黄昏時の階段

春川雪

一、それはきっと花への感謝

 七月下旬。

 夏休みに突入し、数日が経ったころ。

 日差しが照り付け、肌を焼くような暑さでも元気なセミたちの大合唱を聞きながら、俺は坂道を登っていた。

 なんだって校舎が山の上にあるのか。炎天下、日の傾きによる木陰も望めず、ただひたすら無言で足を進める。一歩踏み出すごとに足の裏が地面にへばりついて進めなくなるんじゃないかと思うほどの猛暑の中、何やら後ろから軽快な足音が聞こえてきた。

 まさか、と思ったのも一瞬。暑さで思考スピードが落ちていた俺の背中に、勢いよく誰かの張り手が襲ってきた。

「よっ、我が後輩!背を曲げていては姿勢が悪くなるぞ?こなき爺を背負うはめになったときにそんなんでどうするんだ!」

「……いや、あの、本郷先輩。痛いです」

 ヒリヒリと衝撃が残っている背中をさすりながら、俺は強襲者を恨めし気に睨んだ。

 当の本人は何も悪いことなどしていないと言わんばかりに飄々として、その長い黒髪を揺らしながら前に回り込んで、俺の鼻先に指を突き付けてきた。

「若いんだから、しゃんと立って歩かないと!部室着いたらエアコンつけてあげるから、ほら頑張る!」

「や、逆になんで先輩はこんなくっそ暑いときにまでテンション高いんですか……」

「日頃の成果?さ、早く行くよ~」

 もう一度俺の背中を強く叩くと、彼女はさっさと坂道を登っていった。あっという間に距離が離される。

 流れるような黒髪をジト目で見ていれば、ふと先ほどまで気が付かなかった白いモヤが彼女にまとわりついていた。宙に浮いたそれは、意思を持っているかのように彼女の背後を追っている。

 それが何かというのを理解して、俺は一つ重い息をついた。

「……購買でアイス買ってから部室行くか」

 今すぐにでもクーラーのきいた部屋に引きこもりたいが、そうもいかない。今しがた見てしまったものをどうにかしなければ。

 改めて足を踏み出し、俺は『オカルト研究会』の部室に向かった。


 *


 購買で買ったアイスを咥えながら廊下を歩いていると、ちょうど部室に入ろうとしている本郷先輩がいた。しかし彼女はドアに手をかけようとして、その手を引っ込めたり、また伸ばしたりとしている。困ったようにその眉を下げており、部室前で立ち尽くしていた。

「……本郷先輩」

「あっ、水上。ちょうどよかった、開けてくれない?なんか入りづらくて」

「入りづらいって、あんたね……」

 俺の姿を見て安心した表情を浮かべた彼女に呆れて、一度息をつく。俺の様子を見て何かを察したのか、本郷先輩は「あー……」と自分の後ろを肩越しに見て、恐る恐る聞いてきた。

「……いる?」

「います。今月入って何回目ですか……」

 先ほど坂道で会ったときに見えた白いモヤが、未だにまとわりついている。ここまで至近距離になれば、それが何であるかが見えた。明るい髪色のショートヘアの少女が、虚ろな目をして本郷先輩の背後に佇んでいる。

 敵意は無いが、どうやら彼女を部室には入らせたくないようだ。不安げに先輩が訪ねてくる。

「どう?」

「……まあ、大丈夫ですよ。手を出してください」

 素直に出された右手を握って、俺は部室のドアを開ける。教室内に足を踏み入れ、わずかに抵抗を示した本郷先輩を招き入れてからドアを閉めた。少女の姿は、もう見えない。

「はい、これでいなくなりました。この中には入れませんし、執着があったようには見えなかったので、しばらくすればどこかに行くでしょ」

「よかった、なんか身体も軽くなったわー。ありがと水上」

「いいですけど、いつものお守りは?」

「昨日の夜に折れた」

「それはすぐに言ってくださいよ……」

 溜息をつきながら、教室の空調を入れる。残っていたアイスを一口で飲みこんで、教室が冷える間に四隅の盛り塩を交換するために、戸棚から塩を取り出した。

「危機感持ってくださいよ、本郷先輩。あんた、自分が霊とかに好かれやすいの、自覚してます?」

「一応気を付けてはいるんだけどね~、ははは……」

 気まずそうに笑う彼女にもう一度だけ息をついて、塩を盛り終える。取り換えた塩は袋につめて後で水道に流すために置いておく。それと同時に、教室のドアが開いてもう一人の部員が入ってきた。

