第15話 結託した両者

「―――ということですよ」


 今までの一連の出来事を、かいつまんで説明したローズ。

 それを聞いた山賊の大男は、眉間に皺を寄せている。


「……なるほどな。話は大体分かった」


「そうですかそうですか。では私達はこれで失礼しますね」


「失礼ね……お前ら気が付いていないのか?」


「はい?」


 顎で背後の雑木林を指し示す山賊の男。

 ローズは目を細め、その場所を観察する。

 シャガと言葉を交わしていたタクススも、それにつられて眼だけを動かす。

 

「……なんか……いますね」


「ですです。つけていたのですか、面倒ですねぇ」


「ふん、軍人とあろうものが後手を取るとはな」


「煩いですねぇ。アナタ諸共灼きますよ?」


「……出来る物ならな」


 そう言った山賊は、態勢を低くし巨体を木々の元へと前進させる。

 地にめり込むほどの豪脚でみるみる加速していくと、偵察していた男が判断に遅れる速さで、手の届く範囲に接近した。


「ひっ!? クシノヤ!?」


「シャガ!!」


「分かったお父さん!! 2人とも目を閉じて!!」


 クシノヤと呼ばれる山賊の大男が合図を送ると、息子のシャガは、ぽかんとしている彼女達の手首を掴み、背中を向けさせるように引きずる。

 阿吽の呼吸で動く息子に感心しながら、敵意を漲らせ銃を構える男に、クシノヤは怒号を浴びせる。


「『煌めけ』!!」


「!? ひか、目がぁぁぁ!?」


 言葉を言い終えると同時に、数㎞先にも届こうとする太陽の如き光が放たれる。

 事前に目を閉じ備えていた4人とは対照的に、一切の準備を行っていない敵は、目を焼かれたように狼狽える。

 無防備な敵から銃を追い剥ぐと、それを眉間に突き付けて尋問を開始する。


「死にたくなければ答えろ。……誰の差し金だ?」


「うぇ……俺は村の人間に言われて来ただけだ。ジジイ、そう老人みたいな奴だったよ!!」


「……この場にお前以外には?」


「居ない!!」


「他に隠していることは?」


「ない!! 頼む、助けてくれ!! 頼む……!!」


「残念だがその頼みだけは聞けないな……」


 躊躇いもなく引き金を引くクシノヤ。

 銃声を響かせると、眉間を貫かれた目の前の敵は、力なく倒れていく。


「お父さん!! 大丈夫!?」


「問題ない。やはりさっきの説明通りだ。あの村には何かあるな」


 駆け寄ってきた息子のシャガへ簡単に安否を答えると、右手を口に当て、何かを考えだす彼。

 遅れて近づいて来たタクススとローズは、死体をゴミでも見るかのような目で見つめている。


「見事に殺しましたねぇアナタ。現行犯で逮捕しちゃいましょうか」


「……そんな暇はないと思うがな」


「ほうほう?」


「お前ら2人は、あの村の住人に目を付けられたと見ていい。今後も追手を掛けることだろう。今も新たな刺客を送って来ている最中かもな」


「なるほどなるほど。それは面倒ですね」


「……俺もあの地域には用がある。丁度いい、協力してやろう」


「結構です」


「勘違いするな、弾除けを増やしたいだけだよ俺は。何が起こるか分からんからな」


 再度火花を散らす2人から離れて、様子を見守っているタクススとシャガ。

 彼らに聞こえないように、ひそひそ話をしている。


「……なんか……あの2人、相性が悪いね……」


「そうだな~俺のお父さん、基本的に不愛想なんだけど、特に今回は機嫌が悪いなぁ」


「……」


「あ、そうだ。お姉さんの名前を聞いてなかったよ。なんて名前?」


「……えっと……タクスス、って言うの……」


「タクススお姉さんね。これからはそう言うよ。しっかし厄介事に巻き込まれちゃったね俺ら」


「……そうね……本当その通りね……」


 憂鬱にため息を吐くタクスス。

 面倒なことになってしまった。

 腹を鳴らしながら、彼女は諦めにも似た感情を抱くのであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……帰ってこねぇなアイツ」


 湖のそばにひっそりと佇む建物。

 集会場のようなたまり場で、木造の床に尻を付け、刺客の帰りを待つ老人たち。

 加齢臭と古びた木材から漂う精油成分をブレンドさせた空気が、吸い込む者の気分を陰鬱なものにする。


「ちっ……!! めんどくせぇ……女に会った瞬間殺しとけば良かったものをよぉ~村長さん?」


「……あの時間帯に、この周囲に人がいるとは……気が動転していたんだよ」


「およし、アンタら……とにかくさ、目撃者は全員どうにかしないと……アタシたち捕まっちまうよ!?」


「分かってるよ、婆さん……いいかお前ら、遠慮はいらねぇ。女2人は問答無用で撃ち殺していい。それとだ……の処分が終わるまで時間がかかるからよ……頼むぜ? お前ら」


 静かに頷く白髪頭の集団。

 腐り果てた果実達は、後に躊躇いもなく処分されると、この時誰も思いもしないのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る