く波紋が広がった。
なのに触れた指先は濡れていない。
ミカエルさんはテーブルの端っこに寄せていた浄化の魔導具を私の目の前に置くと、その横に水鱗を置いた。
さっきと同じように、魔石を近づけていく。
今度は水鱗は青い光になって魔導具に吸収された。
持ってみなくてもわかる。ピカピカとした色が、浄化の魔導具の修理が完了したことを示していた。
「浄化の魔導具を修理するには水鱗が必要だ。だがお前は水鱗も初めて見たようだ」
「初めて見ました」
「では、お前はどうやって浄化の魔導具を修理したんだ?」
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