第20話 逃亡
プロテアの言葉により、崩壊していく空洞。
騒々しい音と共に、落石がトンネル入り口を封鎖していく。
「これでよしっと……横穴とかよく見とけよおめ~ら」
「……随分手荒にいきますね、プロテア大佐」
「あ? 言うほどか?」
「今回は生きたままの確保ですよ。死んだらどうするんですか」
「ま、そん時はそん時だ。あくまで生きたままってのは努力目標だよ。つーか、わざわざ根城の中に突っ込んでいく馬鹿はいねーだろ」
「……それもそうっすね」
夜の荒野に舞い上がる砂塵。
乾いた風が戦いの合図を告げていた―――
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崩壊する鉱山内部。
亀裂の入った天井から降り注ぐ岩石の数々は、通路を逃げ惑う山賊達を、容赦なく下敷きにしていく。
たまり場に集まっていたタクスス達はと言うと、クシノヤが屋敷の天井を砕いたように、落石を片っ端から粉々にしていったので、辛うじて生涯を終えることはなかった。
数㎝ほどの小石の山から這い上がってくる彼女達。
他の人間が抜け出す手助けをしながら、よろよろと立ち上がると、各々の安否を確認し始める。
「……お前ら、無事か? シャガ!! 無事だな!?」
「何とか……ゲホゲホ……うげぇ、最悪……」
「タクスス!! 何処にいるのですか!! いたら私の胸に飛び込んできて下さい!!」
「……嫌……です……って言うか、こんな時までふざけないで下さい……」
「野郎ども!! アジトから離れる準備をしろ!! この規模の攻撃は恐らく軍隊だ!! 急げ!!」
クシノヤの指示のもと、散らばるように通行可能な通路から脱出を図る面々。
室内の部下達が逃げたのを確認してから、クシノヤとシャガも後に続く。
「……ローズさん、私達も行きましょう」
「そうですね。その前に……『燃えろ』……これで良し。後は~これで良いですかねぇ」
「……何ですか……私と同じ黒いローブ?」
「ふっふふ……これでお揃いですよ。もし軍隊の人間が外に居るのなら、服装でバレそうなのでねぇ。用心するのに越したことはないですよ」
身に纏っていた白い軍服を燃やし、背負っていたリュックから、タクススと同じ新品のローブを取り出すローズ。
フードを深く被り、顔を極力出さないようにする。
装いを整えたローズは、タクススの手を取り山賊達の後を追っていく。
時折鳴り響く地鳴りに、態勢を崩しながらも、薄暗い道なりを進んで行くと新鮮な空気が肺を満たし始める。
出口だ。
迷わないか不安だった2人にほんの一時の安堵感が心を満たす。
「ん? お前ら止まれ!!」
背後から近づくタクスス達に気が付いたクシノヤは、大木のような左腕で、彼女達の進行を妨げる。
「……ど、どうしたんですか……」
「おやおや……待ち伏せですか」
「ああ、何もせず外に出たら奴らの思うつぼだな。……ったく、よく訓練してやがるぜ……」
「OBからのお褒めの言葉、有難く頂戴いたします」
「うるせぇよ……しかしどうするかな」
「……私が殺しましょうか?」
「愛しのタクスス、今回は遠慮して貰って良いですか? あまり派手にやるとヘイトを貯めそうなのでね……アナベル中将を呼んでしまうのは避けたいのですよ」
「え、じゃあ……」
「強行突破ですかねぇ」
「……危険だがな。長引くと通路が壊され続けてじり貧だ。野郎ども、俺が合図をしたら数秒目を瞑れ。その後、全力で駆け抜けろ」
今朝使った
察した2人は、周囲の山賊達と同じように頷く。
一呼吸置いて、周囲を警戒する軍人達へ向かって飛び出すクシノヤ。
予想もしなかった人物の登場で驚いた彼らは、普段なら発砲の1つや2つ行っているにも関わらず、目を疑っているのだろうか。
何も出来ずに呆気に取られている。
「……はぁ!? クシノヤ少将!! マジかよっ!!」
「久しぶりだなプロテア!! サボらずに仕事をしていて関心だ!! ……『煌めけ』!!」
燦然と輝く夜の炭鉱。
意表を突かれた軍人たちは、瞬く間に視界を奪われていく。
「行け!! お前ら!!」
落雷のように鳴り響く声。
隙を見せた軍隊に目もくれず、ひたすら安全な場所を求めて逃走を図る山賊達。
必死に視界を取り戻そうとするプロテアは、憎々しそうにクシノヤを煽っていく。
「軍隊を辞めたと思ったら、こんな所でお山の大将をしてたんすかっ!! 何ともご立派な者で!! 感心しますよ俺!!」
「……お前らは
「……はっ!! 元同僚が相手とはな……嫌な世の中だぜ、全くよ!!」
「同感だな!! プロテアぁ!!」
両者懐から刃物を取り出す。
競り合い飛び散る火花は、夜空に高々と鳴り響いた。
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