「おはようございます」

「あ、おはよう神家満ちゃん!ごめんね、先週貰ったお守り折れちゃった!」

 ポニーテールを揺らして入室してきた彼女に、本郷先輩が無邪気に報告をする。普段から無表情に近い神家満の目が見開かれ、それから神妙に彼女は頷いた。

「消費ペース早いですね?分かりました、ちょうど予備を持ってきているのでこれをどうぞ」

「わーありがとう!有能!神家満ちゃんさすが!」

「いえ、いつもご利用ありがとうございます。ちゃんと効果があるようで良かったです」

「神家満ちゃんのとこのお守りだからだよ~。ありがとね~」

 バッグから小さなお守りを取り出し、本郷先輩に渡したあと、神家満は文庫本を取り出して読書を始めた。『オカルト研究会』の数少ない部員の一人であるが、彼女は普段部室では読書しかしていない。オカルトとは全く関係のない本ばかりで、読書がしたいだけなら図書室に行けばいいものの、曰く「必要以上に人が多くないから落ち着く」そうだ。騒がしさはこちらのが上だと思うのだが、本人がそうしたいならいいだろうとしている。

 もらったお守りを早速ポケットに入れると、本郷先輩は「そうだ!」と何かを思い出したかのように手を叩いた。そしてくるりと振り返って俺に指をつきつけてきた。

「ときに、水上後輩?今夜、時間はあるかね?」

「は?」

 低い声で問い返せば、彼女は右手の人差し指を口元に当てて悪戯っぽく笑って、蠱惑的な響きで囁いた。

「き・も・だ・め・し、しない?」

「嫌です」

 きっぱりと目を見据えて返答すると、彼女もまた真っすぐに俺の瞳を見つめてきた。真剣そのものの表情だが、半分くらいは遊びが混じってるんだから質が悪い。

「じゃあ肝試しじゃなくて、心霊スポットの真偽検証に」

「同じでしょ」

「もーいいじゃん!秋の文化祭に向けて部誌発行しないと、この『オカルト研究会』潰されちゃうんだよ~」

 お願い!と両手を合わせて拝まれたが、俺は冷静に視線を外して、本から目を離さない神家満に助けを求めた。

「ちょっと、神家満からも何か言ってくれよ」

「私に反対する理由無いから無理。この場所無くなると、静かに読書できる場所見つけるの面倒になるし。それに」

 ほんの少しだけ視線を上げ、俺と本郷を見た彼女は、静かに微笑んで言った。

「水上がいれば大抵は大丈夫でしょ。どうせ場所は近くなんだろうし」

「そうそう!神家満ちゃんが言うように、肝試しの場所は超近いから!」

 助け船が出て勢いづいたのか、本郷が更に俺に詰め寄った。本郷に続いて神家満までもが乗り気になってしまっては、俺にはもう止められない。

「……どこ行くか決まってるんです?」

 渋い顔をしながらも場所を聞いてみれば、してやったりと言わんばかりの得意げな表情で、本郷先輩は高らかに告げてきた。

「……学校よ!」


 *


「高校生にもなって七不思議とは……」

「別にいいでしょ!?ロマンがあるじゃない!」

「二人とも、静かにしないと見つかりますよ」

 夜、体育館倉庫裏にて。

 俺たち三人は、息を潜めて校舎の様子をうかがっていた。忍び込むためではなく、校舎の上。フェンスに囲まれている立ち入り禁止の屋上を見張るためである。

「“丑三つ時に屋上に現れる女子生徒”、ねぇ……」

「私たちが入学してくる前から言われてる七不思議のひとつでね。昔、いじめで自殺した女子生徒が夜な夜なさまよってるって噂なのよ!真偽を確かめたうえで部誌にまとめたいじゃない?目指せ七不思議コンプリート!」

