第38話 水道の魔導具
一週間、普段の依頼をこなしつつ、なんとか全部選別する事ができた。
作業台の導入は正直失敗だった。
作業台の前を移動しなきゃいけなくて、座って周りの手の届く範囲に箱を置いている方が速かったからだ。
大きなテーブルの真ん中をくり抜いて、そこに私が入るならいいのかもしれない。もしくは四角いテーブルを四台組み合わせて真ん中にスペースを作るか。
それでも解決しないのが、床から作業台の上に箱を持ち上げる作業だ。数回なら平気だけど、何十回も続くとしんどい。
ならばと床においた箱から直接
軽作業のはずなのに、筋トレを
結局、作業台はいったん運び出してもらった。
申し訳ないけど効率優先。遠慮している余裕はなかった。
落ち着いたら改良していこう。失敗は成功の母。トライアルアンドエラーだ。
もしかしたら休み返上かも、と覚悟していたけど、連日の残業の
リーシェさんも他の日に休みを取っていたから、終わってなくても休みはもらえたのかもしれないけど。
午前中は溜まった洗濯をする。
タライに服と
えっちらおっちら
汚れた水は近くの排水溝に捨てる。
下水道が整備されているのは意外だったけど、古代ローマにもあったんだから、そんなものなのかな。
汚水処理をしているのかはわからない。もしかしたらそのまま川に捨てている。でも、浄化の魔導具もあるわけだし、都市を維持するための大きな魔導具があるらしいから、それで何とかしているのかも。
なんにせよ、下水道のおかげでトイレが水洗なのだから、ありがたいことこの上ない。
この井戸を使う人はあんまりいない。今も私は一人だ。
宿屋に泊まっている冒険者たちは宿の井戸を使うし、普通は家の中に水道の魔導具を取り付けるからだ。
私もそろそろつけようかな。残業代出るし。
部屋で水が出せたら、飲み水や生活用水もここまで取りに来る必要がなくなる。汚水は台所の排水溝に捨てればいい。
井戸を使う時期が長かったから、別にこれでもいいかと思っていたけど、便利さにお金をかけるのも悪くない。
よし。魔導具屋さんに行こう!
* * * * *
午後、私は魔導具屋さんに行った。
さっきの洗濯の時も、今も、きっとデルトンさんはついてきていると思うのだけど、気にしないことにしている。気にしたら負けだ。
さっそく水道の魔導具を見せてもらう。
形は四角柱で、金属でできている。魔導具だから、もちろん表面には彫刻がびっしりと入っているし、魔導石もついている。
面の一つに穴があいていて、スイッチを入れるとそこから水が出てくるのだ。それがちょうど蛇口の位置にくるように流しにセットするわけだ。
店員さんがちょっとだけ出してくれた。
何もない所から水が出てくるなんて変な感じ。
どこかから転送してるのかな? それとも空気中の水蒸気を凝集してる的な?
浄化が必要ってことは、川や湖から取ってきてそうだけど……。
まあ、コンロもガスなしで使えてるんだし、原理なんて考えも仕方ないよね。
私は三つ出してもらった魔導具を手に、じっくりと観察した。
不発弾みたいに変な感じがする物がないか確認したかったんだけど、三つとも違和感はなかった。
忘れてたけど、重さが違うものもなかった。
仮に魔力の少ない魔導具を選んでしまったとしても、買うときにはサービスで満タンにしてくれるから、気にしなくていい。
私はいつもの通り、「どーれーにーしーよーうーかーな」で選んだ。自分で選ぶと壊れるというジンクスがあるからだ。
ランプの魔導具の予備と、浄化の魔導具と魔石のストックも買った。
水道の魔導具は便利なだけあって高かったけど、買うと決めたんだから、と思い切ってお金を出した。
* * * * *
はぁ。疲れた。
魔導具屋さんに行った後、雑貨屋さんやお肉屋さんにも寄って、家に帰り着いた時には夕方になっていた。
ぼすん、とベッドに倒れ込む。
一眠りしたい……。ああでも洗濯物……。
洗濯物を干している場所は、建物と建物の間にロープを渡すアレだ。
一本に見えて実は輪になっていて、するすると
最初は感動したけど、今はもう日常の一部になっていた。
その前にトイレ行こう。
ノロノロと立ち上がってトイレへ。
「あれ?」
用を足して、レバーを引いたけど、水が出なかった。
「何で!?」
ガチャガチャとレバーを操作しても、うんともすんとも言わない。
水が流れない……。
いやいやそんなのあり得ないでしょ。トイレが流れないなんて。
「あ!」
ここで私は原因に思い至った。
トイレにはタンクはなくて、背面に水道管が繋がっていて、そこから水が出るようになっている。
その水道管を天井へとたどっていくと――。
「あった!」
水道の魔導具がそこにあった。
当たり前だった。
上水道なんてないんだから、魔導具で水を出しているに決まっている。
何でこんなわかりにくい所に……。
魔導具を取り外してみたら、さっき私が買った魔導具よりも大きかった。
これまでずっと魔力切れを起こさなかったのは、きっと容量が大きいんだ。
そしてそれには――ヒビが入っていた。
「嘘でしょ……」
このまま放置は無理だ。
私はトイレを流せないまま、デルトンさんの部屋に走った。
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