閑話1:出会い
四月の終わり、校舎内の階段の踊り場にて。
「お、そこの明るい茶髪が似合う少年! オカ研来ない?」
「……は?」
声をかけられ、最初に『ソレ』を見た時、水上陽太は自分の目を疑った。
部活動の勧誘をかけられたのは、理解できる。それが背後の女子生徒からだったことも、分かる。
信じたくなかったのは、その彼女の肩に大きな黒い『何か』が蠢いていたことだった。蛇のようなに見えるそれは、水上にとっては理解できないものではなかったが、ここまでどす黒いモノが人に憑りついていることに驚いていた。
水上の視線が自分ではなくその周りに向いていることに気が付いたのか、声をかけてきた女子生徒は少し困ったような顔をして笑った。
「もしかして、君さ、コレが見えてたりする?」
思わず頷いてしまえば、女子生徒は底抜けに明るい笑顔を見せて水上の肩を叩いてきた。勢いが強くて少しだけ彼の表情が渋くなる。
「いや~ごめんねぇ! 見えたついでと言っては何だけど、これを祓ってもらったりとかできたりする?」
「ちょっと小銭貸してくれみたいなノリで除霊頼む人初めて見たっす」
「そこはほら、見えるならイケるかなって思ってさ!」
ね?と首を傾げられても、水上の渋い顔は何も変わらない。むしろ近づいてこられたので迷惑そうな色も見え始めた。
……別に、できなくは、ないけど。
水上は、少しだけ息を吐いてから言葉を紡いだ。
「”離れて”」
「っ!」
ほんの少しだけ女子生徒が目を見開いて、水上から一歩距離を取る。そして次の瞬間には、憑いていた黒いモノは霧散していた。
呆気なかったな、と少し安堵の息をついた水上だったが、目の前の女子生徒が目を輝かせているのを見てすぐに後悔し、次の瞬間には距離を詰められていた。
「すっごい!! 君、やるねぇ!!! あれ何だったか分かる!?」
「は、まさか知らずに憑りつかれてたんすか……? 誰かからのすごい憎悪でしたけど……?」
「うん、多分それ私宛じゃないんだよね。ああいうのに憑りつかれやすい体質らしいんだけどさ~。私、自分じゃ見えないし対処もできなくてずっと困ってたんだよ~! 追っ払ってくれて助かった! ありがとう!」
「あ、ええっと……、どうも……」
勢いがすごいな、と一歩引きつつ、「じゃあこれで」と退散しようとしたところで、彼の腕は掴まれた。
「ふふ……。こんな逸材、逃すわけないでしょう……。ようこそオカ研へ! 私が部長だよ!」
「強引すぎませんか!?」
力づくでも振り払おうとしたが、それ以上の力で引っ張られた。流されやすい性格とはいえ、こんな面倒そうな人からは逃げたい。
そんな水上の願いも空しく、ニコニコと笑顔で圧をかけてくる相手に対しては意思が折れてしまった。根負けして腕から力を抜くと、すかさず握手される。
「私、二年生の本郷冬美。君は?」
「……水上。一年の水上陽太っす」
夕陽が差し込む階段の踊り場で、下校時刻を知らせるチャイムが響く。
それが、水上と本郷の出会いだった。
黄昏時の階段 春川雪 @harukawa380
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