 目を生き生きと輝かせている彼女は、期待の眼差しで屋上を見張っている。神家満と言えば、小さな手提げバッグから文庫本を取り出し、月明かりを頼りに文字を追っていた。どこまでもマイペースな奴め。

 双眼鏡片手に屋上へ熱視線を送っている本郷先輩に対し、俺は大きく溜息をついた。この人はまったく、懲りるということを知らない。

「こんなアホらしいこと、あと六回もやるんですか……。これっきりにしておきましょうよ。本郷先輩がこういうのにかかわると大抵ろくなことが無い」

「大丈夫だって!神家満ちゃんちの神社のお守りあるし、護符もあるし!何とかなるって!」

「や、そういうことじゃなくって……」

 言葉を続けようとすれば、いきなり指先を突き付けられて「シッ!」と力強く言われた。チラリと屋上を見た本郷先輩が、静かに告げる。

「そろそろ丑三つ時。水上後輩、刮目せよ!」

「だーから!んなアホらしいことしてる場合、じゃ」

「水上、いる」

 神家満の短い言葉に、弾かれたように俺は屋上を見た。

 月明かりに照らされている白い校舎の上。フェンス越しに、何かが動いているのが見えた。

 黒髪をなびかせている、俺たちの高校の女子制服を身にまとった誰かが、あそこにいる。

「……嘘だろ」

「水上ほど目がよくない私にも見えるくらいだし、確実にいるよ。七不思議ってのは馬鹿にできないね」

 いつの間にか文庫本を閉じた神家満は、興奮気味に息を荒げている本郷先輩の前に立って彼女の目に手を当てた。

「ぬ!?神家満ちゃん?」

「見えないでしょうけど、一応見ない方が良いです。本郷先輩、すぐ好かれちゃうから」

「いやー、モテモテっていうのも困っちゃうよね」

「困るの主に俺なんですけど。巻き込まれた後の処理も全部俺がやってるんですけど」

 見つからないように、もう少し下がるようにジェスチャーをして、俺は屋上を注視し続ける。フラフラとさまよっているだけに見えるソレは、しかし強い憎悪を帯びていた。距離が離れているのに分かるくらい禍々しい気配に嫌な汗をかきながら、唾を飲み込んで手元の懐中電灯を握りしめる。

