第73話 素材なしの修理

「どうやってって言われても、充填じゅうてんと同じで、魔石を近づけて……」

「だから浄化の魔導具は水鱗すいりんがなくては修理できないと言っている」

「でも、私はできるんです。できてると思います。たぶん」


 だんだん自信がなくなってきていた。


 私が修理だと思っていることをすれば重さが変わるから、損耗率は減っているということで、ちゃんと修理にはなっている、と思う。


 だけど、本物の魔導具師のミカエルさんがそれは無理だって言うなら、何か勘違いしてるのかもしれない。


「修理に素材が必要なことはギルド長も承知のことだと思っていたが?」


 ミカエルさんはずっと黙って私たちを見守っていたヨルダさんを見た。


「ええ、修理に素材が必要なことは承知しています。ですが、冒険者ギルドであることもあって、私たちはそれほど魔導具師の仕事には詳しくありません。セツさんがそう言うのなら、素材がなくとも可能なのかと思いました。また、今回お呼びしたのは、魔導具師であることを――つまり損耗率を見られるかどうかを確認して頂くためで、修理のことまで確認して頂けるとは考えていませんでした」

「ふむ」


 ミカエルさんは、ヨルダさんの答えに納得したようだった。


 そして私に向き直ると、浄化の魔導具と魔石を差し出してくる。


「お前が修理だと言っているものを見せてみろ」

「わかり、ました」


 私はおっかなびっくりそれを受け取った。


 左右の手にそれぞれ持って、魔力を充填していくときのように、ゆっくりと近づけていく。


 ミカエルさんにじっと見られていて、すごく緊張した。


 あるところまで近づけると、ふっと魔石の光が消えた。


 だけど、重さもピカピカ具合も変わっていない。


 修理失敗だ。魔導具は普通に魔力が充填されてしまった。


「これはっ、使い分けられないだけで、たまたまでっ」

「次だ」


 私は必死で言い訳をしようとしたけど、ミカエルさんはあっさりと次を指示した。


 言われた通りに次の浄化の魔導具の修理を試みる。


 でも、また失敗してしまった。


「次」


 もうできないかもしれない。何かの間違いだったのかも。


 そう思ってやった三回目。


 右手に持った魔石の光が消えたかと思うと、左手の魔導具がずしっと重みを増した。


 できた……!


 私がほっと息をついている正面で、ミカエルさんは目を丸くして固まっていた。


 色を見ればピカピカと光っている。


 重さが変わるだけで、ミカエルさんの言う損耗率を表す曇り具合は変わらないのかも、と心配していたけど、ちゃんと変わってくれた。

  

「できました! できてますよね!?」

「あ、ああ……できているな……」


 ミカエルさんに満面の笑みを見せると、ミカエルさんは戸惑ったようにうなずいた。


「それで、私、合格なんでしょうか? まだ使い分けできないから駄目ですか? あ、そういえば損耗率見るテスト、途中だった……!?」

「いや、魔導具師であることは間違いない。それはわたしが保証しよう」

「やったー!」


 私は立ち上がって万歳ばんざいをした。


「そんなにはしゃぐな。子どもじゃあるまいし」


 呆れたように言われて、私は、はっ、と我に返った。


 確かにちょっとはしゃぎすぎたかもしれない。


 ミカエルさんやリーシェさんたちが真面目な顔をしていたので、なんだかすごく恥ずかしくなってしまった。


「すみません……」


 すとん、とソファに座り直す。


「それはそれとして、問題はお前の修理の方法の方だ」

「そうでした」


 ミカエルさんによると、浄化の魔導具は水鱗すいりんがないと修理できないということだ。


 だけど私は魔石だけでできてしまう。


「ランプの魔導具もやってみろ」

「はい」


 私はランプの魔導具で同じ事をやった。


 今度は一回でできた。もちろん蛍草ほたるそうはなしで。


 ていうか、私、ランプの魔導具も修理できるんだ。


「なるほどな」

「何かわかったんですか?」

「まあな」


 ミカエルさんは一度、納得がいかない、と言ったように口をへの字にしてから、口を開いた。


「魔導具を修理するときに素材を必要とするのは、魔導具の属性の魔力を補充するためだと言われている。魔導具によって必要な素材は変わるから、単純に属性の魔力だけがあればいいという訳ではないようんだが……まあ、通説ではそうなっている」

「魔石の魔力の他に、属性の魔力が必要なんですか」

「そうだ。魔石の魔力は無属性だからな。それだけでは魔導具には不足している」


 蛍草や水鱗が変わった赤や青の光は、その属性の魔力ってことなのかな。


 物体が魔力になるなんて意味不明だけど、魔法の世界に理屈を求めても仕方がない。


「なら、どうして私は素材無しで修理できるんですか?」

「お前がその魔力をおぎなっているからだ」

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