第19話 開戦
人気の無い鉱山跡地に、夜の帳が下りる。
乾ききった砂利を踏みしめ、月明かりを頼りに山賊の根城へと進んで行く。
長年放置されていると思われる運搬用のトロッコが無造作に捨てられており、雨風に打たれて錆びついている。
「……なんか……凄い所に住んでいますね」
「不法占拠もいいところですよ。盛大に焼き殺してやろうか」
笑顔のまま暴言を吐き捨てるローズ。
月の光に照らされる彼女の顔は、見る者に恐怖を抱かせる。
「……ま、まあ……聞くこと聞いたらすぐに帰るので……機嫌治してくれません……?」
「ふっふふ……機嫌、良いですよ、私」
偽善活動を行っている山賊達の事を思い出したのか、言葉数が極端に少ない。
今にも感情が爆発しそうなローズ。
風船に針を突き刺すように、棘のある言葉が2人に向かって来た。
「おいお前ら、何者だ? ここを何処だと思っている……軍人!? 何故ここに!!」
「どもども~廃れた鉱山がお似合いの皆さん、こんばんは!!」
「……ちょ、ローズさん。喧嘩を売らないで……あの、私達、クシノヤさんって人に会いに来たんです」
「お頭に?」
「……ええ……昼間共に行動した女2人が、話をしたがっているって伝えてくれませんか?」
「……ちょっとお前らここで待ってな」
行く手を遮る見張りの山賊は、伝言を伝えるため、この場から離れていく。
許可を待たずに、目の前のトンネルを進もうとも考えた。
だが、複雑に入り組んでいるだろう内部は、案内なしに進むことは不可能に近い。
それに……
何人もの視線が至る所から感じる。
監視の人間だろうか。
騒ぎ立てるのも好ましいと言えない現状、大人しく見張りの人間が帰って来るのを待つ2人。
10分ほどの時間が過ぎ、先ほどの山賊が帰って来た。
彼はタクススの眼を見つめて質問する。
「……お前がタクススか?」
「え、ええ……」
「お頭の息子の名前は?」
「……シャガ君ですが……」
「そうか。合格だ、着いてきな」
見張りの人間はいくつかのやり取りを終えると、彼女達をある場所へと案内する。
山賊の背後を着いて行くタクススとローズは、小声で先ほどの問答を振り返る。
「私達が本物かどうか試しましたね」
「……そうみたいですね……まあ、用心しますよ普通」
「私、軍服着ちゃってますしねぇ……ボチボチ着替えましょうか」
「……それが良さそうですよ……」
鉱山内を進む最中、チラチラと山賊達が姿を凝視してくる。
それもそうだろう。
こんな時間帯に女が2人、それも片方は軍人と言うことが一目で分る服装をしている。
変に目立つ彼女達は一点を見つめたまま先へと進んで行く。
どれほど時間が経ったのだろうか。
細長い通路から、たまり場のような広いスペースへと到達した。
「お頭、連れてきました」
「ああ、すまない……やはりお前らか」
「どうもどうも、数時間ぶりですかね」
「あ、タクススお姉さん、こんばんは」
「……こんばんは」
「それで……話ってのは何だ」
「……アナタ、貴族に何か恨みでもあるんですか?」
単刀直入に本題に入るタクスス。
あまりに前置きの無い質問に、場がわずかに凍る。
対するローズは、いきなりブチかましていった彼女がますます気に入ったかのように、笑みが零れていた。
「……お前、そんなことを聞くためにわざわざここに来たのか?」
「え、ええ……」
「……はあ、とんでもない奴と行動しちまったのか、俺は」
髪を搔き、昼間の事を思い出すクシノヤ。
側で椅子に腰かけているシャガは、何とも言えない悟りを開いたような表情でコチラを見ていた。
「恨みね……確かに俺は、貴族達に恨みがある。
彼から発せられた思いもしない言葉に、傍観を決め込んでいたローズまでもが、驚愕することになった。
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「ここが鉱山ねぇ……本当にこんなところに山賊達が居るのかね……」
「ええ、村の老人達の話によれば間違いないそうです」
「テッセンちゃん、また騙されてない?」
「……大丈夫です。今度は……」
「全く……貴族を殺してその辺に埋めてた奴らの話まで信じちゃうんだから……俺が居なかったら危なかったんじゃない!?」
「……大丈夫ですよ、プロテア大佐。それで……薬物を販売していた山賊達が、この中に居るんですね?」
「だと思うぜぇ?」
トンネルの前で、話し合う2人。
あれからと言うもの、遺体を埋めて証拠隠滅を企んでいた村の老人達を1人残らず捕まえ、そのままの足で鉱山へとやってきた軍人達。
妨害してきた見張りの山賊達は、既に軍人達に取り押さえられていた。
「んじゃ、景気よく行きますか!!」
「気を付けて下さいよ。落石の下敷きになりたくないですから」
「分かってるって、テッセンちゃん!! それじゃ……『爆ぜな』!!」
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