第67話 ギルド長への報告
翌朝、冒険者ギルドに出勤してすぐリーシェさんを探したけど、残念ながら休みだった。
最終的にはヨルダさんまで話が上がるだろうけど、私が直接説明する勇気はない。
穏やかな人だけど、会社で言ったら社長さんだもんね。私みたいな正式な従業員でもない人がスケジュールをあけてもらうなんてできない。
私は、運び込まれた魔導具の箱の中身を、
買い取る時に冒険者の人たちに分けてもらえばいいのに、なんて思ったりして。
まあ、そこがギルドのサービスなんだから、私が文句を言えることじゃないんだけど。
同じ種類の魔導具を見つけたので、重さを比べてみる。
なんとなーく、違いがあるような……気もする。
浄化の魔導具ほどはっきりした感覚ではなかった。
あれも触ってるうちにだんだん違いがわかるようになっていったから、他のも触っていればはっきりわかるようになるのかもしれない。
あとは、たまたま
投擲弾は箱に魔石を入れて「えいっ」ってやれば性質変化できるから、時間に余裕があるのをいいことに、私は色んな魔導具の重さを確かめまくった。
すると、投擲弾とそれ以外っていう目で見ていた時とはまた違った見方ができてくる。
形が似通った投擲弾の種類がぱっと見で判断できるようになったように、同じような四角柱の魔導具でも、違う種類のものだってわかるようになってきた。
これは……多分火に関係する魔導具。こっちは明かりかな。
身近にある、コンロや水道、明かりの魔導具を思い出しながら、どれと似ているかっていうのを考えながら作業した。
今まで用途がさっぱりわからなかった魔導具も、属性――っていうのかな――が推測できて面白かった。
それが当たっているかは別だけど。
重さは、損耗率がゼロの時の重さがわからないと比較ができないと思っていたけど、元の物質としての重さは変わらないんだから、そこからどの位「ふわっと軽いか」っていうのを気にするようになったら、どの位たまっていそうかっていうのは感じられるようになった。
魔導具によって「壊れやすさ」は違う。
これは、損耗率がたまりにくいのか、損耗率が高いときの壊れる確率が低いのか、どちからだと思う。
あれ?
何かが引っかかった。
だけど、それはすぐに霧散してしまう。
なんか違和感があったんだけど……。
うーん、出てこない。
しばらく考えた後、私は諦めて、仕事に戻った。
一度思いついたんだから、きっとまた出てくるだろう。
さらに次の日、私は出勤してきたリーシェさんを捕まえた。
「相談があるんです」
「もう驚きません」
リーシェさんは、達観したような顔をした。
いつものように、作業部屋で話をする。
「私、損耗率がわかるようになった、かもです」
「損耗率が」
「はい。損耗率が」
「……」
リーシェさんはしばらく無言だった。
「あの、私、損耗率が――」
「はっ。すみません、想定外すぎて理解が追いつきませんでした」
金縛りが解けたように、リーシェさんは動き始めた。
「損耗率がわかるようになったんですね?」
「はい」
「損耗率が……」
「はい」
私は検証の内容と結果を説明した。
「損耗率がわかるだけではなくて、修理までできたんですか!?」
「えっと、修理? っていうのが、損耗率を減らすことを言うんだったら、そうです。浄化の魔導具だけですけど」
「他の魔導具はどうですか!?」
リーシェさんは、がしっと私の両肩をつかんだ。
「確かめていないので修理? ができるかはわかりませんが、損耗率がたまっているのは、なんとなくわかりそうです」
「今すぐにギルド長に報告しましょう!」
「え、今すぐですか? ヨルダさんって忙しいんじゃ――」
「緊急事態です」
「ええ!?」
緊急事態だなんて大げさな。
リーシェさんは、絶対に逃がさない、とばかりに私の手首をしっかりとつかみ、ギルド長の部屋へとつれて行った。
「失礼します!」
ばぁん、と勢いよく扉を開ける。
そこには、執務室に座るヨルダさんと、書類を手に報告をしているらしき職員さんがいた。
「なんですか、そんなに慌てて」
「急ぎの要件です」
ヨルダさんは、リーシェさんが私を連れているのを見て内容を察したらしく、職員さんに下がるように言った。
職員さんが驚いた顔のまま部屋を出て行く。
三人きりになった部屋で、リーシェさんが私の両肩をつかんで、私をヨルダさんの前にずいっと押し出した。
「セツさんは損耗率がわかるようになったそうです」
「……そんなことだろうと思ったわ」
「ご存じだったんですか!?」
リーシェさんが驚きの声を上げる。
「いいえ、知ったのは今よ。でも、この所、セツさんは急激に成長していたし、いつかはそうなるんじゃないかって思っていたわ」
「ですが、普通、魔導具師の素質は……」
「そうね。幼い頃には判明するものだわ。でも、セツさんは魔導具がほとんどない所に住んでいたんでしょう? これまで魔導具にあまり触っていなかったのなら、その才能が
あまり、どころか、全く触っていなかった。
私は自分の両手を見つめて、握ったり開いたりした。
「損耗率がわかるだけではなくて……修理もできるそうです……」
「っ!」
リーシェさんの苦しそうな言葉に、ヨルダさんが息を飲んだ。
「そう……そこまで……」
ヨルダさんは
「セツさん、今までギルドのために働いてくれてありがとう」
「えっ!? 私クビですか!?」
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