第16話 その少年は止められず

 集落の入口付近。

 太陽が湖をエメラルドグリーンに照らす中、物陰に潜み機をうかがう4人。

 猟銃を構え警戒態勢に入っている村を眺めながら、囁くように音を発する。


「おやおや、いつの間にやら人が増えていますねぇ」


「……年寄りばかりですね……この村。気味が悪い……」


「無駄口叩かずに、どう潜入するのか考えるぞお前ら」


「これはこれ……潜入も何も、片っ端から殺せばいいでしょう? 向こうから喧嘩を吹っかけて来たのでねぇ」


「……却下だ。こっちは山賊って立場上、大暴れして軍隊を呼ばれるのは避けてぇんだよ」


「そっちの都合でしょうに……面倒ですねぇ」


 わざとらしくお手上げのポーズをするローズ。

 一回り近く歳の離れている彼女達の様子を見かねたのか、シャガはある提案をする。

 

「……俺が囮になろっか? 手前の門番みたいな奴を誘き出せば後は行けるでしょ? お父さん」


「大丈夫なのか? シャガ」


「へーきへーき。そうだね……タクススお姉さんも着いて来てくれる?」


「……わ、私……? 碌な言葉を使えないけど大丈夫?」


「うん。俺が必ず守るから問題ないよ」


「アナタ、私のタクススに傷を付けたら灼かれると思いなさいよ?」


「分かってるよ……じゃ、行こっかお姉さん。2人とも、迅速にお願いね」


 タクススの手を引き物陰から姿を現す2人。

 警備に当たる数人の老人は、すぐさま彼女達を視界にとらえる。

 かすれた声で騒ぎ立てる姿を他所に、タクススはシャガの方を見ながら不安に駆られていた。


(私は死ねないから良いけど……この子、猟銃を持っている相手にどうするつもりなのかな)


 彼に問いかけても、力強く大丈夫と答えるだろう。

 それほどまでの自信をシャガは醸し出している。

 狙いを定めている3つの銃口に怯むこともなく。


「女ぁ!! 見つけたぞ!! ……何で山賊の子供がここに居るんだ?」


「構わないよ、撃ち殺せぇ!!」


「……なんか殺気立ちすぎじゃない? よっぽど見られたくない物でもあるのかな」


「……さ、さあ……それよりシャガ君。殺されちゃうよ、このままじゃ」


「んー……これくらいなら大丈夫だよ。おじさん達さ、『止まって』くれる?」


(……!? 腕が……体が動かん!?)


(小僧……!! 何を……)


 シャガが言葉を発すると、意思とは裏腹に、指一本すら動かすことが出来なくなる老人たち。

 無防備な姿を晒す相手なら焦る必要もない。

 それにも関わらず、慌てたように足を動かすのは、止められる時間が短いのだろうか。

 一目散に3人の元へ突っ込んでいくシャガ。

 握りしめた猟銃を力ずくで奪い取っていく。

 

「……喋れる。おい小僧それを返せ!!」


「嫌だよ。おじさん達、これで僕達を撃つつもりでしょ? ば~んって」


「バカ!! 銃をこっちに向けるな!!」


「おい、一旦引くぞ!! 他の皆を!!」


「ちょ!! それはダメだよ!! 『止まって』」


(……!! またあのガキ!!)


 再び動きを止められる老人達。

 このままでは埒が明かないので、拘束が解けたと同時に大声で助けを求めようか。

 チャンスを窺う彼らであったが、その機会が訪れることはなかった。

 奪い取った猟銃の柄の部分で、立て続けに頭部を殴打していくシャガ。

 死なないように加減された一撃は、意識を失わせるのに十分なものであった。

 

「……死んで……ないね!! よしっ!! タクススお姉さん、こいつらをその辺の茂みに隠したいから手伝ってよ!!」


「……え、ええ……分かった」


 手際の良さに上手い言葉が出てこないタクスス。

 老人たちの足首を掴み、引きずるようにして運んでいく。


「よし……これで暫くは大丈夫でしょ」


「……」


「ん? どうしたのタクススお姉さん」


「……い、いや……その、手慣れているなぁって思って……」


「当然!! お父さんの仕事を手伝ってるし、直々に指導も受けてるしね!!」


 得意げに胸を張るシャガ。

 微笑ましく思う反面、タクススにはある疑問が生まれる。


(シャガ君のお父さんって……何者なの……?)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 囮の役割を見事にやり遂げた2人。

 先ほどの物陰に戻ると、仕事を終えたローズ達が、白髪頭の老人を拉致し終えていた。

 口を防がれ呻き声を上げる老人。

 今朝、タクスス達が顔を合わせたあの老人だ。


「おやおや、そちらも無事でしたか。いや~怪我したんじゃないかとハラハラしてましたよ」


「シャガ、上手くやれたか?」


「うん、バッチリ。暫くあの3人は起きないよ」


「そうか。ならここから少し離れよう。騒ぎ声を聞かれたら気が付かれるからな」


 屈強な肉体で動物でも運ぶかのように、老人を肩に乗せ悠々と茂みの奥へと進んで行くクシノヤ。

 そんな彼についていく傍ら、ローズは先ほどの拉致現場を思い出していた。

 図らずもタクススと似たようなことを考える彼女。

 彼女にしては珍しく困惑していた。


(あのクシノヤって山賊……ただの山賊ってわけではなさそうですねぇ……身のこなしと言い、潜入の技術といい……私と遜色なく……なんなら私が遅れを取っているような? 何者ですかねぇ彼)

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