「……水上~、何、怖い?」

「まさか。こういうのは飲まれるのが一番ダメですからね。本郷先輩に心配されるほどじゃないですよ」

「そう。ところで写真に残したいんだけど、撮れる?ついでにこれで除霊できたりしないかな?」

「少しでもあんたを心配して損した……!」

 背中に押し付けられたカメラを無視して、短く息を吐き出す。僅かでも視線を逸らしてはいけないような気がして、屋上を徘徊しているソレから目が離せなかった。

 神家満も察したのか、本郷先輩を少しずつ遠ざけさせながら、俺のポケットに何かを忍ばせてきた。

「何?」

「本郷先輩用に持ってきたお守りの一つ。ねぇ、水上。やばいの?」

 神家満からの問いには小さく頷いて答え、ゆっくりと後ずさりする。正直、関わりたくないしこれ以上アレを警戒し続けるのが嫌だ。本能がアレを拒否している。

「そろそろ撤退しましょう。七不思議とかそういうもんじゃないですよ、さっさと帰っ……」

「シャッターチャンス!」

「ちょ、本郷先輩!?」

 神家満の誘導(連行)から逃れて、本郷先輩は屋上に向けてシャッターを切った。電子音が軽やかに鳴って、満足げに彼女は「よし」と頷く。

「なっ……にしてるんですか!余計なことを、」

「いいじゃん、ここから屋上までは結構離れてるし、写真の一枚や二枚撮っておかないと説得力に欠けるじゃない。さて、映ってるかな、ってちょっと!」

 操作している彼女の手元からカメラを奪い取って、俺はアルバムを確認した。そして、怖気。

 写真に写っている屋上のソレは、明らかにこちらを向いていた。

「……逃げますよ」

「え?」

「早く!」

 本郷先輩の手を取って、脱兎のごとく駆けだす。すぐに神家満もついてきて、俺たちは一目散に校門を目指した。数秒もたたないうちに、背後から名状しがたい寒気が襲ってくる。振り返らなくても分かる、屋上の彼女だ。

「うっわ、何、寒い!?なんなの!?」

「あんた自分の体質分かってるだろ!?何で自分からアプローチかけちまうんだよ!」

「隠し撮りくらい良いかなって思ったんだもんー!」

「二人共、喧嘩はいいから!」

 神家満が手提げから清めの塩を取り出して撒いているのが何となく音で伝わってくるが、あまり効果を発揮していないらしい。どんどん背後から重苦しい気配が迫ってくる。

「ちょ、……水上!なんとかなさい!いつも何とかしてくれるでしょ!」

「今回のコイツはほっとくのが一番だったんですよ!下手に手を出したら、俺が飲まれちま……」

 言葉が詰まると同時に、後ろから強く腕を引かれた。本郷先輩の手が、ありえないくらいの力で俺を掴んでいた。

「ぐっ……!」

肌に爪が食い込む痛みとゾッとするほどの冷気を全身で味わいながら、俺はポケットからお守りを取り出して後ろを見ずに投げつけた。何かが砕ける音が響く。

【ギャッ】

 カエルのような悲鳴が聞こえたのちに、腕を引かれる力がふっと弱くなった。その隙に背後の本郷先輩の肩を掴み、耳元で大きく叫ぶ。

「……本郷先輩!!!」

「っ!ごめ、いま」

「大丈夫ですから、行きますよ!」

 先ほど一瞬捕まったからか、わずかに虚ろな様子の先輩を連れながら校門へと進む。もう十メートルもないのに、ひどく遠く見える距離にもどかしさを感じながら、急いで走って向かう。後ろからは再び冷気が迫ってきていた。ほんの少し、低い声で何かが聞こえてくる。

