第50話 性質変化の効率化

「セツさんの素質の特殊性は、王宮に入れるくらいだと思います」

「え、嫌です」


 リーシェさんに言われて、私は反射的に答えていた。


 お姫様に追い出されたのに、のこのこ戻ったら何を言われるかわからない。


「王宮に行って、私に何ができるって言うんですか」


 王宮で不発弾の選別をして「当たり」に変える? 何のために? 騎士団とかのため? ならギルドでもよくない?


「セツさんの素質を研究するんです。他に何ができるのかとか、どういう原理でできるのか、とか」

「それって、実験動物ってことじゃないですか」

「そう、とも言えなくはないですが……。それに、お給料は今よりずっとずっと良くなりますよ」

「王宮には行きたくありません」


 きっぱりと言う。


「私たちとしては、セツさんがこのままギルドにいてくれるのは嬉しいけれど……」


 ヨルダさんが顔に手を当てて言った。


「私もこのままここにいたいです」

「セツさんがそう言うなら、いて欲しいわ。でも、王宮じゃなくても、もし他に移りたくなったらいつでも言ってね」

「わかりました」


 一応そう答えたものの、他に行きたいなんてこと、あるとは思えない。


 お給料がたくさんもらえたとしても、ここより居心地がいい所なんてないだろう。


 生活に困ってるわけじゃないし、出世したいとか思ってないし。


 そりゃあ、お金もらえるって言うならもらいたいけど、ここを出てくくらいなら、このままで十分だ。


「あの、充填――じゃなかった、性質変化で当たりにできること、もっとちゃんと確かめなくて大丈夫ですか?」

「セツさんが不発弾じゃなくなったと言うなら、私たちはそれを信じるだけよ。今までもそうだったんだから」

「そうですか……そうですね」


 私が嘘をついているのか、本当のことを言っているのかは、投げてみないとわからない。


 ヨルダさんたちは、最初にやった選別の検証と、今までの私の実績を見て、私を信じてくれているんだ。


 なんだか胸があったかくなった。


 この信頼にこたえたい。


「私、お仕事がんばりますね!」

「ええ、よろしくね」

「はい!」



 その日から、私の仕事に、「不発弾を当たりにすること」が加わった。


 これまでは選別するまででよかったから、並べて充填するっていう作業が単純に増えたことになる。


 残業が少しだけ伸びた。


 代りに、お給料が少し増えた。残業代だけじゃなくて、日給の分が。不発弾が無駄にならなかった分ということで。


 

 * * * * *


「うーん……」


 作業部屋の床に不発弾を並べながら、私はもっと効率よくできないか考えていた。


 魔石を不発弾にぶつけていくのはすぐ終わるんだけど、並べる作業は時間がかかる。


 ん?


 別に並べなくてもいいのでは?


 ごちゃって置いて、不発弾ハズレにぶつけてけばいいじゃん。


 私……何やってたんだろ……。


 家でやった検証の通り、きっちりと並べていた私は、自分にあきれた。


 試しに床にばらばらと置いて、性質変化をやってみたら、普通にできた。


 きっちり十二個出す必要もない。


 多めに出して、「当たり」になったやつだけ除いていけばいい。


 勢い余って先に「当たり」にしたやつにまた魔石をぶつけてしまっても、何も起こらないから心配はない。


 不発弾ハズレを「当たり」にする作業は、一日の最後に一気にやることにしている。


 選別はなるべく早く、依頼によっては急いでやらないといけない。


 でも性質変化は、別にその日に終わらなくても構わない。不発弾を部屋の隅に積んでおいて、次の日以降にやればいい。


 だけど、休日の前は全部終わりにすることにしていた。


 たまってると、休み明けに仕事に来るのが嫌になっちゃいそうで。


 まだまだ残りはいっぱいあって、今日も時間がかかりそうだ。


 早く帰りたいな。


 そう思った私の目に、仕事部屋の隅っこに置いてある自分の肩掛けかばんが入った。


 魔石に不発弾がぶつかればいいんだよね?


 なら――。


 立ち上がって、鞄を取りに行く。


 中身を全部出して、代りに不発弾を十二個入れる。


 そこに魔石を持った右手をつっこんで、「充填」と念じながら、魔石を持ったままぐちゃぐちゃにかき混ぜた。


 魔力を充填するんじゃないらしいけど、なんとなく「充填」と思うようにしている。別に「性質変化っ!」でも「えーい」でもできる。


 鞄の中で、カツンコツンと投擲とうてき弾同士、投擲弾と魔石がぶつかり合う。


 どうだろう?


 十分時間がたったと思った所でかき混ぜるのをやめて、鞄の中をのぞいた。


 ちゃんと「当たり」になったものもあるけど――不発弾ハズレのままのもあった。ムラがある。


 できたのがあるってことは、やっていることは間違ってない。単に上手くぶつけられなかっただけだろう。


 この方がずっと早くできる。


 私はかき混ぜ方を変えながら、何回か挑戦した。


 だけど、やっぱりムラができてしまう。


 手にぶつかっちゃってるんだよね……。


 魔石の表面全部が使えればいいんだけど、私が持ってるせいで、半分以上使えていない。


「持ってなきゃ、いけないのかな?」


 不発弾の方は、持ってなくてもできた。


 なら、魔石の方も持ってなくてもいいんじゃない。


 試しに、鞄の中に魔石を放り込んでみる。


「充~填~」


 言いながら、鞄の中身をかき混ぜていく。


 持ってないから、魔石の光が消えたのがよく見えた。


 ――不発弾ハズレがなくなったのも。


「できちゃった……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る