第48話 複数個の充填
残業したあとにリーシェさんと検証していたから、家に着いたのは、だいぶ遅かった。
普段ならトイレ掃除をしてすぐにベッドに入ってしまうんだけど、今日はその前にやりたいことがあった。
今、私の目の前のテーブルの上には、不発弾が山ほど入った木箱が置かれている。
ギルドからデルトンさんに運んでもらったのだ。デルトンさんは何に使うのかと不思議そうにしていた。
この不発弾は、どうせ廃棄するものだから、とタダでもらった。昼間に検証で使った分もタダでいいと言われた。
そりゃそうか。投げて処分する手間がない分、むしろ助かるくらいなんだろう。
種類は色々。使うわけじゃないから、何でもよかった。他の箱に
棚の引き出しから魔石も持ってくる。
これから魔力が
ただ充填できるかを確かめるわけじゃない。それはもうたくさんやった。
今からやるのは「一つの魔石で複数の不発弾を充填できるか」だ。
魔導具に入りきらない魔力は空中に放出されてしまう。
充填が終わってから放出までの間にはラグがあって、放出されるまでの間に作業すれば、魔石に余った魔力を別の魔導具に充填することができるらしい。
不発弾だって魔力を充填することには変わりないんだから、同じことができるはず。
魔石一個で二個分の不発弾に足りるかはやってみないとわからないけど、一個充填しただけじゃ光の点滅は強いままだったから、たぶん足りるんじゃないかな。
私は不発弾二個を並べ、左手にそのうちの一つを、右手に魔石を持った。
いかに早くやるかがポイントだよね。
充填したら、素早く他の不発弾に持ち替えて、続けて充填する。
ちょっと練習してから、私は本番に挑んだ。
充填~、と念じながら、コツンと二つをぶつける。
「できた……!」
勢い余ってガツンッと結構強い力でぶつけちゃったけど、二個目の不発弾もちゃっと「当たり」になった。
しかもまだ魔石の赤い光は明滅していた。魔力が残っている。
三つ目をやる準備はできてなくて、次の不発弾は持ち替えるのに手間取ってしまい、充填することはできなかった。
こうなると、一つの魔石で何個まで不発弾を「当たり」にできるのかが気になる。
試しに五個くらいやってみようかな。
私はテーブルの上に不発弾を五個並べた。
うーん。
もっといけるかもしれない。
うんしょ、と木箱を床に下ろし、テーブル一杯に不発弾を並べた。取りやすいように、間隔を
ずらっと並ぶ投擲弾。ちょっと
並べすぎたかな、と思ったけど、多くて困ることはないから、とそのままやることにする。
体を動かしやすいように、椅子には座らない。
手前からやった方が速いよね。
一番左端の手前の不発弾を手に取って構え――。
用意……スタート!
自分の心の号令に従って、左手の不発弾に魔石をぶつける。
――成功!
すかさず二番目の不発弾に持ち替えて充填。
――成功!
三つ目。
――成功!
四つ目!
――成功!
五つ目!!
――失敗!
五つ目にぶつける前に、魔石の光が消えた。
四個が限界?
たくさん並べたのに、思ったよりも少なかった。最初の
でも、ぶつける直前に魔石の光が消えたような気もする。
魔力が足りなかったんなら、ぶつけた時に消えるよね。
動きが遅かったのかな。
私は不発弾を並べ直し、もう一回やってみることにした。
一つ目、成功。二つ目、成功。三つ目……。
五つ目――。
成功!
六つ目に行く前に、魔石の光は消えた。
でもまたぶつけてから少し間があったような気がする。
私の動きが間に合ってないんだと思う。
だけどこれ以上速く動くのは無理そう。最後何やってるのか自分でもわからなくなってたし。
もう一回だけやってみよう、と最後の挑戦をすることにした。
一つ目、二つ目、三――。
「わっ!」
動作に混乱した私は、三個目の火炎弾を放り投げてしまった。
上手くキャッチできなてくて、おっとっと、とお手玉をしてしまう。
そして、伸ばした右手の上にそれが落ちてきた。
コツンッ。
不発弾が右手に持っていた魔石に当たり、ころん、と床に落ちていった。
スイッチが入っていたら大変だったけど、簡単には入らないようになっているから大丈夫。どうせ不発弾だし。
なのに――。
「あれ?」
手に取ったそれは、なぜか「当たり」になっていた。
え、私まだ充填してないけど? なんで?
持ってた魔石にはぶつかったけど……。
まさか、両方持ってなくても、ぶつけるだけでいいとか?
他の人が充填するときのやり方を真似して両手で持ってたけど、そんな必要はないのかもしれない。
気になるなら、やってみればいい。
私は新しい魔石を右手で持って、テーブルの上の不発弾にコツンとぶつけた。
瞬間、それが「当たり」に変わる。
続けて隣の不発弾にコツン。
コンコンコン、と当てていくと、十個の不発弾が「当たり」に変わった所で、魔石の光が消えた。
もうちょい速くいけるかも、ということで、私は最後の最後の挑戦をし、一つの魔石で一二個の不発弾を「当たり」にすることに成功した。
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