第49話 変わった素質

 次の日の朝、冒険者ギルドに出勤した私は、さっそくリーシェさんとギルド長の部屋に行った。


「――なるほど」


 リーシェさんのわかりやすい説明のお陰で、ヨルダさんはすぐに理解してくれた。


「それだけじゃないんです」


 私は、帰ってからやった検証のことを話した。


 魔石一個で不発弾一個に充填じゅうてんするなら費用的に割に合わないけど、一つの魔石で魔導具十二個までいけるなら、不発弾を捨ててしまうよりずっとお得だ。


 これを言えば、私が仕事を失う可能性はますます高くなる。


 だって、私が「当たり」か不発弾ハズレか選別しなくたって、とりあえず冒険者が自分たちで充填しちゃえばいいんだから。


 充填しようとする投擲とうてき弾がもし「当たり」だったら、魔力が入っていかないだけだ。不発弾ハズレだけ魔力が充填される。


 すっごい急いでやらないと時間切れになっちゃうけど、たくさん練習すれば、魔石代の元を取れるくらいの速度は出せると思う。


 私の話をじっと聞いていたヨルダさんは、少し間を置いてから口を開いた。


「失礼な言い方になってしまうけれど……セツさんはあまり魔導具が身近にない所で育ったのよね?」

「はい」


 失礼な言い方ってことは、あっちの世界で言えば電気も通ってないような、すっごい僻地へきちにいたのか、という意味だろう。


 元々自分は田舎者であることにするつもりでいたから、全然嫌な気持ちにはならなかった。


 あっちの世界には魔導具は「あまり」どころか「全く」ないわけだし。


「だったら知らないのも無理はないわね。セツさん、不発弾に魔力を充填じゅうてんすることはできないの。不発なのは魔力が不足しているからではないのよ」

「でも、私はできました」

「これは、魔導具の魔力量を見ることのできる魔導具師が確認しているから確かよ」


 ヨルダさんの言葉に、リーシェさんがうなずく。


 それは昨日私も考えた。最初充填に失敗したとき、魔力不足が原因だったら、魔力量がわかる人がとっくに見つけてるに決まってるって。


 だけど、私には充填できた。


 リーシェさんだって昨日それを見ていたはずなのに。


「じゃあ、私がやれているのは何なんですか?」

「セツさんは、魔力を使って、不発弾の性質を変えているのだと思うわ」

「魔力を使って、性質を変える」


 ふーん。


 魔力って、そんな風にも使えるんだ。


 私は、そういうものなのか、と素直に受け入れた。


「とにかく、不発弾を当たりにする方法が見つかったってことですよね。なら、私の選別は、要らなくなりますよね……?」


 私は上目遣いにヨルダさんを見た。


 ヨルダさんは困ったような顔をした。


 ああ、やっぱり、私はクビになっちゃうんだ……。


 次の仕事を探さなきゃ。


 もう信用度はとっくに回復してるから、仕事の紹介はしてもらえるよね。


 安くてもいいから、安全であまり大変じゃないお仕事がいいなぁ。


 私の頭はとっくに次の仕事のことを考えていたけど、ヨルダさんは首を横に振った。


「いいえ。そうはならないわ」

「このまま投擲とうてき弾の選別を続けられるってことですか?」


 今でも選別の仕事は残業してギリギリなんとかなってるくらいだ。これ以上少しでも数が増えたらあふれてしまう。


 やりきれなくなって不発弾の確率がゼロパーセントにならなくなったら、私が選別する意味はないような気がする。


「セツさんには、このまま選別の仕事を続けてもらいたいわ。あと、できるなら、不発弾を当たりに変えるのもやってくれると助かります」

「よかったぁ……」


 ヨルダさんにそう言われて、私は胸をなで下ろした。


 できるだけギルドがタダでやってくれた方が魔石の消費が減るから、冒険者にとってはその方がいいってことなのかな。


「セツさん、誤解をしているようだけど、魔導具の性質を変えるなんてこと、普通の人にはできないのよ」

「そうなんですか?」

「セツさんが魔導具師の素質を持っているからこそできることなの。それに、魔導具師であっても、性質を変えることができるというのは聞いた事がないわ。王宮にいる魔導具師ならできるのかもしれないけれど……」


 私は目をぱちぱちとまたたかせた。


「魔導具師の素質があるから、ですか」

「そうよ。セツさんは損耗そんもう率は見られないけど、不発弾の選別もできるし、ちょっと変わった素質の持ち主みたいね」

「そうですか」


 そうなんだ。私にしかできないんだ。


 自分が魔導具師の素質があるってこと、すっかり忘れていた。


 そういえばそうだったなって。


 不発弾の選別も普通にできちゃってたから、いつの間にか、特別だってことを意識しなくなっていた。


 ちょっと音感があってピアノの音を聞いたらどの音かわかる、くらいの気持ちだったんだ。


「セツさん、これはすごいことなんですよ」

「はあ」


 前のめりになったリーシェさんに言われても、私はピンときていなかった。

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