第17話 腐敗の温床

 森の奥へとやって来た4人。

 側を流れる透き通った液体は、生命に活力を与えている。

 そんな温和な土地で、これから穏やかではないことが行われようとしている。

 肩に担いでいた老人を地面へと乱暴に下ろすクシノヤ。

 叩き落された彼の口元を防いでいる布切れを、強引に引きちぎっていく。

 

「う"ぅ"……はぁ!! おいお前ら!! このまま無事に帰れると思うなよっ!?」


「おやおや、それはコチラのセリフなのですがねぇ……どうしましょうか。話し合いが出来ないのなら灼け死んで頂くことになるのですが……」


「ひ、ひぃ……!?」


「爺さん。俺の方はアンタに聞きたいことがあるんだよ。大人しく答えないと……分かるよな?」


 村人から追い剥いだ猟銃を眉間へと突き付けるクシノヤ。

 老人が何かの言葉の力を使おうとも、言い切られる前に射殺するためだ。

 そんな殺意に満ちた目で凝視された白髪頭の年寄りは、観念したのか声を震わせながら話始める。


「わ、分かった。話す、話すよ!! 何が知りたい!?」


「……マリア家に何があった?」


「まり、え?」


「村の近くにマリア家があるだろ? ここに来る前に、覚せい剤の代金を回収しに行ったら、屋敷の中がもぬけの殻だったんだよ」


「……なんじゃそれ。知らん、ワシは知らんぞ!!」


「そうか」


 躊躇いもなく引き金を引くクシノヤ。

 瞬時に右へ反らした銃口から放たれる弾丸は、怯える老人の頬を掠め取っていく。


「ひ、ひい!?」


「……もう一度聞こうか。マリア家に何をしたんだお前ら」


「い、いけないんじゃ……」


「あ?」


「ひっ……ひひ、年寄りを虐めるのはいけないんじゃ……弱い者虐めは良くないんじゃ……良くないんじゃ」


「……あ、あの……クシノヤさん……この人……なんかおかしくないですか?」


「……壊れたか? ちっ!! 面倒くさいな」


「尋問が下手ですねぇ~山賊さん。私ならもっと上手くやれていたのに」


「……やかましい。くそ……お前ら行くぞ」


「おやおや、何処へ行くのですか」


「決まっているだろ、マリア家へだよ。見落とした場所があるかもしれん。お前らも手伝って貰うぞ」


 緊張の糸が切れ、肩を震わせまともに会話が出来なくなった老人。

 彼を担ぎ上げたクシノヤは、タクスス達へと指示を出す。

 大人しく従う義理も糞もない彼女達であったし、無視を決め込むことも出来た。

 だが、何も現状が好転していない以上、解決の糸口を探すべく何かアクションを起こす必要がある。

 不本意ではあったが、先陣を進む男について行く彼女達であった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 川沿いを進むこと数分。

 ようやく到達したお目当ての場所。

 荒れ放題の獣道から一転して、整備の行き届いた山道へとたどり着いた4人。

 緑色のトンネルの先に、白い外壁に囲まれた屋敷が見えて来た。

 ひやりと冷たい鉄の扉を潜り抜け、内部へと進入した彼女達。

 本来なら使用人達が忙しなく働いている時間帯だが、不気味なほどに静まり返っていた。


「御覧の有様なんだ。近くに住んでいるアンタらを疑うのは当然だと思わないか?」


「ひっ……ひひ……」


「おやおや~もしかして今朝の銃声って貴族を殺した時に出たものですか?」


「ち、違う、違う、違う……違うんじゃ」


(う~ん? これは本当にやったっぽいですかね)


 分かりやすく動揺した老人。

 まだ確証は得ていないが、4人の心には自然と疑惑が生まれてしまう。

 

「……」


「おや? どうしました、タクスス」


「……い、いえ……何でもないです」


(なんか、屋敷の中にいると……どうしても昔を思い出しちゃうな……)


 いい気分がしないタクスス。

 この場を早く出たい一心で、クシノヤ達に提案する。


「……あの……手分けして探しません? 人数も居ることですし」


「そうだな。じゃあ俺達は2階を探す。行くぞシャガ」


「うん、分かった」


 息子を引き連れて、エントランスの階段を登っていく2人。

 役に立つのかは分からないが、彼らはまともに会話が出来るか怪しい老人も連れて行く。

 取り残されたタクスス達も、調べられる場所は順に探していく。

 だが……


「おかしいですねぇ」


「……ええ。基本的に、主人が留守の時も、使用人たちが留守番をしますからね。人が完全に居ないのはおかしいです」


「流石、元貴族。事情に詳しいですねぇ」


「……まあ、そうですね……」


「となると~」


 口元に右手を当て、考え込むローズ。

 現状を認識することで、老人に対して抱いた疑惑が確信的なものになる。


「やはり銃声は村の住人が、貴族を殺す際に出たものと見ていいでしょうねぇ」


「……今の所はそう考えてしまいますよね、やっぱり」


 一通り探索を終えてエントランスへ向け、来た道を引き返しに行く2人。

 拒むことが出来ない日光が、窓から彼女達をを照らしてる。

 その日差しに紛れて、ガラスを突き抜け、室内に侵入してくる1個の小さな鉄の塊。

 それは、タクススの右肩を血しぶきを上げながら貫通していった。

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