【……して。わ……ぁ。………す。……く…】

「っ……!」

 歯を食いしばって、ただひたすらに無視して走る。声が近い。冷気が背を撫でている。肩を、強い力で掴まれた。

【わわわわわわわわわたしいいいいいいいいいいがあああきらああああああいいいいい???】

「…“離れろ”っ!!!」

 力強く言葉を放つ。怯んだのか、俺の肩を掴んでいた力は消えた。だが背後の気配は依然として近いままだ。

「神家満ぁ!」

「遅くてごめんって!」

 俺たちから距離を取って逃げていた神家満が、バッグから一枚の破魔札を取り出す。彼女はそれを手にして俺たちの下へ駆け寄って、勢いよくソレに叩きつけた。

「二人から、離れて!!!」

【あ˝あ˝あ˝あああああああああああああああああ!!!】

 凄まじい断末魔の後に、背後にいたおぞましい気配は消え去った。力が半分抜けていた本郷先輩も正気に戻り、肩を支えている俺に気が付いて驚いたように声を上げる。

「ハッ!?私が寝ている間に何が!?」

「覚えてないんすか先輩……」

「何を?あっ、お守りまた壊れてる!?ごめん神家満ちゃん!」

「いいですよ~。二人共無事でよかった」

 安心したのか、神家満が地面にへなへなと座り込んだ。俺も気が抜けて、本郷先輩ごとへたり込む。

「え、あれ?二人とも大丈夫!?なんかあった!?」

「この先輩、自分が原因なのにまったく響いてない上にすげぇ元気なんだけど……!」

「だから好かれるんじゃないの。分からないけど」

 長い息を吐いて、神家満は空を仰ぐ。俺もまだ動悸がやんでいない。疲労している俺たちを見て、本郷先輩はオロオロして自分のポケットからハンカチを取り出してきた。

「あ、汗ふく?」

「……お気遣いありがとうございます、大丈夫です」

「そう…。ね、水上。私、体育館裏から走った直後くらいしか覚えてないんだけど、何か、やっちゃった?」

 首をかしげて、彼女はこちらの顔色を窺ってくる。体調を心配しているのか、機嫌を取るためなのか。どちらにしろ、自分がドジを踏んだということを理解しているらしい。自覚があるなら、まぁ良し。良くはないけど。

「一瞬だけ、本郷先輩は捕まってたんで、記憶がちょっとあやふやなんだと思いますよ。お守りは?」

「さっき見たけど折れてた。逃げ出す直前に嫌な感触したから、そんときだと思う」

「撮ったときにもう目ぇつけられてたんすね、多分。すぐに乗っ取られなかったのはお守り分か」

 捕まったときに大事にならなくてよかった、と心底安堵して、大きく息を吐き出す。激しい動機もおさまっていた。なんとか立ち上がれそうだ。

「……今夜はもう帰りましょう。念のため、神家満のとこ寄って清めてもらった方が……」

 立ち上がり、本郷先輩に手を伸ばしたとき、彼女の頬を伝っている透明な雫に気が付いた。思わず言葉が止まり、その俺の様子にで彼女も自分の異変に気が付く。

「へ、あれ?おかしいな、なんか、あれ?」

「……本郷先輩」

 神家満がそっと寄り添い、先輩の震える肩を抱く。声を震えさせ、彼女は戸惑ったように目元を拭っていた。

「あれ、はは、何で私、泣いてるんだろ。悲しくも怖くもないのに。違う。これ、私のじゃない……?」

 嗚咽をこらえて涙を流す先輩に、手を伸ばしかけて、止める。かける言葉も分からず、俺は校舎を見上げた。

 月明かりに照らされているそこには、もう誰もいなかった。

 


 翌日、午後になってから部室に行ってみると、いつものように読書をしている神家満と、意気揚々とPC作業している本郷先輩の姿があった。傍には昨夜のデジカメも置いてある。

「……本郷先輩?」

「あっ、遅いぞ水上!ちょうど部誌に載せる一つ目の記事が書きあがったところだよ、読んでみてくれない?」

 俺がジト目で睨んでいることに気が付かないのか、無邪気に笑って彼女は手招いている。渋々PCの画面を見て、表示されている文書を読んだ。

「……ってこれ、昨日のか!写真は削除したはずじゃ」

「ふふーんしてませんー!せっかく撮れたんだから使わないわけにはいかないでしょ!それに、ちゃんと屋上の扉前にお花供えてきたし!掲載しても大丈夫だって、たぶん!」

「はぁぁぁ!?って、……はあああ!?」

 昨日、あんなことがあったばかりだというのに、どうして屋上に近づけるのか。

「……あぁ、そうか、あんたに危機感なんて文字はありませんでしたねぇ」

「何よ、その不満げな顔は。これで一つは書けたから、あと六つ!明日からまた調査するわよー!」

 いい笑顔でこぶしを高く突き上げている本郷先輩から視線を外し、神家満に救いを求めてみようとしたが、我関せずといわんばかりに本の世界に入り込んでいる。俺の味方はどこにいるのか。

「ほら、水上!また明日の夜に校門集合ね、はい決定!」

「はいはい、わかりましたよ」

 適当に返事をして、空いている席に座って一息つく。

ふと視線を感じたので窓の外を見ると、向かい側の校舎、昨夜の屋上に、一人の女子生徒が立っていた。

 静かにこちらを見ていて、やがてお辞儀をしたかと思うと消えてしまったが、何故だか、微笑んでいるように感じた。

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